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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
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第五十二話 新たな世界

いよいよ新章突入です。

新たに静音をメンバーに加え、新しいミッションに挑みます。


そのミッションとは?


ごゆっくりご覧ください。

季節は秋。食欲の秋、芸術の秋、そして、スポーツの秋。



午前6時。須藤影辰は妹の須藤氷目すどうひめと共に、毎朝の日課であるジョギング登校、略してジョギ校の途中であった。



「よし、ここで休憩だ」



「了解」



いつもの時間通りに、いつもの電信柱の陰に静止する。腕時計を見ると6時きっかり。



(そろそろか)



ガラリ…



木造家屋の戸が開く。大きな欠伸をしながらゴミ袋を手に、神楽が現れる。リアルなヒグマが真ん中に大きくプリントされたシャツに、短パン姿でサンダルを履いた神楽が、眠そうに目をこすりながら影辰達のいる電信柱へ向かってくる。



(きたきた)



影辰の鼓動が高鳴り、ジョギング中には一切かいてなかったはずの汗が流れ落ちる。



「よいしょっと」



電信柱の根元にゴミ袋を置いたと同時に偶然を装った影辰が神楽の前に現れる。



「あ、おはようございます。神楽先輩じゃあないですか。いやぁ、奇遇ですね」



神楽はいつも通りに対応する。



「今日も朝練なんだ。精が出るね。氷目もお兄ちゃんの付き添いご苦労様」



氷目はペコリとお辞儀をするや否や、臨戦態勢の構えをとった。



「神楽さん、今日こそは立ち会いお願いいたします」



「ふっふーん。影辰、氷目こんな事言ってるけどいいの?」



ニヤリと笑みを浮かべる神楽に対して、氷目は冷静に距離を詰めてゆく。が、次の瞬間、影辰の肩に担がれていた。



「い、妹が失礼しました。あ、改めて後日お詫びに参ります。失礼しました」



と、言い残し猛ダッシュで走り去ってゆく。





氷目を抱えたまま飛ぶような早さで駆けてゆく影辰。



「兄上良いのですか! ご先祖の築かれた伊賀忍軍須藤家頭領として、兄上を負かした真田神楽に遅れをとったままでも。毎回、兄上が再戦を求めて真田の家に足を運ぶも、言葉巧みにかわされて機会を逃している事は百も承知。もし、兄上に闘志が湧かなくとも、次は必ず私が仇をとりますゆえ」



いたって真面目で兄想いの氷目は、普段は無口だが影辰に対してだけは知らず知らずのうちに饒舌となっていた。そんな彼女に、影辰は語気を強めて言う。



「真田を敵に回すな。お前が敵う相手ではない。特に神楽さんはな」



「ですが、例えわずかながらでも勝ち目を見出だし、勝利するのが我が家の家訓だと教わって来ました」



影辰は遠い目をしながら語気を弱めた。



「神楽さんは特例だ。お前が勝つ可能性はゼロだ。いや、お釣りをもらってマイナスだ」



こんなに弱きな兄を見たのは初めてであった。氷目は思った。



(真田神楽。兄がこれほど恐れを抱くほどの達人だとは…。私がなんとかせねば)



一方、影辰は。



(うわぁ、神楽さん機嫌損ねてないかなぁ。次は氷目をなんとかまいて一人で来るか。あ! 汗臭くなかったかな。大丈夫かな?)





二人を見送った神楽は一人呟く。



「そんなに組手したいなら、お月謝払って練習に来ればいくらでも付き合ってあげるのに。あぁ、電気代に水道代も馬鹿にならないわぁ」





放課後、視聴覚室ではスピカ、充之、千晶、柚子の四人が静音の話に耳を傾けていた。



あの酒呑童子との闘いから3日が経っていた。



静音の話によると、今の名前は針縁はりゆかりと名乗っている。普通の一般的な家庭に生を受け、つい最近まで転生前の記憶はなかったそうだ。彼女が3日前の15歳の誕生日を迎えた時に天啓を受けるが如く転生前の記憶が蘇った。手にしている風刃丸は、転生ひとつ前の自分が山中の古い社の下に埋めて隠していた。



「清音…よくやってくれたの」



スピカの記憶にあのやり取りが思い浮かぶ。



千晶は大泣きし、机に突っ伏し肩を上下に揺らしている。



柚子は静音の手をしっかり握りしめて離さない。



一方、片目に眼帯をつけた充之は聞き耳を立てこそすれ、そっぽを向いている。左目は充之の治癒力と湯里グループ専属医師による適切な手術が功を奏し、ほとんど痛みのない状態までに治まった。だが、眼球は元には戻らない。充之の意思で仮の義眼を埋めているのみで左目の視力はない。



