第八十九話 救世主(メシア)
前回のあらすじ
ベルゼブブの元で魔族として生きる道を選んだアリス。
リリスの魂を宿し、川崎の体にサタンの魂を呼び込み、かつ信じさせる事に成功する。
武井達は悪魔リリスを相手に勝利を掴むことが出来るのか?
リリスは、内藤と武井の攻撃をいとも簡単に受け流す。
(一度、東雲と組み手をやったが、あれは俺をあしらってたのか?)
学園での合気道部の練習相手として、武井は東雲に一度だけ付き合ったことがある。勿論、素手での稽古だったが、その時の彼女の動きとはまるで違っていた。
(レナスの補助もあるだろうが、これは人間の動きではない!)
ライフサーガ内において、剣聖と謳われた内藤の剣技を体術のみで易々と迎え打つリリス。
姿は普段の東雲京香だが、動きは機敏で、しかも二人の行動を三手四手、いやそれ以上先まで読んでいるかのような動きであった。
「あら、二人掛りでかすり傷も負わせられないの? こちらは手出ししないであげてるのに」
もう三十分近い闘いが続いている。いや、闘いではない。リリスにとっては一方的な遊び感覚だ。
二人の息も荒く、傍らで支援している沢村の回復魔法も底がついて来た。
(これ以上闘いが続けば、いずれ力尽きた時に武井くんか私のどちらかが死ぬ)
内藤の視界には体力、精神力を使う魔法を何度も駆使していた沢村が、倒れては必死で立ち上り回復魔法の詠唱を続けている。
(このゲームでは、回復魔法とはいえ、己の魔力が尽きた場合、魔力を自らの体力で補う筈だ。栞も死を覚悟している)
香川は岬の死を未だ受け入れ切れず、ただ呆然と座り込んでいた。
(私がやるしかない)
「武井くんっ!」
「なんですかっ! 内藤さん…うっ!」
内藤の言葉に気をとられたのか、武井はリリスの掌底を胸元に受けよろめいた。
「ほら、よそ見している余裕はないでしょ?もっと…もっと来なさい」
明らかに遊んでいる。止めを刺すのはいとも簡単だという表れだろう。
「私が囮になる。君は栞と香川くんを連れて逃げろっ!」
「な、何言ってるんですか! 二人でやっとなのに一人じゃ、無茶だっ!」
「おしゃべりなんて余裕ね。それに、一人足りともこの館からは逃がさない。そろそろ終わりにしましょうか」
リリスの言葉に二人は全身を激しいおぞましさに襲われた。鳥肌が粟立ち、生きた心地がしない。思わず引け腰になる。
「な、なんだよ。こんなの…こんなの人間じゃ太刀打ち出来るわけねぇよ」
武井は戦意喪失し、マサカドブレードを取り落とし、尻餅をつく。
「あぁ、この殺気は人間のものじゃない、まさしく悪魔だ。このゲーム内でもこれほどの敵はいなかった」
内藤は構えた剣を震わせる。いや、彼の全身が恐怖に震えていた。
「はぁ、はぁ…か、香川さん! 二人を助けて! お願いっ!」
沢村は香川にすがりつく。
「……」
しかし、沢村の呼び掛けにも香川は魂の抜けたように、応えはしなかった。
「お願いっ! 助けて! 誰でもいいから助けてよぉ!」
泣き叫ぶ沢村の声だけが館に響く。
バンッ!
その時、その声に呼応したかの如く突然、館の扉が開け放たれた。
「はぁ、はぁ…やっと追い付きましたわ。全くもって逃げ足の早い人ですわね」
「ん?」
リリスはその声に振り向いた。
「せ、生徒会長っ!?」
武井は、おそらく全力で走ってきたであろう響子を視界に認めた。
彼女は両手で扉を大きく開け放ち、月の光を背に立っていた。
「皆さん、お困りのようですわね。わたくしが来たからにはご安心くださいませ! おーっほっほ!」
リリスは響子に対して構えをとった。
「な!?」
(生徒会長を警戒している!?)
「あー、はいはい。レナスの情報に出て来ましたわ。東雲さん、あなた運悪く魔族でいらっしゃいますわね。残念ですが、ご存知の通りわたくし、聖騎士ですの。聖騎士の能力知らないわけはありませんわよね。そう! デビルズキラー、別名悪魔殺しですわ!」
響子は腰に差していた二本の剣を抜いた。
(うわっ! 二刀流かよっ!)
武井の驚きも無理はない。かの剣豪宮本武蔵ですら、二刀流を極めるのにかなりの年月を費やしたのだ。女子高生が極める事など皆無に等しい。が、レナスのアビリティ表示には『二刀流皆伝』が煌めいている。
彼女の持つ剣もレア武器である。
一つは、太陽の如く熱い熱気と光を帯びたサンブレード(太陽の刃)。
もう一つは、月の光を刀身に込め、魔を打ち払う銀の輝きを持つムーンブレード(月の刃)。
いずれも魔族に特化した強力な武器である。
「さて、いよいよわたくしの真の力をお見せする時が来ましたわね。覚悟はいいかしら!」
いよいよ生徒会長お出ましです。
謎の実力者(?)響子の実力はいかに?
次回、湯里響子と大悪魔
お楽しみに。
今回もご覧頂き、ありがとうございました。




