第二十九話 待っててくれよ
「エキストラスキルの連続使用で清音さんの防護フィールドが発動していません!」
福井の悲痛な声に反応するかのように、スピカはその小さな体からあらん限りな声を張り上げた。
「充之!聞いておるかっ!?」
「(そんなに上から大声出さなくても聞こえてる)」
スピカの慌ただしさを感じさせる声が脳内に響く。苛立ち混じりな返答を返し、腕に着けたシルバーのブレスレットに手をやる。
(金属アレルギーなんだよな)
普段から腕時計をつけない事もあり、右手首に違和感を感じる。
トントン…
先程から下階の転送ルームで待機している充之は、軽くステップを踏んだりと今現在の自身の体の動きを調整していた。体調はここ数日のうちで絶好調と言っても過言ではないほど万全である。しかし、気持ちに苛立ちや不安感は拭えなかった。
「(何度も言うように、転送先に如何様な事があっても最優先にすることは…)」
「(みんなを連れて帰ること…だろ)」
ミーティングルームから常に反復して耳にしてきた。普段から極力他人と一線を画してきた充之にとって、回りのプレッシャーに若干嫌気が差す。
「(充之。無理はするなよ)」
「(わかってますよ)」
この状況下での岬の落ち着き払った口調は逆に安堵さえ覚える。が、無理は承知でやらなければならない事は理解していた。生死がかかっている。いや、自身の生死云々より、千晶や柚子の無事を真っ先に考えていた。
(待ってろよ。必ず連れて帰ってやる)
続けて聞き慣れた神楽の声が聞こえてくる。
「(帰ったら焼き肉だかんね!負けたら晩御飯抜き!)」
「(焼き肉は昨日食ってきたって。ってか、多分負けたら終わりだって!)」
冗談混じりのいつもの口調で漫才の掛け合いを思わせるトークに一瞬だが場の雰囲気が和んだ。
「(転送準備整いました。カウントダウン開始します。10…9…8…)」
福井の声に充之は再度、手首のブレスレットを左手で覆うように握りしめた。
「(キ、キヨとユウを頼んだぞ、後輩っ!)」
「(2…1…ゼロっ!!)」
立石に返答する間もなく、充之の体は淡い螺旋の光に包まれ消えていった。




