第二十五話 不安
システムルーム内の充之は苛立ちを隠せないでいた。何故なら、数分ほど前のスピカの発言に無抵抗な自分がやるせなかった。追加転送は最初の転送から30分後に一人のみ。二人目以降もさらに30分の時間の経過が必要だと言うことであった。
(そんなの待てるかよ)
腕時計のデジタルは回線が繋がってから五分ほどしか経っていない。あと、20分近くの時間があった。充之の苛立ちを見透かすかのように岬は声をかける。
「焦ってもはじまらんぞ。それより、あの酒呑童子を討つ策でもあるのか?」
「鬼であろうが、何であろうがとりあえずぶん殴る」
(あの姉あればこの弟ありか)
視線を移した先にはいち早く察した神楽がウィンクを返してきた。
清音を中心としたモニターには、鬼と交戦する二人の侍が映し出されている。すぐ側には緊張した面持ちの千晶と恐怖に縮こまっている優音の姿があった。清音の正面ではあるが木立の陰には古い堂があり、姿は確認できないが柚子のネームデータだけが堂の入り口付近に表示されている。
「息が上がってきてるわね。そろそろ、あの二人も危ないかもね」
神楽の言葉通り、切り合いを行っている男の動きが怪しくなる。何度か太刀は鬼の皮膚を切り裂いているが、皮ひとつのところで致命傷にはいたらない。が、鬼の爪は男の着物を幾度となく捉え、肩から太股までがあらわになり、流れ落ちた血は地面に血溜りを作っていた。若侍らしき方はかろうじて、鬼による男への止めの一撃を反らすよう体当たりを繰り返している。彼もまた頭髪が乱れ、破れた草履を脱ぎ捨てながらも命懸けの攻防を行っている。
「スピカ、清音の実力から勝算はありそうか?」
岬の言葉に我に帰ったスピカはしばらく考えた後、沈痛な表情で首を振った。
「いかんな。レナスシステムによる肉体強化は行っておるが、あの二人の達人も相当な実力者じゃと思う。それが、まるで子供扱いじゃ。いかに清音に居合術のセンスがあるとしても、まだJK…あ、いや子供の体じゃ。せめて四割ほど勝ち目があれば良い方じゃ」
「なら、キヨじゃあの鬼に負けるってのかよっ!」
憤慨する立石は唾を飛ばしながらスピカに詰め寄る。
「まぁ、待て。今の清音では無理じゃが…」
「あ、動きがありました!」
スピカの次の言葉を待たずに福井が立ち上がる。突然話を遮られ膨れっ面を見せる。
「清音さん!応答してください!清音さんっ!」
清音自身が通信回線を遮断しているのか、福井の声かけに無反応の清音。
「まさか!?」
突然、清音が駆け出したことでモニターの風景に変化が起こる。みるみる内に前方の視界は鬼を捉え、近付いてゆく。に、つれ鬼の巨体を間近に見ることとなった。左手には意識があるのかないのか柚子が堂の入り口付近に坐り込み呆けている姿が映し出されている。
「清音っ!止まるんじゃ!」
マイク越しに叫ぶスピカの声が聞こえていないのか、清音は前進を止めずさらに加速する。
「応答ありませんっ!システムに異常はないはずですが」
「人一倍責任感の強い清音の事じゃ。何か考えで独断行動したと思うが。こうなるとお手上げじゃな」




