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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
幕末編
281/290

魂の在り処 神崎編 その七『外から来た男達 後編 』

前回のあらすじ


神崎の夢の中に今も甦る辛い過去。


神を崇める島の男女の不自然な掟。


信じられない神崎の問いに揺れるミキサの心。


そして物語は核心へと迫る。




本島から離れた小さな島のひとつに海賊達の隠れ家はあった。



トーマをはじめとした若い島人数人と、金で雇われて来た男達がひしめくアジトは板張りで作られた簡素なものであった。が、ただ一室だけは豪勢な作りの部屋がある。



「どうだ?」



ソファーに深く沈みこむように腰を下ろした小太りの中年男性が、煙草をくわえながら向かいに立つ神父に言葉を投げる。



「そろそろ頃合いでしょうな。彼等のおかげで、この島の海底に眠るレアメタルを採掘しようと近付く船はありませんよ。しかし、貴方も大層な悪者ですな」



現地人と思われる白髪の神父は流暢な日本語で答えた。



「くくくっ。時代劇の見すぎじゃないのか。それではそろそろ始めるとしようか」



男はスーツの内ポケットから携帯電話を取り出した。



「……あぁ、私だ。採掘の準備は整っているか? 勿論、問題ない。うちの独占だ。これで我が社は市場を一手に握ったも同然。世界的に業界のトップに躍り出るというわけだ、わっはっは」



男は大声で笑い出す。その時、いきなり扉が開け放たれた。



一人の体格のよい島人が部屋に入り、神父と日本人の男を交互に睨み付けながら激昂し、口早に母国語で怒鳴っている。



「おい! こいつ、日本語が分かるのか!? まさか、今の会話が聞かれたんじゃないだろうな? 何と言っているんだ?」



焦る男は通話を切り、神父を見上げた。



「………………」



神父は部屋に飛び込んで来た男に向き直り、冷ややかな視線を浴びせ、この国の言葉で話し掛けた。



「しかし、恩を仇で返すとはこの事だな。トーマよ。島の自然を守るというお前の目的に私は……いや、この日本人は力を貸したのだよ。採掘船を追い払う為に武器や人員を集めたこの日本人が……」



トーマは目を血走らせ答えた。



「言い訳はよせ! 俺は今、確かに聞いたぞ。この日本人が電話で採掘の話をしていたのを。俺達は完全に騙されていた。島の自然を共に守りたいなんて言って近付いてきたこいつは、他の採掘船を俺達島人を海賊に仕立てて排除させ、後から自分が独占しようとしていたんだ!」



トーマの勢いに、かねてからの計画を見破られたのかと、吹き出す汗をハンカチで拭う男。だが、一方神父はほくそ笑んでいた。



「お、おい! やはり、ばれたのか?」



「……残念ですが。しかし、ご心配には及びません。既に事は終えた後。彼はどうにでも出来ます」



「馬鹿を言うなっ! お前達は袋のネズミだ。ニラン、ペコリ! 神父と日本人をやっちまうぞ!」



彼の掛け声に、ニランとペコリと呼ばれた二人の島人の男がドアの影からチラリと顔を覗かせた。



だが、二人の様子がおかしい事にトーマは気付いた。何故なら彼等の目には既に光がなかったのである。



ポタリポタリと床に落ちて出来る赤い血痕。



「こんにちは! ボク、ニラン! ぼくは、ペコリ。二人合わせてニラペコです!」



「うひぃっ!」



小太りの日本人……等々力大介(とどろきだいすけ)はソファーからたまらず立ち上がった。



「ニラン……ペコリ……」



友を失ったトーマの瞳から流れた涙が頬を伝う。



「驚かれちゃったよ、ニラン? 今から楽しい漫才をやろうとしてるのにね、ペコリ?」



それは見えない第三者の声。声の主は男達の生首の髪を引っ付かんで嬉々として腹話術をやっている。



「遊びはよせ、ゼロ。私は雇い主だ。聞かぬと金は渡せんぞ」



「……つまんね」



神父の声に反応し、二人の首を床に投げ捨て、ゼロと呼ばれた男が姿を現す。



オールバックにした髪に細身の長身。だが、肌にピッタリとフィットした黒の半袖シャツは鍛え上げられた筋肉を見せている。



「ミスター等々力。彼は味方です。貴方と同じ日本人。私が金で雇った傭兵ですのでご安心ください」



「ちくしょうっ! 外から来た(ヤツ)に俺達の島を好きにさせてたまるかよっ!」



「おっとー!」



トーマはポケットからナイフを取り出し、ゼロに向かって体ごとぶつかった……つもりだった。島一番の腕っぷしの強さであったトーマだったが、彼を軽くあしらうように、ゼロは一瞬にして彼をよつん這いに床に這わせていた。



馬乗りになり彼の髪を引っ張り、奪い取ったナイフを首筋に当てる。



()ってもいいわけ?」



雇い主である神父を下から見上げたその目には、躊躇なく殺しを行ってきた冷酷な光が宿っていた。



「まぁ、待て。それよりも、ミスター等々力を驚かせてしまったお詫びとして面白いモノをお見せしましょう」



神父は軽く手を打った。すると、部屋の外から薄着姿の若い娘が現れる。



「ほ……ほぉ!」



髪の長い青い瞳の女は等々力の前に立つと、すっと正座をし両手を前につき頭を下げた。



再び顔を上げた女は一流モデル顔負けの美人であった。



「どうですか? 良い女でしょう? 肌も綺麗なままで。いままでは力任せに調教して仕立てていたのですが、ミスター等々力に頂いた薬により、この通り……ほら、傷ひとつない体で従順な娘になっております。我々は部屋から出て行きますので、是非、一晩ご堪能くださいませ」



「お、おぅ! それは堪らんな。ほら、こちらに来い」



等々力に引っ張り上げられ、膝に座らせられた女の横顔にトーマは目を見開いた。



「あ……アキタっ! お前……」



「あぁ、この娘はトーマと同じ島の娘だったな。いや、あの島の男達は実に美人を連れて帰ってくる。おかげで私の懐も温かいよ」


それは、トーマが妹のように可愛いがっていた娘。半年前に神父の船に乗り島を出て行ったアキタであった。


海賊を仕立て独占して利権を奪おうとする等々力。


そして、等々力に力を貸す島の神父は、神の名の元に島の娘を連れさり、己の欲望と金を手に入れる男であった。


その神父に雇われたゼロと呼ばれる男も姿を現す。


この男は果たして、御代田が出会ったあの(ゼロ)なのか?




次回 魂の在り処 神崎編 その八『ラストワンを追う男 その名は(ゼロ)



今回もご覧頂き、ありがとうございました。

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