第七十九話 友との別れ
ついに武井VS川崎戦、決着です。
どうぞご覧ください。
ボーン、ボーン…
柱時計の針が23時の時を告げる。
一進一退の攻防が続き、双方とも疲労はピークを越えていた。
「…トシ。いい加減、眼を覚ませよ」
「…武井君、いい加減、死んでくれないかな」
武井は体の隅々に裂傷を負って、おびただしい血を流している。一方、川崎は武井の拳で頬に痣を作っているだけである。誰が見てもこのまま続けば、武井が先に倒れる事は明らかだった。
「我慢出来ねぇ。俺は行くぜ。止めんなよ!」
「待て、立石っ!」
立石の背中に手を伸ばす香川。だが、それよりも早く内藤が口を開いた。
「あなた方がお仲間に刃を向ける辛さは心中お察しします。ですが、私達にもそろそろ本当の事を話して下さいませんか?」
深紅の鎧姿の内藤は、腰に差した剣の柄を握りしめて言った。傍らにいる沢村は彼の腰にしがみつき先程から震えている。
「お宅らには関係ねぇよ!待ってろよ武井っ!」
「タイムフリーズ(時間凍結)!」
時が凍りつく。表現としてはありえないが、この館にいる全ての物体の時が止まった。岬のエクストラスキルである時空系スキルの一つである。三分間だけ、岬を中心とした半径10メートル程の円内にいる物体の動きを止めるスキルである。この力は時間内であれば重力すら無効化してしまう。水の流れや、風、磁力でさえ。ただ、欠点としては使用者の体も自由を奪われるスキルだった。
立石は片足立ちで走りかけたポーズのまま固まっている。武井と川崎ですら動きを止めていた。
「(岬さん、これを使うということは…)」
「(あぁ、もう彼等にも知ってもらうべきだと思う)」
意識だけは制御できる彼らはレナスの通信機能を利用し、会話できた。レナスのあらゆる機能はスキル下に置かれず、絶対条件として最優先になっている。
おそらく、動きを止めた内藤と沢村はこの状態に戸惑っているはずだろう。
リーダーである岬はレナスのシステムの一つ『共有化』により、レナス外の人間とも、ある程度の機能を共有できた。この能力により、武井と川崎を除くメンバーと二人に通信を開いた。
「(内藤さを、沢村さん。二人とも聞こえるか?)」
「(え?)」
「(この声は、岬さん?一体これは?)」
驚きと不安混じりの声の波長が脳内に響く。
「(詳しくは、時間がないので私の記憶を一部送る。多少、痛みはあるが危害はないので、安心して欲しい)」
二人の脳内に、わずかな時間だが電気が走り抜ける感覚が起こる。それと共に岬の体験した最近の記憶が二人の脳に補完された。
「(あ、ああ…)」
沢村は涙する。涙は流れないが、心の中で泣いた。
「(そうですか。これが、あなた方の目的でしたか…)」
「(信じてもらえるだろうか。君達も危険に巻き込んでしまう事になるが)」
内藤は躊躇いつつも、答えを出した。
「(先程も申し上げた筈です。彼女を元の世界に返せるなら、私に出来ることは何でもやりますと。勿論、協力いたします)」
「(私も…出来ることはやるわ)」
「(ありがとう。二人とも。さて、そろそろ時間切れだ。皆、武井を援護するぞ)」
「何だ…?時間が止まったのか?」
「何らかのスキル…か?」
岬の時間凍結を体験したことのない二人は違和感を感じていた。しかし、少しの隙がお互いの致命傷に繋がる事は二人とも理解している。
先に動いたのは川崎だった。
「さて、そろそろお遊びもおしまいにしよう。これで、最後!特大の影刃を味わえっ!」
(くそっ!!一か八かだ!)
川崎に向かって体ごとぶつかる。
「玉砕覚悟の体当たりかな?無駄だよっ!影刃っ!」
漆黒の刃が体を切り裂いた。無惨にも、大量の赤い血が床一面に拡がった。
「ついにやった。…僕の勝ちだ。武井は死んだ、あはは!」
しかし、切り裂いたのは武井ではなかった。首のない死体、先程の暗殺者の死体であった。
「俺はここだっ!」
武井は、部屋の中にあった死体に向かって自分を目標とした重力落下をかけたのである。武井が窮地に目覚めて発動させた重力操作能力の進化であった。
川崎の背後に回った武井は後ろから羽交い締めにする。
「観念しろ、トシ!」
「くっ!」
川崎は身をよじらせ、縛りを振りほどこうとした。しかし、武井は渾身の力で彼の細身な体の自由を奪った。
コッ!
その時、一陣の風が吹いた。
川崎の額に一本の矢が突きたった。香川の一矢であった。
力なく川崎の首が項垂れる。
「し、シゲっ!」
羽交い締めを解き、彼を抱き上げる武井。軽い、武井にとって余りにも軽い体だった。即死だったのか、既に呼吸は止まっている。
武井は顔をあげ、香川を睨んで叫んだ。
「もう終わってたんだ!なんで殺すんだよっ!」
涙ながらに訴えた。香川は弓を下ろし、ただ黙って武井を見つめている。
「川崎は…操られてたんですよ!俺には分かる!こいつは悪い奴じゃないんですよ…なぁ、川崎…」
立石がゆっくりと武井の元に足を運んだ。涙を流し口をへの字にした武井の目線までしゃがみ込んで、笑顔で口を開いた。
「なぁ、武井。…歯ぁ、食いしばれよっ!!」
バキッ!
立石の右フックが、武井の頬を殴り飛ばした。
「バカ野郎が。こいつは少なくとも二人は人を殺してるんだ。春川が殺されたのを忘れたのかよ。お前にとって、こいつがどんぐらい大切な友人だったのか知らねぇ。だけど、お前の体見てみろよ。こいつは本気でお前を殺しに来てんだぜ。殺らなきゃ殺られる。これが理解できてねぇなら、もう一緒にはいられねぇ。置いてくぜ」
武井は黙っている。立石の言い分も間違いではない。
「武井。立石のいう通りだ。私達には大切な使命がある。一時の感情に流されるのなら、私はたとえ仲間であっても見捨てるつもりだ。この事が理解できないようならここに残ってくれ」
岬の言葉が胸に染み入る。分かっていた。理解していたつもりだった。しかし、友の死に顔を見るのは高校二年生の彼にとってあまりにも辛いものだった。
最後は呆気ない終わりを迎えた川崎。
友との別れに武井はどんな選択をするのか。
果たして、今回の事件はこれで終わりなのか?
次回、お楽しみに。
ご覧頂きまして、ありがとうございました。




