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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
選ばれし者
233/290

交渉

前回のあらすじ


真一を裏切り者と呼ぶナンバー44の攻撃をなんとかいなした真一。


その頃……

霧雨四郎は夢を見る。



いや、それは遠い昔の記憶。



彼が体験した記憶が、夢の中で繰り返し甦り、語りかけてくるのだ。







「離してよ!」



少年は嫌々ながらも、白衣の男に抱えられながら廊下を進んでゆく。側には内心不安を抱えているであろう少女が、せめて弟の前では強気でいたいのであろう。しかめっ面のまま、白衣の男の後ろをついて歩いている。



大きな扉の前で男は何やら片手を動かすと、突然、巨大な扉がゴゥンという音と共に開いた。



「うわっ! 人がたくさん……」



四郎少年が驚くのも無理はない。巨大な部屋の壁一面に配置された試験管のようなものがあり、中には年齢、性別様々な人間が瞳を閉じ、穏やかな表情で眠っているのである。



「御堂さん、ここは?」



少女は御堂と呼んだ男の白衣を引っ張って問う。御堂は担ぎ上げていた四郎少年を床に下ろし、ぐりんと肩を回しながら言った。



「三幸ちゃん、ここはスリーピングルームだよ。これから、この宇宙船で地球を出て長い旅に出るんだ。とても長い旅だから、皆、今から休んでいるんだ。さ、君達の寝床に案内するよ」



御堂は二人を連れて試験管の並ぶ壁沿いを歩く。個々に振られたナンバーと中の人間達をつぶさに確認しながら歩いてゆく。



「あ、御堂主任! 助けてくださいよ!」



奥の壁際で、三人の子供に囲まれ悪戦苦闘している御堂と同じく白衣姿の男が助けを求めて来た。



「べろべろばぁ!」



「こら! (しん)! お姉ちゃんの言う事を聞きなさいよ!」



「やなこった! まだ、眠たくないのに寝られるかってんだ」



おそらく姉弟であろう。二人は白衣の男の足元をぐるぐる回っている。



「二人とも。おじさんが困ってますよぉ」



ブルーの瞳が美しいブロンドヘアの少女が困りはてている。



「いや、まだ二十歳なんだけど……じゃなくて、君達いい加減に眠ってくれないかなぁ」



白衣の研究員は子供の扱いに慣れていないようである。見かねた御堂が声を掛けようと近付く横を、三幸が走り抜けた。



「ねぇ、みんなも宇宙旅行に行くんでしょ?」



突如、同年代の少女に声を掛けられた三人は動きを止めた。



「宇宙旅行? そうなんですか。私達、何もわからないまま、このおじさんに連れてこられたんです」



「そうそう。んで、いきなりここに来るなり、中に入って寝ろだってよ。わけわかんねぇよな。まさか、改造されちゃうとか? こえぇ」



弟の気持ちがわからないわけではないようで、姉もうんうんと頷いている。既におじさん……もとい、研究員は悪の手先と勘違いされているようだ。



「違うよ。今からみんなで地球を出て宇宙に行くんだよ。宇宙を冒険して、いろんな星を巡るんだ! この宇宙船だってパパが作ったんだよ!」



「すげぇな! お前の父ちゃん!」



大人が説得するより、四郎少年の夢のような話に子供達は夢中である。



御堂と研究員は肩すかしを食らい、苦笑いを浮かべた。



「じゃあね! 目が覚めたら一緒に遊ぼうね」



「約束だかんな」



「おっけー」



姉と弟は31と32のナンバーがふられた試験管に入った。



「ミュールちゃんもまたね」



「はい。また、会いましょうね」



少女は30とふられた試験管の中に身を移し、まぶたを閉じた。







「……さま。四郎さま!」



「……む?」



耳元で自分を呼ぶ声がして、四郎は現実世界に引き戻された。



「お休み中、失礼しますですです」



緑色の髪を肩まで伸ばし、先端をカールした少女が四郎の目の前に屈んで顔を覗きこんでいる。



「どうした、レインペル?」



彼女の名はレインペル。ナンバー16として産まれ、もっとも四郎の信頼おける位置にいる片腕である。その有能さ故に、四郎は自分が眠っている間の指揮権限は彼女に委ねていた。



