第七十五話 川崎利春
戦闘の合間ですが、川崎のお話入ります。
何故、彼が狂喜に走ったのか。
今回と次回、2回にわけて回想になります。
どうぞご覧ください。
武井と川崎は明勇学園に入学する。
何故か、学園には剣道部がなかった。彼は一年生でありながら同好会を立ち上げる。武井の熱心な勧誘活動もあり、一ヶ月ほどで部活動へと昇格した。
中学の頃は大会に出場する事を拒んでいた武井も、高校生となると他校との練習試合や大会に出場する必要性を感じていたのだ。
一方、引っ込み思案な川崎は武井とクラスを分かれ、また一人きりの高校生活を送る事になる。幸い、趣味で立ち上げた同好会が部活として認められた。不思議と数人の部活動参加者が他のクラスから募って来たのだ。これが、武井の呼び掛けだった事は川崎に知るよしもなかった。
ある日の放課後。
いつも通り、川崎が電脳部へ足を運ぶ途中、廊下で胴着姿の武井の姿を見かけた。
「あ!シ…」
川崎は声を掛けるのを躊躇った。
何故なら、彼の周りには笑顔で話しかける数人の剣道部員がいたからだ。
剣道部の主将として、その腕前や指導、竹を割ったかのようなさっぱりした性格など同級生だけでなく、上級生にも男女共に人気があったのだ。
川崎は電脳部の部長であるが、まともに部活動に取り組む生徒より、とりあえず部活動に参加しておいた方が教師の受けがよいという理由の者が多かった。部活動に専念する者もいたが、電脳部に来るのは稀で、自宅の高スペックのパソコンを使用する為に帰宅する事が多々だった。
電脳部の扉を開けると、部員は全くおらず、いつものようにパソコンの前でパソコンゲームに熱中している中学の制服を着た女子生徒が一人いるだけである。
川崎は自分の机に鞄を下ろし声をかけた。
「千晶くん、こんにちは」
「お!川崎さん、お邪魔してますよぉ。今日も一人ですかぁ?」
加納千晶は中学の授業が終わると、こうして電脳部に遊びに来ていた。
「千晶くんはパソコン…いや、ゲームが好きなんだね」
「はい!でも、家はお金ないからパソコンやゲームがなかなか買えなくって。もしかして、お邪魔ですか?」
うやうやしく、上目遣いで見つめられると川崎も嫌とは言えなかった。
「まぁ、うるさくしなければ、空いてるパソコンは使ってもいいよ」
「ありがとうございます!よぉっし、やるぞ!」
これが普段の川崎の日常であった。
次第に、川崎はそんな彼女に親近感を抱いていた。
しかし、時折、自作のゲームをプレイしてもらったり、格闘ゲームに付き合ったりしたが所詮それまで。
奥手である彼には、彼女になって欲しい等と言い出す勇気はなかったのである。
ましてや断られでもしたら二度と来てくれないと危機感を抱いている事の方が大きい。
(自分の事を、単に親切なお兄さんとして見てくれればいい)
そんな気持ちでいた。
しかし、ある時を境に彼の心に陰りが出来た。
学園に、来てからも遊びに来る彼女に精一杯の気持ちを伝えようとした。
「千晶くんは部活まだ決めてないのかい?よければ…」
「あー、実は幽霊部員だけど入ってるとこがあるんです」
その時、部室の扉が開き、一人の男子生徒が顔を出した。
「こんなところにいたのかよ。今日はお前の為にわざわざ姉さんに晩飯当番代わってもらったんだぜ。早く行くぞ!」
「み、充之!あ、そうだ!あたしからお願いしてたんだっけ。今、行くね。部長、ごめんなさい。約束なので失礼します」
「あ、あぁ」
二人は部室を後にする。
(千晶くんももう高校生だし、彼氏ぐらい…)
何かいたたまれない気持ちになった。
廊下では。
「ったく。爺ぃの誕生日プレゼント選ぶのに付き合わせんなよ」
「だって、男の人に何買ってあげたら喜ぶかわからないんだもん」
「俺の誕生日プレゼントにくれたブヨブヨしてるスライムでいいんじゃねぇの?」
「ばぁか!お爺ちゃん、あたしがあげた物何でも頬ずりするんだよ。あんな物あげたら…」
「しわしわにベロローン…って、そこかよ!」
川崎はふらふらと椅子に座り込み、机の引き出しに手を伸ばした。
開け放たれた引き出しの中には『ライフサーガ体験版』と印刷されたパッケージとヘッドディスプレイがあった。
ライフサーガの体験版を手にしていた川崎。
次回、核心に迫ります。
今回もご覧頂き、ありがとうございました。




