第八十七話 残された者達
時空の狭間に一人落ちていった岬。
かろうじて東雲に救われたサタン。
リーダーである岬を失った選抜メンバー。
アイドルとそのマネージャー。
サタン戦、最終回です。
再び時が動き出す。
岬のエクストラスキルによる時間停止内は、全ての者が体の自由を奪われる。が、その周囲の光景ははっきり見てとれた。
岬とサタン、そして東雲の行動の一部始終を見ていた者達の感情は様々であった。泣き出す者。怒りにうち震える者。呆然とその場で立ち尽くす者。様々な感情が館内に入り交じり、一つになっていた皆の心を掻き乱している事に誰も気付かない。
「み、岬さん…私はあの人に何もして…あげれなかった…」
香川は生気を失ったように床に両膝をついて天井を仰いだ。沢村は彼の姿、そしてレナスによる彼の深い心の底を見て涙が止まらなかった。内藤はそんな彼女の後ろ姿を哀れみ、瞳を閉じた。
「東雲。そいつはもう川崎じゃねぇんだよ…ちくしょうっ!」
武井は床を拳で殴りつけた。一見、サタンの姿は川崎本人と見てとれる。
「な、なんで学園長を助けなかった東雲っ! お前、レナスでそいつが川崎じゃねぇの分かんだろうがよっ!」
立石は口から唾を飛ばしながら東雲に詰め寄る。東雲は立石を無視して、川崎の体を奪っているサタンを介抱していた。
先程の岬の能力により、サタンは肉体よりも精神的に苦痛を感じていた。
ちっぽけな人間風情に自身の生死を握られた事に不安と驚き、憎しみ、後悔、そしてそれらは彼に決意を与えた。
(全ての人間を根絶やしにしてくれる。ルシファーへの復讐はその後だ)
「サタン様、ご無事で何よりです」
サタンは片腕で東雲の首根っこを掴み、持ち上げた。
「人間め。我を助け、命を乞うというのかぁ!」
怒りに我を忘れたサタンをなだめるように、東雲は両手をサタンの腕に添えた。
「む? 貴様は、リリスか!?」
東雲…いや、悪魔リリスは解放され、床に片膝を付き、王への礼儀を示した。
「はい。今、この時を心待ちにしておりました。ルシファーに封印された貴方様の復活の為、この身を…魂を捧げ尽力して参りました」
「お前はベルゼブブに討たれたとばかり思っていたが…そうか、魂が二つあるとは…成る程、そういう事か」
サタンは彼女の心を見透かしていた。一つの体にリリスと人間の心を宿す彼女の心を。
「てめぇ、何ごちゃごちゃ言ってやがる。東雲、俺達を裏切りやがって。お前も学園長の仇だ、まとめて相手してらるぜ!」
ブンッ!
サタンは立石を背にしたまま、軽く片腕を横に凪いだ。
ゴッ!
「がはっ!」
目に見えぬ圧力により、立石の体は彼の意思に反して数メートル背後の壁まで吹き飛ばされる。
バンッ!
激しく背中を打ち、立石は口から血を吐いて壁づたいに崩れ落ちた。
(…なんだよ…あれ。レナスの防護フィールドさえもあっさり破壊しやがった…)
「へ…ありゃ、反則だろ…」
その言葉を最後に立石はがっくりと項垂れ、動かなくなった。
「立石…先輩っ! んの野郎っ!」
「立石さんっ! こいつっ!」
武井と内藤はお互い武器を構え、サタンに対峙する。
「サタン様、残りの人間いかがしましょう?」
サタンは背後の二人には気にも止めず、傅くリリスに話しかけた。
「お前の好きにするがよい。我はこの世界がまだよく理解できておらぬ。本来の力を取り戻すまで、暫くはこの地に留まる事にする。後は任せるぞ」
「御意」
サタンは膝に力を込め、上空に飛び上がり天井を貫き去っていった。あまりに凄まじい速さで、二人はただ突き抜けた天井の先の夜空を見上げたまま立ち尽くしていた。
「さて、貴方達の相手は私がして…あ・げ・る! いつでもいいわよ、さ、かかってらっしゃいな」
サタンに秘められた本来の力とは。
悪魔リリス、彼女に宿る二つの魂とは。
岬に続き、立石を失い、残された者達。
彼らに未来はあるのか?
今回もご覧頂き、ありがとうございました。




