第六十三話 神楽VS氷目
バトルオブかくれんぼ、始まります。
神楽と氷目の熱い闘いが繰り広げられます。
久しぶりにバトルシーン書いたので不安ですが、よろしければ暫しお付き合いくださいませ。
五十から数え直す神楽。
「きゅうじゅうくー、ひゃあくっ!と!さて、もういいかぁい!」
無論、返答はない。遊びでないのは皆、覚悟の上である。この場で自分の位置を知らせる事になるのは明白だった。
「返答ないけど、行っていいわよね?」
「うむ。行ってこい。日が暮れん内にこの広大な敷地の中、何人見つけられるかの?」
腕組みし、さも余裕綽々でふんぞり反るポーズを見せる神楽。
「全員見つけ出すに決まってるじゃない。特上のうなぎ用意して待ってなさいよ!」
源内の翁面の前に人差し指を突き付けると、振り返り様颯爽と走って行く。
「みんな元気じゃのう。さすが十代じゃ」
「さて、年寄りは座ってお茶でも飲みますか。スピカ殿もいかがですかな」
御座を敷き座り込む源内。竹筒と湯飲みを取り出し茶を注ぐ。スピカはノンノンと人差し指を左右に振った。
「ワシのような育ち盛りは、いつもこのカルシウム牛乳じゃ!」
どこから取り出したのか牛乳パックを天高く突き上げた。
「………」
源内は場の空気を読んだ。
(玄関前に氷目が立ってるじゃない。という事は影辰は屋内ね)
しかし、氷目は神楽を睨んだまま微動だにしない。いや、あえて神楽が迫って来ているのを待っているようだ。
「氷目みっけ。まず1ポイントね。影辰は中にいるのね」
「兄様は…屋内に」
その頃、影辰はパンツを脱いでいた。風呂場までの廊下に点々と脱ぎ散らした衣服が続いている。
(この衣服をたどって神楽さんは探しに来るだろう。風呂場ならば全裸でも問題はない。神楽さんが風呂場の扉を開け、この姿を見たらどう思うだろうか。あぁ、待ってますよ…神楽さん)
変態的策謀を謀っていた。
氷目の横を素通りしようとした刹那、苦無が神楽の喉元を正確に狙って襲ってきた。
「だけど、兄様の元には行かせない」
「おっとと!」
バク転で回避する。
「危ないわねぇ。氷目、これはかくれんぼなの。見つかったらリタイアなの」
「問答無用。真田神楽。兄様をそそのかし、須藤家を滅亡に追い込むその行い。兄様が許しても、私が許さぬ。死して罪を償え!」
普段穏やかな氷目の瞳に復讐の色が燃え上がる。
(さっきの話、本当みたいね。お母さんの呪縛が取り憑いているのかな。これは話しても無駄ね…)
神楽は左手を前に、右手を腰に当て、低く構える。神楽の得意な真田流一撃必殺の構えである。
先手を出したのは氷目。左右にフェイントを入れつつ接近し、神楽を間合いに捉えた。左手の苦無を逆手に持ち、鋭く突き出す。
胸元を狙ったその一撃は神楽の左手で容易くはたき落とされる。が、それを計算に入れていたのか独楽のように回転し、神楽の背後を取った。
「もらっ…!!」
神楽も戦国時代から伝わる古武術真田流の師範である。それを予測していたかのように水車の様にその場で前転し左足を跳ね上げた。
「くっ!」
飛びかわす間もないと分かった氷目は両手を交差し、蹴り足を受け止める。その小さな体は勢いで後方に吹き飛んだ。振り向いた神楽は笑みを浮かべる。
「やるじゃない。真田流転身脚を受け止めたのはあんたぐらいよ」
「………」
(腕が痺れて動かせない…暗器は使えない、ならば!)
氷目は目を閉じ、何やら呪文のようなモノを唱え始めた。
(何?本当に忍術でも使うの?)
遠目で二人の行動を見ていた源内は叫んだ。
「氷目様っ!それはいかんっ!」
しかし、時既に遅し。目蓋を開いた氷目の瞳が青く光っている。
「忍法影流し」
氷目の周囲に無数の影が現れ集まり、やがて一人の人形となり、神楽目掛けて地面を這ってゆく。その速さは先程の氷目の比ではない。影は腕を伸ばし、神楽の足元へ至った。
「何よこれっ?」
咄嗟にその場で飛びかわすが、影は神楽の影にまとわりついた。
「うっ!?」
途端、神楽の全身を縛るような痛みが走る。うまく着地できず、膝から地面に落ちた。
「まるで全身に針が刺さってくる痛さね。これが忍術なの?」
立ち上がれず膝をつき苦痛で動けない神楽を見下ろした氷目は言う。
「忍法影流し。あなたの影は捕らえた。もう自由は利かない。その影は私の影と同じ動きをする」
そう応えた氷目が右手を地面に添える動作を行う。神楽も同じ動きをする。ただひとつ違うのは、神楽の添えた手元には先程叩き落とされた苦無があった。
「分かったでしょ?」
氷目は何もない地面の砂を掴む。神楽は地面に打ち捨てられた苦無を掴む。
(これはちょっとだけ、まずいわね)
氷目は砂を掴んだ右手の拳を胸に当てた。神楽は拾い上げた苦無の切っ先を自身の胸元に当てる。ほんの少し力を入れるだけで、苦無は神楽の心臓を貫く。
「これで終わり」
(一か八かやってみるか)
氷目が力を入れた瞬間、何故かそれ以上腕が動かない。いや、体全身が鉄のように重くなる。
「な、なんで?私の影流しが…」
「真田流鉄心鋼。自身の体を鋼のように硬くして動けなくするの。あたしが動けないならば、氷目、あんたも動けない。そして、このまま呼吸を止めたらどうなるか」
神楽は口を閉じ、鼻からの呼吸も遮った。同じく、氷目の呼吸も止まる。ここからはお互いの忍耐力であった。
「ん、う…」
「それまでっ!」
源内の仲裁が入り、神楽は鉄心鋼を解く。と、同時に氷目が気を失い地面に倒れこみ、影流しの術も効果を失った。
「ふぅ、仲裁入れてくれなきゃ、あたしもヤバかったかも」
源内は神楽に軽く会釈すると、倒れこんだ氷目に喝を入れた。息を吹き返すが意識は戻っていないようである。
「この術は氷目様には教えておらぬ。ワシが知らぬ間に秘伝書を盗み見たのであろう。神楽殿にはとんだ迷惑をかけた」
「このお返しは晩ご飯でお願いね!さて、残りを見つけに行きますか」
間もなく三人は見つかった。千晶は木の上。静音は池の中。充之は縁の下に隠れていた。
「やっぱり見つかったか。昔から姉さんにはかくれんぼじゃ逃げ切れた事はないからな」
「そだねぇ。いつも、充之は瞬殺だったからね。単純だから行動読まれてるんじゃないの?」
「かくれんぼ師匠と呼ばせてください」
三人は口々に神楽のかくれんぼ達人を褒め称えた。
「あれ?影辰さんはいいのかよ?」
神楽は庭石に座りこんで、空を見上げた。もう日が暮れそうである。
「ん。氷目が体張って影辰を守ろうとしたからねぇ。あの子に免じて影辰は見逃してあげるわよ。ま、4ポイントあれば良いもの食べられるでしょ?」
(さっきの約束もあるしね)
影辰が一人のぼせて湯船で浮かんでいるのが発見されたのは、それから一時間後の晩飯前だった。
白熱したバトルに最後、兄様の変態っぷりで締めました。
氷目にかけられた母の呪縛は解けたのか?源内の次の試験は?
でも、次回は晩ご飯です(笑
ご覧いただき、ありがとうございました。




