第三十七話 賭け
「緊急システム作動により、清音さんの通信回線が千晶さんに復旧します」
黒川がヘッドホンを片手で抑えつつ叫ぶ。スピカは通信用のマイクに顔を近づけ、ゆっくりと慎重に言葉を選んだ。今、千晶を刺激してはいけない。間違っても彼女達の安全が一番である。
「千晶、聞こえておるか?」
「(…はい)」
やや小さな声ではあるが、千晶が返事をした。
「今回の事態はまったくの想定外じゃ。故にお主のクリエイターの能力使用については開発段階で未知数の能力じゃ。身体に極度の負担がかかる可能性も考慮しておるな」
「(理解しているつもりです)」
スピカは彼女の性格から身体的能力、癖、日常生活のあらゆる面までリサーチし、クリエイターのエキストラスキルを開発した。故に、その能力はある程度は計算に入れている。が、今回のような使用者の生命危機に瀕した場合の精神面や肉体の干渉に関しては予測出来ない。人間は普段、肉体に付加をかけないよう無意識にリミッターをかけている。レナスシステムは使用者のリミッターを外し、ある程度超人的な能力を引き出すシステムである。既に何度もクエストを経験している清音でさえも、システムの限界を越えて瀕死の状況にある中、初心者である彼女が対応できるのか判断しかねた。元々、今回のクエストはそのテストに行われる予定であった。
「すまぬ…ワシのわがままでこのような事態に巻き込んでしまって」
心の底から後悔していた。研究者としての欲が彼女達を危険に追いやった事に。しかし、千晶の一声は明るく頼りがいのある言葉だった。
「(なぁに言ってるんですか。そのおかげであたしはここにいるんです。大事な友達を助けられる機会を与えてもらったんです。感謝してます)」
スピカは思い出した。初めて千晶と会話した時に感じた彼女の精神力と誰かの為に自身をかえりみない強さに。今は彼女に託すしかない、そう誰もが考えていた。一人のまだ幼い女子高生に。
「スピカさん、何故千晶さんに充之の転送を教えなかったのかしら?」
「そうだぜ。愛しい彼氏の転送を知れば彼女もいくらか勇気づけられるんじゃねぇのか?」
響子に続いて立石がやや苛立ち気味に語気を強めて言った。確かに響子や立石の言うことも一理ある。が、スピカはあえて充之の転送を千晶に知らせなかった。岬には彼女の意向を尊重するかのようにただ、沈黙を守っている。今、充之の到着を知らせる事は千晶の張り積めた緊張を断ってしまうことにままならない。皆を守ろうとする千晶の意志の強さは、彼女が直面している危機感に依存しているのだ。助けが来るという安心感は逆に彼女の戦闘意欲を削ぐことなると考えていた。
「ただ、今はわしらに出来ることは彼女を全力でサポートするだけじゃ」




