邂逅 後編
前回のあらすじ
充之達は奈良井宿の宿に一泊する事になった。
充之はそこで見知らぬはずの少年と出会う。
彼の目を見た充之はデジャヴを覚えていた。
(何なんだ! あいつらは!)
闇夜に提灯を持って走る男。彼は薬師の格好をしたあの研究員である。汗だくになりながら走る男は、背にした薬箱を投げ捨て、がむしゃらに街道を走る。
(坂本を追っていたら、おもわぬ者に遭遇してしまうとは……)
おもわぬ者とは、まさに充之達であった。
事前に、男は彼等の存在を感知した真に話は聞いていたが、坂本の護衛についている忍びの変装程度にしか受け取っていなかった。だが、実際に自身の目で見ると明らかに違和感があった。
(あれは確かに学生服だ。しかも、スカートだと? この時代にあのような格好をした日本人がいるわけがない。いや、いてはならない!)
文明開化以前の問題である。しかも彼等は電子手帳さえ持っていたのである。そうなると答えはひとつ。
(タイムトラベラーか? まさか、未来で四郎さんが開発に成功したのか! いや、それなら連絡などがあってもいいはず。まさか、別の人間……もしくは奴等が!? ここで考えてもはじまらん。とにかく、一刻も早く帰還してお知らせしなければ。 ちくしょうっ! 真ではなく、姉を連れて来ておけばっ!)
一般の人間である彼の走力は、後から駆けてきた真に追いつかれていた。
彼は真を偵察に出していたのである。
足を止め、震える膝を両手で押さえながら男は声を絞り出した。
「な、何か分かったか? 奴等は敵か? 味方か?」
真は首を左右に振った。
「分からない。でも……」
「でも?」
「坂本竜馬と一緒に歩いていた二人は何とかなりそうだったけど、あの二人は一人じゃ無理だと思う」
「まさか!?」
男が驚くのも無理はない。今の真はGuardiansでも五本の指に入る程の強さを有していた。
その真があの学生服の二人がかりだろうと、ひけをとるという事は彼等familyにとって脅威である事は変わりはしない。まして、彼等にさらに同じ強さの仲間がおり、敵対するとなるとfamilyにとって大きな壁となる。
「なんで、この時代にあんな人間がいるのだ!」
自分の目の前に厄介な者が現れた事に男は失望し、同時に怒りがこみ上げてきた。
「安心しなよ。彼等は敵じゃない。あの目は……」
「うるさいっ!」
パンッ!
苛つく男は真の頬を平手で打った。
「………………」
男に逆らう事が出来ない真はただうつ向くしかなかった。
「見かけで分かるわけないだろう! 現に小学生並みのお前一人でも、十分にこの国を滅ぼす事が出来るのだからな。とにかく、急いで……ん?」
再び走り出そうとした彼等を走り通り過ぎた者がいた。彼は息を切らしながら奈良井に向かってゆく。その手には一通の封書が握られていた。真には見えていた。果たし状と書かれた文字が。
「あれは……沖田総司か。おそらく、先程の決着に納得が行かなかったのだろうな」
実は沖田は近藤に宿に忘れ物をしてきたと偽り、この奈良井宿まで戻って来たのである。
「沖田の魂にも興味はあるが、今は帰還が優先だ。先を急ぐ……ぞ?」
白い粉雪がちらちらと空から落ちてきた。冷たい空気が辺りを包む。
しかし、男の言葉が途切れたのはそれが原因ではない。
「あぁ、貴方達はあの人と同じfamilyの方々ですね? 差し当たり、そこの少年はGuardiansでしょうか」
「な、何者だ。まさか、あの学生服の仲間か! 真、私を守れっ!」
真は男を庇うように前に出る。男は数歩、後退りした。
青年は刀を抜いた。刀の切っ先が空に掲げられる。そして、振り下ろされた。
真は微動だにしない。何故なら、刺客と自分の間合いは数メートルはある。刀の届く範囲ではないからだ。
「ギャッ!」
「!?」
真が振り返ると男は既に血塗れの体を地面に横たわらせていた。即死であった。側で落ちた提灯が燃えている。すぐさま、刺客に向き直り、拳を前に構えた。
振り下ろされた刺客の刀は地面に触れそうな位置で止まっている。
(真空波? いや、違う。何も感じなかったし、見えなかった)
刺客は刀を再び振り上げる。
「次は君の番だ。familyであった事を後悔するがいい」
真は闇の中、キッと目を見開き、声を上げた。
「お前、誰だ! 何で殺す?」
フッと微笑をこぼした刺客は言う。
「私は沖田総司。お前らfamilyを狩る者だ」
沖田の刀が振り下ろされた。
復讐鬼と化した沖田の剣は、研究員をいとも簡単に斬り捨てた。
沖田の能力を知らない真は窮地に立たされる。
次回 夢、そして遠い遠い昔の記憶に涙する少女
今回もご覧頂き、ありがとうございました。




