第四十四話 決着
「……許さねぇ」
「ほ?何を言っている?ヒトの子よ?交渉は不成立に終わったのだよ。くくくっ!さぁ皆、喰らってやろうぞ。新しく手に入れたこの力で…な!?」
酒呑童子の首が血飛沫を上げて飛んだ。あまりの速さに誰もその動きに目が追い付けなかった。腕を組んで見守っていた神楽以外には。後には充之の上段回し蹴りを行ったであろう姿があった。酒呑童子であった肉片は黒煙と共に塵となってゆく。恨めしそうな表情の顔も共に。全てが消え行くと、嘘のように今まで澱んだ空気が軽くなる。だが、誰もが心の底に重いわだかまりを残していた。
「(ゲート解放します。解放時間は三分です)」
福井の声が、充之、千晶、清音の脳内に届く。煌めく光の渦が空間を形造る。兵馬と愛洲はその美しさに呆然と見とれていた。やがて、柚子はゆっくりと瞼を開く。
「え、ええっ!?」
充之にお姫様だっこされた状態で目覚めた柚子は顔を真っ赤にしうつむいた。
「お、お姫様が起きたな」
左目をハンカチで覆った充之の顔が目と鼻の先にある。
「柚子ちゃん、おはよ!」
改めて見渡すとそこには日常と変わらない二人の友人の笑顔がある。胸が熱くなりただただ、嗚咽が漏れた。
「おい、あんたは一人で歩けるか?千晶、肩を貸してやれよ」
「清音さん、帰ろう!」
自分の元に駆け出そうとした千晶を片手で制した清音は、泣き腫れ真っ赤になった目をこすり口を開く。
「私はこの世界に残ります。この子を一人ぼっちに出来ないから。充之さん、千晶ちゃん、柚子さん。おこがましいのは百の承知で言います。私がいた…私達がいた世界を…救って。きっとあなた達にはそれが出来ると思う」
充之は瞼をふさぎ、柚子を抱えたまま踵を返す。
「そんな!でも…清音さん!一緒に…」
言いかけた千晶の制服の袖を柚子が引っ張り、優しげな表情で軽く首を横に振った。千晶は何度も何度も名残惜しそうに振り返りつつ、二人とゲートへ向かった。
充之がゲートの前に来た時、柚子は彼の手から降ろしてもらうよう伝えた。おぼつかない足に力を入れ地面に降りる。
「短い間でしたが、お二人にはお世話になりました。ご迷惑を承知で清音さんをよろしくお願いいたします」
そして、兵馬と愛洲の二人に別れの挨拶を交わした。
「おぅ!任せておきな」
「そなたらも気をつけて」
大きく手を振る兵馬達を後に充之はゲートを潜る。続けて柚子も後を追う。最後に千晶が潜ろうとした時、清音があらん限りの声で叫んだ。
「フレーッ!フレーッ!た、て、い、しっ!頑張れ、頑張れ!た、て、い、しっ!絶対に世界を守ってよ!あんな奴らに負けたら私が承知しないからねっ!だって……私が唯一認めた初めての恋人なんだからっ!」
千晶は微笑み、ゆっくりとゲートを潜り姿が見えなくなる。三人が潜って間もなく空間の歪みが消え元の光景が現れた。




