第八十六話 岬の決意
お久しぶりです。
久々の更新と相成りました。
今回はサタン戦の続きとなります。
お時間ございましたらお付き合いください。
「はぁはぁ…これじゃきりがないぜ」
汗を拭いながら、立石は肩を上下に揺らす。
あれから10分が経過していた。事態はあの状況から更に悪化していた。
サタンに向かって拳を振るった立石だったが、彼の拳は空を切った。空振りだ。
「なんだ?今、体をすり抜けやがった?」
妙な違和感を感じていた。立石の動体視力は他の誰よりも優れている。その立石が捉えきれなかった。かわされたのではなく、存在自体がその場にないような感覚を覚えていた。
「ふ、やはり人間ごときに私が相手をするまでもないか。出でよ、闇騎士よ」
サタンの前で突如闇がうごめき、先程の廊下で見た騎士の姿が浮かびあがる。中世騎士の鎧兜にグレートソードを装備した漆黒の騎士。
「あれは闇騎士だ!立石さん、気をつけて!奴は生半可な打撃は通用しない!」
内藤が叫ぶ。
「はぁ?俺のパンチが生半可だと?いいぜ、見せてやるよ」
後退したサタンの前に立ち塞がる一体の鎧騎士に標的を変える。
「うぉぉっ!」
ガンッ!
右のコークスクリューがダークロードの胸部にヒットする。
「へ、どうだ…」
ガラガラガラガラ…
鎧は音を立てて崩れ落ちた。
「あん?案外呆気ない奴だな……おわっ!?」
今しがた崩れ落ちた筈の鎧が、不気味に浮き上がり元の騎士の姿に戻る。
「ダークロードの自己再生能力だ。あの鎧には生命がない。魔力で動いているんだ」
「内藤さん、解説どうも。それならこれはどうだっ!ハリケーンクラッシュ!」
左足を前に出し、地面をこするような超低空から振り上げた右のアッパーが唸りをあげ極小の竜巻の渦を作り出す。
(ほう。あれは魔力によるものではないな。ただの殴りではない。かなりの速度で腕を振動させながら真空刃を渦にしておるのか。人間ながら面白い事をする)
サタンは腕を組み、細かに立石の技を分析していた。
「いっけーっ!」
ゴウッ!
ダークロードは竜巻に飲まれ、空中で体を四散させた。細かな真空刃はその鎧のパーツごとにまとわり付き、粉々に粉砕した。
「やった。流石先輩だぜ!」
武井はまるで自分が仕留めたかのように喜びを抑えきれずガッツポーズをとった。
「はぁはぁ…かなり体力を使ったが、再生出来ないほど粉々に砕いてやったぜ。次はお前の番だ、いけすか野郎!」
ビシッとサタンに人差し指を突きつける。
サタンは不敵に笑う。
「くくくっ!お前は先程の通路に鎧騎士が何体いたか覚えているか?答えは五体だ」
「!」
立石の目の前に、更に四体のダークロードが召喚された。
(マジかよ。さすがに今の技はそうそう何度も使えねぇ)
「あぁ、確かガーゴイルも四体いたな。そら」
サタンが魔力を込めると、廊下の先から翼を生やしたくちばしと爪の鋭い悪魔が飛来する。ガーゴイルだ。彼らは王であるサタンの手足となり、老若男女問わず人間を襲い、人類に混乱をもたらした悪魔である。
「さっきの石像の化け物かよ!まるで手品みてぇな事しやがるぜ」
多勢に無勢。立石だけにこの数は無理があった。
(壁になるっつったけどよ…どこまでもつか?へっ、何だか楽しくなってきやがった)
立石は逆境に立たされた時こそ燃える男だった。
「てめぇら、全部ぶっ倒してやるぜ」
ファイテングポーズをとりながら、迫り来るガーゴイルとダークロードを待ち受ける。
「スターライトアロー!」
「!?」
立石の後ろから放たれた光の矢が、一匹のガーゴイルを貫いた。雄叫びを上げ、光の中にその姿を消し去った。
「炎舞螺旋斬っ!」
真っ赤な炎を刀身にまとわせ、目にも止まらぬスピードで一体のダークロードに無数の回転切りを放つ。ダークロードはその切り口から広がる炎に包まれ消えていった。
「あ、あんたら…」
「立石さんだけに任せておけませんから」
「栞も私も今はあなた方のパーティの一員です。ここは協力させていただきますよ」
沢村と内藤は次に来る敵の攻撃に備えつつ、立石の横に肩を並べた。
(二人ともいい動きだ。レナスの補助も効いているみたいだな)
岬は振り向き、背後の香川の様子を伺う。
香川の体から蒼い炎のようなものが立ち上っていた。彼は構えた弓の矢を実際の矢ではなく気を操り矢を形作っていた。
閉じていた目を開く。
(香川、お前の力を見せてやれ)
「はぁっ!次元弓弐式雷電龍翔矢!」
ギャオォォォォッ!!
まるで龍が雄叫びを上げるかの如く、稲妻が館内を駆け巡る。
(む?)
その龍の如き稲妻は仲間を避けるように飛び交い、的確にガーゴイルとダークロード、そしてサタンを打った。
グォォォッ!
ギィヤァァっ!
「す、凄いっ!」
「お、久し振りに見たな。あいつの本気モードを」
武井と立石は眩しい光を手で遮りながら、光の先を見ていた。
打たれた魔物達は立ち上る光の柱の中で断末魔を上げながら影も形も残さず消滅した。サタンを残して。
「な、あいつ不死身かよっ!」
「……化け物め」
香川は口惜しい気持ちで、弓を強く握りしめる。
サタンはマントで体を包んでいた。マントそのものにも、一つの綻びもない。
漆黒のマントを翻し、サタンは顔をあげる。
「は、はははっ。いいぞ、いいぞ人間。我が封印されている間によくぞここまで成長した」
狂喜に満ちた笑い声で両手を大きく開く。
「我を楽しませてくれた褒美に見せてやろう。まだ、三分の一程度の力しか出ぬが、お前達人間には充分だ。一瞬にして全てを消し去る魔王の力をな」
先程までのサタンとは桁違いに、両手に集中する禍禍しい稲妻を走らせた漆黒の玉は、強く濃い魔力をひしひしと感じさせた。それは通常の人間なら発狂するほどの邪気を帯びている。
皆、圧倒的な力の差をひしひしと感じていた。あの立石さえ、声を出すどころか絶望で思考が停止していた。
そんな中、一人だけ抵抗する者がいた。岬である。
彼は聖剣エクスカリバーを握りしめ、一歩、また一歩と足を踏みしめ、香川、武井、立石、沢村、内藤の背を越えてサタンの目の前に立って叫んだ。
「我は命じる。神の、聖霊の与えし聖剣エクスカリバーよ。全ての悪しき力を払う力を与え給え」
(エクスカリバー…とな?)
エクスカリバーは岬の魂に応えるかの如く、強大な光の魔力を発した。それは、サタンの魔力と激しくぶつかり合う。
「ふ、人間よ。神と魔王の力がぶつかればどうなるか分かっておるか?」
「?」
サタンはニヤリと口の端を歪め笑った。
「均衡した力はやがて、お互いに跳ねかえるのよ。お主のような人間にはそれが耐えられず死に至る。時間の問題よ」
「…楽、…は…」
岬は口ごもる。
「死ぬまえに神の御言葉でも唱えるか。まぁ、それもいいだろう…む?」
(この人間は…意思を捨てておらぬ!?)
岬の瞳に、迷いを断ちきる光が宿る。
「サタン!お前は私の命に代えても止めてみせる。エキストラスキル『異次元転移』」
岬とサタンを除き、全ての時が止まる。
「な?これは何だ!」
彼らの間の床にぽっかりと『無』の空間が口を開いた。まるでその穴は、彼らを欲するかのように引き込もうとする。
「グォォォ!」
「この空間の先は、あらゆる次元から見放された閉ざされた空間だ。私の魂と共に貴様も永遠に彷徨うことになるだろう」
(この我が人間風情に道連れだと!)
しかし、サタンの魔力をもってしても抗えない。、亜空間への口は彼らを誘う。
岬は目を閉じた。
(さらばだ、みんな……そして神楽。後はお前達に託すぞ)
岬とサタンの体が半分まで吸い込まれたとこで、すっと片手が差し伸べられた。 見覚えのある長い黒髪に、学園の制服。
「し、東雲か?何故ここに」
「貴方はまだ、やらなくてはならない事がある」
低く落ち着いた声。
(私は…まだ、死ぬわけにはいかない)
岬は手を伸ばした。
が、彼女が差し出した手はサタンの腕を掴んだ。
(な、何故だ?)
自問自答する岬を尻目にサタンは東雲に引き上げられる。
「何故だ、東雲ぇぇぇぇ…」
穴は岬を飲み込むと満たされたように、その口を閉じた。
異次元に飲み込まれた岬。
サタンを助けた東雲の目的とは?
次回もお付き合いくださいませ。
今回もご覧頂き、ありがとうございました。




