第四十一話 反撃
「これは何だというのだ?」
先程、鬼の手により始末したと思っていた兵馬、愛洲が立て続けに立ち上り、短剣で止めを刺した清音までも起き上がっている。
「お姉ちゃんっ!」
「ユウっ!貴様っ!」
髪を引っ付かんでいる晴明に有らん限りの憎悪をぶつけるかのような怒気を発し清音は立ち上る。
「死に損ないがぁ!茨木っ!殺せっ!二度と立ち上がらぬよう殺して喰らえっ!」
怒号と共に茨木の身体が清音を襲う。傷が癒えたとはいえ、無手の清音には無理があった。急所は避けたが、鬼の拳は清音の胸部を痛打する。
「うぐっ」
レナスシステムによる防護フィールドは発動しない。この一撃は生身の人間には致命傷だった。
「ふははっ。息巻いておったが所詮ヒトの身よ、はははっ」
再び膝をつく清音の長いポニーテールを引っ付かんで晴明はケタケタ笑っている。
「さぁて、この娘どもどうしようか?」
左手に優音、右手に清音を掴み、交互に嫌らしい視線をねめつける。兵馬は髭切を手に身構えるが、愛洲と共に遠く、晴明まで一太刀浴びせる隙がなかった。ジリジリと間合いを詰める兵馬の前に茨木童子が舌舐めずりをしながら立ち塞がる。かと言って、今得物を持ち戦えるのは自分だけだった。足元には砕け折れた風刃一刀があり、愛洲は無手である。
ヒュウッ!
兵馬と茨木の間に一陣の風が吹いた。途端、茨木の表情が醜く歪んだ。それもその筈、鬼の胴体に大きな風穴がぽっかりと空いている。流石の晴明も言葉すら出てこない。
「ったく、今日は何度驚かされるんだよ。もう一生分が一日で驚かされてる気がするぜ」
「同じく。天下広しといえどこれだけ腕の立つ御仁を見た日はまたとない。拙者の後身にも伝えておきたいほどだ」
苦笑いの兵馬と愛洲を前に、茨木童子は呆気なく倒れて息を引き取った。血に濡れた拳を握り締め、茨木の亡骸を見下ろし哀れむ一人の青年の姿がそこにあった。




