第五十八話 須藤家の事情その壱
日常ルートへ戻ります。
今回から数話、ゲーム外での彼らの行動を書いていこうかと思いまして。
では、お時間ある方、どうぞご覧ください。
「で、何故皆でここにいるんだ?」
充之は黒のトレーニングウェア姿で屋敷の庭先に立っていた。大層広い日本庭園の一画には鹿脅し(ししおどし)が時折カコーンとよい音を立てている。
「いいじゃない、明日までただ飯、ただ風呂なんだし、洗濯物もやってくれるんだもの。今月、生活費厳しかったから助かるわぁ」
同じく白のトレーニングウェア姿の神楽はスクワットしながら軽く答える。
「たまには皆でトレーニングもいいよねぇ。よし、三重飛び行くぞっ!」
千晶が笑顔で縄跳びをやっている。
「親には来年入学する学園の部活合宿って言ってますから、ボクとしては全然大丈夫です」
静音は楽々と片手腕立てをやっている。
「皆さん、レモンの蜂蜜漬け作って来たので、良かったらどうぞ」
「柚子ちゃん、気が利くねぇ。きっといいお嫁さんになるわね。充之もボサッと突っ立ってるんなら、柚子ちゃん見習いなさい」
「へいへい」
充之は諦めつつ、両手を地面につけ、逆立ちしたまま三つ指での屈伸を始めた。
「うひょぉ!流石、充之師匠!ボクもやってみよっと」
「しず、無理すんなよ」
いつの間にか弟子気取りの静音も充之の隣で真似をし始めた。充之も妹ができたようで満更でもなく、しずと呼んでいた。
そんな光景を屋根の上から見ている人物がいた。
「兄上、いいのですか?真田姉弟を我が屋敷に寝泊まりさせて」
忍び装束を着こんだ氷目はいつの間にか背後に立っている人物を気配で兄影辰と察し、声をかけた。
「ふむ。古武術愛好会の合宿だから問題はない」
「…兄上、その姿…」
影辰は忍と背中に大きくプリントされた手裏剣柄の怪しいジャージを身にまとっている。
「部長ともあろう者が不参加とはいかぬ。神楽さん、貴女の後を継いだ須藤影辰、今行きますよ!はあっ…であっ!」
影辰は助走をつけて屋根から飛び降りた。
(流石、兄上です。明らかに間の抜けた格好で真田に意表をつき襲撃するのですね。兄上きたな…いや切れ者です)
(神楽さんが家に泊まる…これほど、生涯またとない好機があるだろうか。これは天命としか言えぬ。スピカ殿、ナイス判断!)
いつもの事ながら、この兄と妹の思惑は完全にすれ違っていた。
一時間前。
「影辰様、学園のスピカ殿よりお電話でございます」
代々、須藤家に遣える翁が電話の子機を手に影辰の部屋のドアをノックする。彼は能面でいう翁面を常に被っており、子供並の背丈であるが技は一流で、影辰が生まれる以前から須藤家を守り続けてきた。故に、影辰自身も彼の素顔や出生については何も知らない謎の人物である。
「わかった、暫し待て」
影辰はそっとドアを開くと隙間から片手のみ差し出した。
バタンッ!
子機和を受け取るや否や素早くドアを締める。部屋の外では翁が
じっと待機している。
影辰の部屋の壁にはいたる所に神楽の学生時代から昨今の日常の風景まで、様々な写真が張り巡らせてあった。
「もしもし…スピカ殿か。いくら貴女の命令でも、私は自分の学園の生徒には一切手を出さぬと申した筈だ。ん?闇討ちの件ではない?」
影辰は首をひねった。
「はぁ。真田姉弟と千晶らを一泊二日で鍛えてくれ?古武術愛好会の合宿として費用も出す?あぁ、今日は創立記念日で休みだし、明日は日曜日であるな。ん?ちょっと待ってくれないか。一泊二日?か、神楽さんも泊まりにくるのか?」
生唾を飲み込む。幸いスピカには聞こえていないようだ。
「も、勿論かまわないぞ。いや、執行部リーダーである私に任せておけば安心だ!いや、是非任せてください。お願いします!この通りっ!」
影辰は電話の相手のスピカに向かって土下座した。
(はぁ、影辰様のご病気が再発したようで)
翁には筒抜けだった。
合宿編が始まりました。
いやぁ、影辰ヤバい人になってます。
最初の良き先輩風の面影はどこに行った(笑
今回もご覧頂きましてありがとうございました。




