第六十話 須藤家の事情 その参
平賀源内の語る静音との過去。
うなぎ。
シリアスとコメディが交錯する中、現れた人物とは?
どうぞご覧ください。
「うぅ…うなぎぃ!」
神楽は充之に羽交い締めにされている。
「すんません。うなぎの話は姉さんにはタブーなんで」
「これはこれは大変、異な事をしてしまったようで」
平賀源内。
一般には静電気発生装置『エレキテル』の発明や医者、戯曲家等々、多様な才能を持った江戸時代の天才である。彼はうなぎ屋の広報活動として、現在でも有名な土用のうなぎ(土用の丑の日)を一般大衆に広めた人物でもある。
「ま、それはいいとして、静音と知り合いなのかよ。というか、江戸時代の人間が何で今まで生きてんだよ」
源内は遠い過去を思い出すように空を仰いだ。
「静音様にはワシが若い頃…お主らと同じ年頃かの。派手なやんちゃをしての。若い衆にす巻きにされて川に投げ込まれた事があったのじゃ。その時、静音様に助けてもらっての」
「うん。それ以来、ボクの後を犬のように付いてきたんだ。だから、ポチって名付けた」
「命の恩人じゃからな。ワシが何度も礼をしようとする度に断られての。ワシも若かったから必ず礼をすると意地になっておったわい」
平賀源内の意外な過去に一同は驚きを隠せなかった。
「でも、静音は輪廻転生してるんだろ?あんたもそうなのか?」
「ワシか。ワシはな…」
翁…いや、源内は着物の胸元をはだけて見せた。
そこには無数の歯車のような物がクルリクルリと回っている。
「ワシは自身の体を作ったのじゃ。最初は手足、そのうち人として機能しなくなった臓物などを取り換えていってな。今では、この翁面の下にある脳だけになってしもうた。もう、これ以上はワシの命も持たぬじゃろ。しかし、それももう構わぬ」
源内は静音をチラと見て言った。
「ワシが延命したのも、静音様に改めてお逢いしたかったからなのじゃ。もう、この命尽きても構わぬ」
源内は静音の足元に膝まずいた。慌てる静音。そこで今までトラウマに捕らわれていた神楽が口を開いた。
「いえ、源内。あんたはこのまま命尽きても構わないって言ったけど本当にそれでいいの?静音とせっかく出逢えたというのに、あんたの願いは…」
「それは…」
源内が口ごもる。その時、一機のヘリコプターがプロペラの旋回する音をたて上空に姿を現した。一同が見守る中、ヘリコプターから一人の人物がパラシュートで落下してくる。
「待たせたの。真打ち参上じゃ」
スピカだった。
「兄様より派手な演出」
「う…うむ」
庭園内の少し離れた場所にパラシュートが着陸する。パラシュートはスピカの小さな体に覆いかぶさった。何やらもぞもぞしている。
「は、早く助けんかっ!」
どうやら引っ掛かって動けないようだ。
「だよな」
皆はスピカの元に移動し、彼女をパラシュートの束縛から解放した。
「うっぷ。スカイダイビングは何度かやったことがあるのじゃが、着陸が問題じゃな」
「それは、あんだがち…むぐっ」
充之の口を千晶が塞いだ。思った事をそのまま口にする癖をよく知っている千晶のナイスカバーである。
「何か言おうとしたのかの?…まぁ、それはさておき。話は無線で聞いておる。源内殿、神楽の言う通りじゃ。静音の事はワシも初耳じゃったが、仕事は果たしてもらわなくてはな」
「仕事って何だよ?」
千晶の手を離し、充之が問う。
「実はの、この合宿はライフサーガの第二陣メンバーの選抜試験なのじゃ。ワシは源内殿に、レナスによる過去への転送を交換条件にその試験官を依頼しておったのじゃ」
源内は微かに頷いた。
「ライフサーガでの事件はお主らもニュースで知っておったろ。あのニュースの後に神楽から連絡があってな。ワシは岬に確認をとろうとしたのじゃが無理であった。あれはワシらの想像以上の未知の力が働いておる。じゃが、岬が帰還を予定していた二日後に再度転送が可能になる糸口を掴んだのじゃ。そこで、源内殿に頼んでお主らの中で次のメンバーを決めようと話しておった…という訳じゃ」
スピカの話に目を輝かせる者。改めて不安を抱く者。腕試しが出来るとわくわく感が体中から染みだしている者。捲れたジャージの裾を直そうとしゃがみ込む者。しゃがみ込んだ襟元の隙間から胸元をそれとなくチラ見しようと真っ赤な顔をし困惑する者。それを冷めた視線で見つめる者。様々いる中、充之は周りを見渡して一言。
「え?まさか、知らなかったのオレだけ?」
皆が一斉に頷いた。
静音の昔話は山ほどあるのですが、それはまたの機会。
何故か置いてきぼりだった主人公。
いや、そもそもこの作品に主人公は存在するのだろうか。
次回、第二陣メンバーを決める試験が始まる。
最終的に誰が選ばれるのか。
今回もお付き合い頂きありがとうございました。




