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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
幕末編
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鬼VS天賦の才

前回のあらすじ


接戦を制したかに見えた真だったが、沖田の能力により深い傷を負ってしまう。


だが、沖田は満足していなかった。


真の隠された能力(ちから)を更に引き出させようとしていた。

腹部の傷からは、とめどもなく血が溢れてくる。血は着物を濡らし、腰の帯に溜まって一滴一滴と地面に落ちてゆく。真の小さな体格から言うと、その出血の量は致命傷と言っても過言ではなかった。



真は朦朧とした意識の中、Guardiansでの特訓を思い出していた。






「おらおらっ! まだ、おねんねの時間じゃないんだぜ!」



ドボッ!



「うぐっ!」



倒れ様、腹に猛烈な痛みを感じた瞬間、体が宙に浮いた。



「おらよっ!」



「がっ!」



次は後頭部をハンマーで殴りつけられた痛みで気を失いそうになるが、そのまま床に叩きつけられ意識を取り戻す。しかし、体はもう真の言うことを聞かない。



「Guardiansの期待の新星がこの程度でくたばっちまうか?」



城山は無造作に真の髪を引っ付かんで持ち上げた。



「城山っ! いい加減にしろ!」



「ちっ! (ぜつ)か」



絶と呼ばれた若い男は、トレーニングルームの中央に足を運び、城山の腕を軽く捻りあげ真の体を抱え上げた。



「お前のは特訓じゃねぇ。いじめだ」



「俺はこいつを鍛えてやってんだよ」



腫れた目蓋を無理に押し上げ、絶の腕の中で真は答える。



「し、城山さんの……言う通りです。俺……少しでも早く、強くならなくちゃ……」



絶は激昂した。



「バカ野郎っ! そんなもんは痩せ我慢っつうんだよ。強くなる前にくたばっちまったら元も子もねぇだろうが。こいつに殴られまくって顔がゴリラになっちまうよりも、どうせなら俺みたいな細マッチョを目指せよ!」



絶の体格は霧雨のような細身である。しかし、その白地の服の下に鋼のように鍛えられた筋肉はGuardiansでも類を見ない強靭さであった。勿論、それに見合った実力の持ち主であるのは城山も充分に理解していた。



絶は自身より背丈のある城山を見上げ、力強く言った。



「そんなに相手が不足なら、俺がスパーリングしてやろうか?」



城山も馬鹿ではない。能力なしでの格闘戦において、絶に勝る者はいないのである。痛い目を見るのは目に見えている。



「けっ。『今』はそんな気分じゃねぇ。じゃあ、また今度遊ぼうな、坊主!」



背を向け去ってゆく城山に指を立てる絶。彼だけではない。多くのGuardiansのメンバーは彼の暴虐無尽ぶりに腹を立てていた。



「大丈夫か?」



「まぁ、なんとか……っとと」



絶の腕から飛び降りたはいいが、足元がふらつき尻餅をついていた。



「っしょ。あのな、真はなんでそんなに強さを求めるんだ?」



「姉ちゃんに……会いたい……んだ」



絶は彼の姉の事を霧雨四郎に聞いていた。比類なき特殊能力者であると。その為、Guardiansとは別に訓練を受けていた。



「強くなれば会えるって、あのおっさんが言ったんだ」



「あぁ、ナンバー10な」



研究員の事である。絶は彼が真を一流のGuardiansとして育てあげる為に嘘をついていることぐらい容易に理解していた。だが、今の真に真実を打ち明ける事は、今まで耐え忍んできた彼の精神はおろか、肉体までもが心の支えを失い、反動で崩壊してしまうだろう。



「よし。俺が取っておきの必殺技を伝授してやろう。城山ぐらい簡単に倒してしまうぐらいのな」



「ほ、本当に!?」



「あぁ。約束だ」



(俺がお前にしてやれる最後の置き土産だ)



絶と共にいたこの一日が、真にとって絶との最後になる事は予想だにしなかったであろう。



翌日、リターンゼロ計画の強行派である霧雨派と、この星で育った人間達との共存を図る穏健派の御堂派が袂を分かったのである。



御堂をはじめとした数人のGuardiansを含むfamilyは、母船ノアを出ていく事になった。



絶もその一人である。



だが、霧雨が安易にそれを許す筈はなかった。霧雨派のGuardiansが追っ手として差し向けられたのだった。



だが、絶は一人でしんがりを務め、彼等の手から御堂を逃がしたのである。



惜しむらくは、彼に止めを刺したのは城山であった。城山は御堂派につくと見せかけ、背後から絶を襲ったのである。流石の絶も、不意討ちをくらい、城山の能力(ちから)である全てを焼き尽くす炎に身を焼かれて命を落としたのであった。






(絶さん……に学んだこの技、今使わせてもらうよ)



腹の底に力を込め、両足を踏ん張る。途切れそうな意識を、歯を食い縛って振り払う。



(何をやろうとしているのかな?)



沖田の悪い癖であった。相手に全ての力を出させた上で、自身がその上をゆく。



ただ、沖田も百戦錬磨の剣士である。鞘に収めた刀をいつでも抜刀出来るよう、腰を落とし居合抜きの構えをとった。



「だぁっ!」



全身をバネにし、真は地を蹴った。駆けた……いや、飛んだという方が正しい。一歩で数メートルを突き進む恐るべし速さであった。



「ははっ! 凄いよ! その体で残り少ない命を削った一撃。いいよ、受けてみせるさ!」



真は右手の握り拳を固め、沖田の間合いに入った。



粉雪すら斬り捨てんかの如く、鋭い一撃が鞘から白刃が煌めいた。



(今だっ! 絶さん、力を貸してくれっ!)



「いっけぇっっ!! 超『絶カウンター』っ!!」







「いいか真。攻撃は最大の防御って言葉を知ってるか?」



絶は彼の隣に座って話し掛けた。



「わかんない」



「そうか。分かりやすく言えば、攻撃には二種類ある。ひとつは牽制として行う攻撃。パンチならばジャブなど、スピードと手数を中心とした攻撃だ。これが攻撃は最大の防御というやつだ」



「なんとなく分かった」



本当になんとなくである。実戦をさほど経験していない真には想像でしかなかった。



「だが、これだと相手を倒す為に時間がかかる。それならば、もうひとつの言葉は最大の防御……それがカウンターだ。決まれば一撃必殺!」



「す、すげぇ! カウンターすげぇ!」



カウンター。真少年は響きの良さに興奮を覚えずにはいられなかった。



「はっはっは。……だがな、カウンターには……」







(これは、凄いや! 近藤先生! 土方さん! 自分、今凄く楽しいですよっ!)



沖田の目には青い闘気(オーラ)をまとった少年が映っていた。



真の拳に乗る闘気(オーラ)。達人にしか使えぬ、また見えぬ力。お互いが人を越えているからこそ起きる現象。



真の背後にもまた青い人型のオーラが現れていた。それは、彼の憧れでもあった師、絶が彼の背中を押しているようでもあった。



そして、不思議とそれを受ける沖田の顔は、まるで童心に戻ったかのような無邪気な笑顔であった。



今は亡き師から引き継いだ技。


それはカウンター。


沖田の必殺の一撃と真の全てをかけたカウンターが交差する。


しかし、沖田の顔には……




次回 無邪鬼


今回もご覧頂き、ありがとうございました。




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