泣きはらした顔を上げ、千晶は充之を見た。



「充之、あんた何ともないの!? 清音さん、静音さんを私達に残してくれたんだよ! 言葉をかけるとか、泣くとかなんかしなさいよ!」



充之は千晶に背を向け、椅子の背もたれに体を預け口を開いた。



「見えんだよ。今じゃ、右目が開いたままでも、失った左目んとこにくっきりと清音さんの姿がさ。まともに静音を見てなんていられねぇよ」



「え…」



以前の充之は両目を閉じた時にだけ、発動していた千里眼だったが、あれ以降、常に千里眼の力が彼を苦しめていた。周りの人間の意識。怒りや喜び、悲しみが無作為に脳に入ってくる。並の人間ならばとうに気が狂っているだろう。充之の強靭な精神力であればこそ、今をしのぎきれていた。



「すまないな。無理に呼び出したりしての」



「いや、徐々に千里眼の能力も使いこなせてきたからさ。でも、静音に対しての清音さんの想いが強すぎるんだよ。ほんと、両目閉じたら、まんま清音さんだからな」



軽い口調だが、静音には分かっていた。



(この人はユウさんを助けられなかった事を今でも悔やんでいる。いや、一生自分の罪として背負っていくつもりだ。母の命の恩人である充之さんにボクが出来る事は…)



唇を噛みしめ、充之を見つめる静音の姿に柚子は目を潤ませた。



ガタンッ!



急に勢いよく立ち上がる静音に千晶やスピカは呆気にとられている。



充之はゆっくりと振り返った。



「充之さんっ! ボクが…ボクが貴方の左目になります。だから、今は貴方自身の事を大切にしてください」



心からの想いのこもった言葉にほだされるように、充之に笑みがこぼれた。



「そかそか。だけど、俺についてこれるか。生半可な覚悟じゃ、この先は生きていけねぇぞ」



「覚悟の上です。きっと母もそれを望んでいるはずです」



静音の顔を充之はじっと覗きこむ。やがて、根負けしたかのように両手を上げた。



「ま、好きにしろよ」



「ありがとうございますっ!」



二人の一部始終を見ていた三人はほっと胸を撫で下ろした。



「で、話は変わるが、静音の事を知ってるのはこの四人だけなんだよな?」



「今のところはな。立石には話さない方がよいじゃろ」



三人は想像してみた。



清音に娘が出来た事を知って、肩をがっくり落とす姿を。



三人は顔を見合せ頷いた。



「神楽には充之からそれとなく話しておいてくれ。岬にはわしが話をつけておく」



「スピカさん、学園長…岬さんはいないの?」



千晶の言葉にスピカは一枚のディスクを白衣の懐から取り出した。



「ん?…あーっ!これ、『ライフサーガ』だよ!」



「らいふさぁが? 何だよそれ?」



充之は興味なさそうに答えた。



「今話題のMMORPGだよっ! オンラインゲームの中でもかなり細かな作りが人気のゲームで、現在国内でも限定100名のみが早期体験版として入手したっていう幻のゲームだよっ! スピカさん、それどうやって手に入れたのっ!」



流石、ゲーム情報の知識は豊富な千晶である。



「まぁ、落ち着け。実はな、時雨グループの情報網から、このディスクを手に入れた限定100名の中に、おじ…いや、時雨進の名前があったんじゃ」



「何っ? ほんとかよ」



先程の興味なさから一転、噛みつくような口調でスピカに詰め寄る充之。



「嘘をついてどうする。で、ここからが本題じゃ。わしが持っているこのディスク、真っ赤な偽物じゃ。既に限定100枚のディスクは別の人間に配られておる」



「えぇっ!そうなんだ、残念」



口惜しそうに肩を落とす千晶を見て、あえて不敵な笑みを浮かべるスピカ。



「案ずるがよい。実はな、このディスクはレナス用にわしが作った裏ディスクじゃ」



「裏…ディスク?」



千晶の瞳に若干希望の光が生れた。



「このディスクを使えば、なんとレナスシステムを介し、プレイヤーとしてゲームの世界に参加できるのじゃ。しかも、人数は前回より多く六名まで転送可能じゃ。凄いじゃろ? 天才じゃろ? 見直したじゃろ?」



スピカの得意満面な顔をよそ目に充之は答えた。



「じゃあ、今は岬さんそのゲームの中かよ」



「ご明察。わしはお主らを待とうと言ったのじゃが、岬は父親の事に関しては強引でな。五名の優秀な選抜メンバーと共に行きおった。ちなみに期間は三日間。もし、この3日で進の情報を掴めなければ戻ってくるようになっておる」



「やっぱり、行けないんだぁ」



一瞬、期待していた千晶のテンションが一気にダウンしていた。


まさかのおいてけぼりの主要メンバー達。

次回は岬をリーダーに選抜メンバー達の活躍を書きたいと思います。


ここまでお読み頂き、ありがとうございました。

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