「こちらをごらんくださいませませ」



独特の口調にやや問題はあるが。



彼の部屋のモニターに映像がリアルタイムで流れている。



「あれは……」



「はい。結界を侵入してきた車両がありましたので、ナンバーさーてぃわんとナンバーふぉーてぃふぉーを偵察に出したのですですが。ナンバーふぉーてぃふぉーと対峙しているのは、おそらく百年ほど前に脱走したナンバーさーてぃとぅだと思われますます。当時の姿と違いますが、長らく人間と接していた事で本来の人の成長スピードが付加されているかとかと」



四郎は先程見た夢に現れた少年を思い出しながら、映像に映る青年と比べていた。



「いかがしましょうしょう? 決まり通り、ナンバーふぉーてぃふぉーに処罰させますますか?」



四郎はふんと鼻を鳴らし言った。



「好きにしろ」



「かしこまりまり……」



その時、画面の端に映る車両から、もう一人四郎が知らない人間が飛び出してきた。







「やめろ! 私達は殺し合いに来たんじゃないんだ!」



「おい! 外に出てくんじゃねぇっ!」



車内から飛び出した進は、二人の間に入ろうと体を近付ける。彼は武術や戦闘における知識は皆無であった。



死と背中合わせの緊迫した二人の間に、ずぶの素人が入り込んで来ようとしているのである。真一にとってこれほど嫌な事はない。



一方、ナンバー44は水を差された事に怒りを覚えていた。



「でしゃばるな小僧! 我々の闘いを邪魔するか? ならば、死を与えてやるわい」



猿の頬が膨らんだ。



(くそっ! ここからじゃ、間に合わねぇ!)



そう。先程、真一を狙った毒針を吹くつもりである。たかが一般人である進に、先程のスピードで発射された毒針はかわせない。



しかし、進はポケットから小型のスピーカーのようなものを取り出し、親指でスイッチを入れた。



スピーカーから、進の手で録音されたであろう何者かの声が大音量で響く。



「私はナンバー2、御堂克実(みどうかつみ)だ。ただちに反抗はやめたまえ。もう一度言う。一切反抗せずに今から、この者の言葉にに耳を貸せ!」



途端、ナンバー44……そして、真一の体までもが、まるで時を止めたが如く微動だに出来なくなったのである。



「……と、こんな感じでいいのかな? 進く……」



カチッ!



慌てて停止ボタンを押して、咳払いする。気持ちを落ちつかせ、彼は声を上げた。



「どこかで見ているだろう? 代表者である霧雨四郎くん。君と話がしたいんだ!」







四郎は御堂の声を利用した進を睨んだ。



(あれは確かに御堂……の声だ。こいつは何者だ?)



レインペルは厳しい表情で画面の中の冴えない人間を睨む四郎を見つめ、じっと指示を待って待機している。








「御堂さんから話は聞いた。君が何故、今この星に『いる』のかを。そして、私は……私の研究は君の力になれるはずだ。君達の持つレナスを使えば、君の……いや、人類を救う時空転移装置を必ず作ってみせる! その証拠を見せてやる!」



進は動きを止めたままの真一の側に歩み寄る。



「すまない、真一くん。騙したようで悪いが、もう少しだけわがままに付き合ってくれ」



「な……何を……」



動けない真一の懐から学生服を来た人形を取り出し、天高く掲げた。


幼き四郎達を連れた霧雨博士の助手であり研究主任の御堂。


何故、進は彼の肉声を録音できたのか。


そして、彼は自身の研究を元に彼等の持つレナスを利用すれば時空転移装置……タイムマシンを作り出す事が可能だと言い切ったのである。


そう。四郎達もまだ時空転移装置を手にしていない時分である。



次回 夢と欲望と



今回もご覧頂き、ありがとうございました。





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