表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
幕末編
287/290

魂の在り処 神崎編 その拾参『操り人形』

前回のあらすじ


神父の手により娘が毒牙にかかろうとした矢先、天井から飛び降りた神崎は二人の間に立つ。


神父の悪事を露呈し、かつ探していた等々力の情報を得る事が出来ると踏んだ彼は、娘を逃がし神父に詰め寄る。


しかし、ゼロの行動後、豹変した彼女は神崎に襲いかかったのであった。

「おい! どうしたんだ!」



娘の豹変に流石の神崎も若干たじろいだ。娘はただナイフを小脇に抱え、神崎に向かって駆けてくる。



(あの娘はまだ薬物を投与されていなかったはず。となると、催眠術の類いか? しかし、視線を合わさず催眠をかける事が出来るのか? 音……いや違う。あのナイフに何かあるのか?)



「死んでぇっ!」



ガッ!



娘が心臓目掛けてナイフを突きだす。その手首を胸元に突き刺さる一歩手前で右手で掴みとった。



「ぐ!?」



神崎は空いていた左手を使わざるを得なかった。ナイフには華奢(きゃしゃ)な娘の力とは信じられないほど、強い力が加えられていたのである。



「くくっ。驚いたかい? 今、その娘は成人男子の倍近い力を有している。何故か教えて欲しいかい?」



二人の光景を再度、壁にもたれかかって様子をうかがうゼロ。彼は楽しそうに腕を組んで笑っていた。



「……目を覚ませっ! 弟が待っているんだぞっ!」



神崎の声が聞こえないのか、彼女はナイフに込めた力を弱めるどころか、更に力を加えてきた。



ブチッ!



「な!」



娘の腕の筋が切れる音が神崎の耳から脳に届く。



「気づいたかな? 人間は通常精一杯頑張っても、その人間が本来持つ力の半分近くさえ出せないようになっている。何故ならそれは、無意識のうちに脳が体に負担がかからないよう力を抑えているからだ。だが、オレはその人間の制限(リミッター)を解除し、無理矢理にでも最大限の力を出す事が出来るのさ。となると……」



ボキッ!



彼女の腕が手首から曲がり鈍い嫌な音が聞こえた。だが、彼女はそれでも止めない。



「こうなっちゃうよね。いい加減、その娘の為にも刺さればいいんじゃない? はははっ!」



「な、なんか分からんが、ゼロ! よくやった!」



はしゃぐ神父を横目にゼロの笑みが消えた。



「うっせぇな、ジジィ。オレの楽しい時間に入ってくんじゃねぇよ、殺すぞ?」



神父は背筋が凍りつく思いで口をつぐむしかなかった。



ザンッ!



「お?」



ナイフが……神崎の体を貫いた。



「ふうっ……面倒くせぇな」



かのように見えたが、実際には彼の脇腹にナイフを持った娘の腕ごと、抱き抱えるように挟み込んだのである。



娘はじたばたともがく様子はない。そのまま気を失ったかのように崩れ落ちた。



手元から触れないようにナイフを落とし、壁の端まで蹴り飛ばした。その上、床にそっと彼女を寝かせた神崎は、額から流れる汗を拭う。



「どんなトリックか分からんが、あのナイフに(タネ)があるんだろ。卑怯な手を使わずに正々堂々と来たらどうなんだ、ゼロさんよ?」



「じゃあ、そうさせてもらうか……」



腕組みを解き、壁から背が離れる……や、否や、神崎の体から自由が奪われる。



「ぐっ!」



「なぁんてね! 甘い、甘ちゃんだ。オレの『術』は簡単に破れはしないさ。その娘は死ぬまでオレの操り人形だ。さて、次は外さないよ」



(術……だと?)



娘が神崎の体を背後から羽交い締めにしている。振り解こうにも万力のような驚く力で締め付けられている。



「さて、頭がいいか? 心臓がいいか? いや、じわじわといくか?」



まるでダーツの的に狙いをつけるように、半身を前にし、ゼロはナイフの切っ先を神崎に向けた。



その時、神崎の(なか)に嫌な予感が過る。



「やめろっ! 離すんだっ!」



その叫びに娘は応えない。



「では……一投目!」



ゼロの手から放たれたナイフは一直線に飛ぶ。しかし、その刃が神崎に届く事はなかった。



何故なら、それはクルリと立ち位置を入れ替えた彼女が背中越しにナイフを受け止めたからである。



「おや? 術が解けた?」



またしても彼女は床に崩れ落ち……そうになったが、神崎は素早く彼女を抱えた。



「しっかりしろっ! だから、離れろって……」



彼の瞳に涙が浮かんだ。



彼もわかっている。ゼロの……そして、また違う何らかの力に彼女が(あらが)えない事ぐらい。



「ごめ……んなさい。ゴホッ」



吹き出した血が神崎の顔を赤く染める。



「しゃべるなっ! おとなしくしろっ!」



娘は頭を振る。背中から流れ神崎の足元まで流れるおびただしい血液を目の当たりにし、彼女は死期をさとっていた。



「お……おと……うと……を……たの……す……」



力なく、項垂れる。彼女は死の間近、精一杯の笑みを浮かべて、この世を去ったのである。弟の事をいつまでも想いつつ。



「……ごめんな。約束……守れなかった……」



そう呟くと、奥歯を強く噛み締め、彼は立ち上がった。


弟を託し、息を引き取った娘。


「約束を守れなかった」


そう呟く彼の中に、何かが芽生えようとしていた。



次回 魂の在り処 神崎編 その拾四『目覚めし獣、そして阻む者』



今回もご覧頂き、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