第六十五話 LINK(リンク)
今回、非常に複雑で分かりにくい部分もあるかも知れません。過去のお話(スピカの記憶)などを合わせて読むと解りやすいかも。
ではお時間ある方、ごゆっくりどうぞ。
「心構えはできたかの?」
「はい、いつでも」
椅子に腰掛けた柚子の頭部に、いくつものセンサーが光の帯を照らしていた。
スピカは酒呑童子戦の後、レナスの内部システムと柚子の関係性を昼夜問わず調べていた。まだスピカの知らないレナスシステムの秘密を解くには、柚子とレナスをLINKさせる事が必要だという結論に至った。
「これから先はワシもどうなるか分からぬ。最悪、命の危険も考えられるが…」
「構いません。私はレナスに選ばれたのだから…迷いはありません」
柚子はあの時の声を思い出していた。優しく包み込むようなレナスの声。
(意志を継ぐ事が出来るのは私だけなんだ)
「では行くぞ」
スピカはスイッチを入れる。光の帯が乱反射を繰り返し、柚子の周りを明るく照らし出した。
「こ、これは?」
あらかじめ、脳波を測定する装置として利用したのだが、思わぬ異変が起きた。
光の帯は目の前のモニターに集束し、画面上に一人の男の顔が浮かび上がる。
「す、すすむおじちゃん…」
泣き声は押し殺しているが、まるで子供が泣き出すかのように涙を目一杯溜めたスピカが声を洩らす。
まさしくそれは、スピカが子供の頃に目にした若き日の進であった。
「スピカか。君で良かった」
まるで、モニターからこちらを見透かしているかのように進は答えた。
「い、生きてたんだ?あたし、ずっと心配してたのよ。おじちゃん…」
柚子はいつもと違う雰囲気のスピカとモニターの中の進を交互に見比べている。
(違うの。彼は進さんじゃない)
柚子には分かっていた。勿論、進が年齢の割には若く見えることもあるが、レナスとLINKした柚子にはある程度、理解はしている。
「スピカと一緒にいるのは……御堂柚子さんだね。やっぱり私の考えは正しかったようだ」
「え?おじちゃん、柚子を分かるの?」
モニターの中の進は頷く。
「勿論さ。彼女がいるから、私はここに現れたのだから」
珍しく理解に追いつけないスピカがいた。
「いいかい。落ち着いて聞いて欲しい。私はもういない」
「え!?いない?おじちゃん何を言ってるの?」
ショックでスピカには進の言葉が全く理解できない。いや、理解したくなかったのだろう。
「スピカ、私の想像が正しければ、岬か君が過去の私に会いに行った筈だ。違うかい?」
「………」
スピカは黙りこんでいた。理解したくない。しかし、理解しなければならない辛さに身を震わした。
「私は訳あって、過去に飛び、自分自身を消去したんだ。それは君達、人間にとっては『死』と呼ぶ行為だ」
「な、何を言ってるのか…」
スピカの腕を柚子が掴んだ。柚子の真剣な眼差しは真っ直ぐにスピカの瞳に映り込む。
「すまぬな…ワシらしくなかったわ」
スピカは数度頭を振り、改めてモニターの進に視線を向けた。
「理解した。進おじちゃん…いや、貴方は進さんのコピー」
「そうだ。理解してくれて助かる。もし、彼本人なら君を抱き締めて涙したに違いないかな」
途端にスピカの表情が険しくなる。
「戯れ言はよい。こちらも聞きたい事が山のようにある。時間が惜しい」
進のコピーは非礼を詫びるように一礼した。表情に変化はない。彼は再度口を開いた。
「分かった。私は彼が命を絶つ前に造られたコピーだ。勿論、肉体は存在せず、彼の記憶や癖、思考を抽出して造られたデータでしかない。私には役目が与えられている。それは、御堂柚子。君をレナスとLINKさせる事により、レナスの力を最大限引き出す為にだ」
ここまでは二人も理解していた。しかし、次の言葉は柚子もレナスから与えられていない記憶であった。
「被験者、御堂圭一。君の父だ」
「お…とうさん?」
柚子は、突然、父の名前を出された事に声がかすれ、喉の渇きを覚えた。
「被験者じゃと?柚子の父親がどうしたというのじゃ?」
「知っての通り、彼は交通事故により亡くなった。が、彼の脳はまだ生きていた。私は、彼の脳をいち早く摘出し、レナス開発にあたっての被験者として利用した」
柚子の目から涙があふれる。
「どう…して…うっ…う…」
嗚咽が止まらない。スピカは優しく彼女の背を撫でた。
「彼の脳を利用したのは、レナスの初期開発段階にあたってだ。レナスは初期、時空間転送装置としてはまだ未開発段階で、せいぜい時間を越えず、数メートル先の空間転移までの技術でしかなかった」
「まぁ、それも画期的ではあるが。ワシの理論が正しければ、物質のデータを正確にコピーし、転送先の空間に全く同じデータを送るわけじゃな。このままだと、同じ人間が二人に増えるわけで、転送前の者は消去する事になるのかの?」
スピカは持論を展開する。
「その転送先にデータだけでは転送できない。肉体その物を同時に構成、展開しなければならない。それを可能にしたのが、御堂圭一…地球外生命体である人間の祖先…人が神と呼ぶ者だ」
「!?」
「お父さん…が、神?」
理屈は分かる。だが、神が実在する事にスピカは抵抗した。
「バカな!この世界に神などいるわけがない!与太話だ!」
コピーは答えた。
「進は幼い頃の君に、昔話をしなかったかな」
スピカは幼き頃の記憶を呼び戻す。
「確かに幼い頃に進おじちゃんに造り話として聞いた事があるが…まさか!?」
「そのまさかだ。実在するのだよ、神は。進はある考古学者の協力を得て、古代の歴史を紐解き、証明した。そして、偶然にも御堂圭一は現在まで生き続けた神…地球に降りたった最初の地球外生命体の一人だった」
あまりに衝撃的な話に二人は息を飲むしかなかった。
「彼の脳内には、この地球に降り立った際の空間転移装置の設計図の記憶が残されていたのだ。おそらく開発者の一人だったのだろう。彼の記憶を元にレナスは開発された」
「だから…柚子が必要だったんじゃな」
スピカはただ震える柚子を寂しげに見つめた。かけてやる言葉が見つからない。
「御堂圭一の記憶を元に造られたレナスの能力を最大限に引き出すには、その子である御堂柚子が必要不可欠だった。その為にあらかじめ、その『時』が来た時に御堂柚子をレナスの転送空間へ連れ出す必要があった」
「それが今回の酒呑童子事件と繋がったわけじゃな」
(私は…私の運命は決まってたんだ)
決心していたはずなのに、柚子の気持ちは揺れていた。父の存在、あらかじめ決められていた自分の運命。
だが、スピカは柚子の震える肩を抱き締めて言う。
「こう思っておるのじゃろ?『私の運命は決められていた』っての。いや、ワシは逆じゃな。『運命を決める選択肢を与えられた』と」
柚子は顔を上げてスピカを見た。眩しい程の笑顔と白い歯が光る。
「悩んだり考えたり立ち止まる事も必要さな。しかしの、1秒先の未来だって予測は出来ても誰にも分からないのじゃ。その証拠に、レナスは過去に行けても未来には行けぬ。まだ、誰も経験した事のない未来にはの。まだ、存在してない世界には行けないのじゃ。だから、お主一人が背負い込むのではない。皆のLINKで作るのじゃ。新しい世界…未来をな」
LINKって絆って意味もあるんですよね。
本当にここまで来るのに時間がかかりました。
悲しきかな、進は既に亡き人に。
あれ、ちょっと待てよ?酒呑童子(安倍晴明)が言ってた『あの男』って誰?という方もいると思います。
それは次回、明かされ…るのかな?
ここまでご覧いただきありがとうございました。




