第八十一話 絶望への序曲(オーヴァーチュア)
平和な時間も束の間、新たな恐怖が彼等を襲う。
短いですが、お付き合いくださいませ。
ボーン、ボーン…
柱時計が0時の刻を告げる。
「…少し眠っていたか…」
ソファにもたれかかっていた岬が腰を上げた瞬間、館内の全ての明かりが消えた。
「キャッ!え、停電…?」
「いや、この世界には電力供給はない。館内の明かりは全て魔力を伴っていたはずだ」
内藤の声に皆、神経を張り巡らせた。内藤、沢村、岬、香川の四名は皆、応接間に待機していた。今回の事件の黒幕と思っていた川崎がいなくなったとしても、侵入者の件もあり、今夜はお互いに同じ場所に待機するという岬の案を受け入れた結果である。
立石と武井は着替えと武器、旅に必要な装備を取りに一旦部屋に戻っている。
「栞…使えるか?」
「はい。光球っ!」
沢村の両手の平に光の球が現れ館内を照らす。館内全域とはいかずとも、応接間の周辺は視認できた。
「お、助かったぜ」
「お待たせしました」
通路から立石と武井が駆けてくる。
「いきなり真っ暗になりやがって。何が起きたんだ?」
「こちらもまだわからない。…な、何だ、あれは!?」
岬の視線の先に川崎の遺体がある。皆、全身に血の凍るようなひどく冷たい何かを感じていた。
ほの暗い漆黒の炎のようなモノに包まれた川崎が、まるで操り人形の如く何かに引っ張られるようにゆっくり立ち上がる。
「バカな!?川崎は確かに私の矢を額に受けたはず!」
顔が持ち上がる。
「ぐ!?」
それは川崎の体であり、川崎ではなかった。闇の中に光る瞳は、この世に生を受けた者全てを死の淵に連れていくようなおぞましい圧力を与えた。
「さすがに人間の体は窮屈なモノだな。我の魂を宿すにはやむを得ぬか…」
皆、恐怖に膝が震えた。本能が告げている。この場を逃げなければ…と。
しかし、武井は腹に力を入れて叫んだ。
「貴様っ!何者だ!川崎の体をどうする気だっ!」
「…人間風情が。川崎…あぁ、これの事か。フフ…」
川崎であった遺体は手の平を上に向けて差し出す。そこには、ゆらゆらと力なく震える青い炎…人魂があった。
「シゲ…」
おそらく川崎の魂である人魂は、プルプルと震えながらゆっくりと武井に近づこうとする。
「トシ…トシなんだな!」
「や、やめろ!武井っ!」
岬の手を振りほどき、武井は川崎の遺体だった者に向かって走り出した。
が、武井の手が人魂に届く前に、川崎の体を借りた何者かはそれをつまみ、口に放りこんだ。
咀嚼する。川崎の断末魔をひねり潰すように…飲み込んだ。
「久し振りの魂だ。少しは我の力を取り戻す足しにはなろう。安心しろ。お前の友の魂は永遠に我と共にある。輪廻転生の輪から外れてな」
「き、貴様ぁっ!」
武井はマサカドブレードを抜刀した。
「ふふ。愚かな人間よ、お前は我の退屈しのぎができるか?このサタンのな」
川崎であったモノ…サタンの瞳が怪しく光った。
新たな敵、サタンが現れた。
ラスボス級の敵の出現に彼等はどう立ち向かうのか!?
次回、激戦。
今回もありがとうございました。




