第六十一話 須藤家の事情 その四
一人だけ選抜試験と知らずに合宿に参加していた充之を他所に、彼ら彼女らはそれぞれの思惑を胸に試験に挑む。
欲望渦巻く選抜試験が今始まる。
「ワシは静音様に会えた事じゃし、過去には未練がないのじゃが約束ではあるしのぅ」
源内は顎をしゃくりながら皆を見回す。
「ポチ、お願いだからボク達に協力してよ」
静音が源内の着物の袖を掴み、上目遣いで見上げた。瞳が潤んでいる。
(あぁ、静音様の瞳が。涙がこぼれ落ちそうに!)
「…静音様のご希望なら、断れまいさ」
にべもなくひとつ返事で了解する。
「ごほん!甘いよスピカ殿、試験とやらはワシの好きにして良いのじゃな」
「勿論じゃ。こやつらを思う存分しごいてもらって構わん」
(この、のじゃロリとのじゃ爺さんめ)
いまいち納得いかない充之に対して、皆は満更ではないらしい。充之と柚子を除きそれぞれに思惑があるからだなのだが。
「では、試験についてじゃが。試験毎にお主らにポイントをつけてゆく。無論、好成績の者にはポイントを多く、成績の悪い者には少なく査定する。二日間の総合ポイントの高い者から上位三名を選出する。これでよいかスピカ殿?」
「うむ。皆、源内殿の言うことを聞いてしっかりやるのじゃぞ。あと、柚子は今回はなしじゃ」
不安そうな顔をしていたうつむいていた柚子が顔を上げる。
「お主には手伝ってもらいたい事があっての。当日はワシとサポートにあたって欲しい。まぁ、岬達が無事に生還してくれれば何も問題ないのじゃが」
「はい。私に出来ることなら」
スピカは何か思いあたる節があるようだった。
「うむ。さて、始めるとするか。皆、それぞれの知恵と体力を尽くして取り組んでもらいたい。ちなみに成績は今日の晩飯に影響するからの。高成績者にはワシが腕を奮おう」
晩飯のワードに神楽がビクリと反応した。
「あぁ、翁の作る料理は絶品だ。皆、期待していいだろう」
(う…な…ぎ…)
影辰の嘘偽りない言葉に神楽の目がギラリと光る。
「最初の試験は…」
皆、息をのみ源内の言葉を待つ。
「かくれんぼじゃ」
「か、かくれんぼ?マジかよ」
あまりに拍子抜けした試験に充之はすっとんきょうな声を上げた。
「ジャンケンをし、負けた者が鬼となり、百を数え、逃げた他の者を捕まえる。いたって簡単なルールじゃ。最後まで逃げ切れた者には5ポイント、もしくは鬼が全て捕まえれば5ポイントじゃ。鬼は一人捕まえるごとに1ポイント与えるからの。鬼に捕まった者はポイントなし…つまり0ポイントじゃ。制限時間は今より三時間後の18時とする」
「かくれんぼなら我々の得意分野。兄様、この勝負我等が頂きました」
「かくれんぼ…かくれんぼ…」
影辰の頭の中に様々なシチュエーションが巡っている。
「千晶さん、かくれんぼですよ!楽しそう!」
「静音ちゃん、本当に楽しそうだね。でもね、かくれんぼは過酷なスポーツなの。鬼を含め全員が敵。食うか食われるか、高度な駆け引きが要求されるの。まさにサバイバル。そう!何を隠そうあたしはかくれんぼマスターなの!」
(いや、それ初めて聞いたぞ)
熱く語る千晶に静音は瞳を潤ませている。そんな二人を見て充之は面倒臭そうにため息をついて肩を落とした。
「んじゃ、かくれんぼなら鬼を決めなきゃね。充之、あんた能力使っちゃダメだからね」
「わかってるって」
「じゃあ行くよ!最初は…」
全員が輪になって一斉に最初の手を出す。
「グー」
「グー」
「グー」
「グー」
「グー」
「チョキ」
勝負は、一瞬で決まった。
「最初はグーじゃねぇのかよ!姉さんなんでチョキを出す!?」
「甘い!甘いよ充之!これは豪華な晩ご飯をかけた勝負なの。姉弟の関係は一切関係なしよ!源内っ!鬼が全員捕まえたら、鬼が一位なのよね?」
「あぁ、そうじゃが…」
普通、鬼になった者はジャンケンの運のなさに嘆き、額に汗し、苦労して逃げる者達を捕まえなければならない。
しかし、神楽は違った。確実にポイントを集め、晩ご飯を得る可能性のある鬼を自ら選択した。弟を捨て、代わりに晩ご飯の為にあえて修羅の道を歩む。正に『鬼』となったのだ。
生死を…いや、晩ご飯をかけた『かくれんぼ』が今始まる。
かくれんぼ試験始まりました。
ちなみに参加者の思惑について。
充之(何も知らされてないし、あまりやる気はない。恐らく選抜試験の話だと辞退する畏れがあると思ったスピカが口止めしていた説)
神楽(岬救出もあるが、タダ飯タダ風呂が目的。単純な人)
千晶(ライフサーガを実体験したいが為。酒呑童子で危ない目にあったのに、スリルを求めて懲りない人)
静音(単なる好奇心。充之の側に居たいが為かか。戦闘狂なのかもしれない)
影辰(神楽目的。生徒会執行部リーダーであるが、レナスより神楽が彼の脳内の9割を占めている。神楽大好きストーカーもどき)
氷目(兄様大好きっ子。隙あらば兄の代わりに神楽を討とうとしている危ない子。彼女が何故こんな変態兄を好きなのか次回で明らかに!?)
今回もご覧頂きありがとうございました。




