No.32(ナンバー32)
過去の記憶の中にいた青年との大切な約束を思い出した真一。
そして、彼が持ち歩いていた人形は青年を模して作られたモノである事が分かった。
はたして、彼等は真実にたどり着けるのだろうか。
「大丈夫かい?」
「あぁ……」
記憶を取り戻すという事は脳にかなりの負担がかかる。真一は脱力したように座席のシートを倒して、瞼を閉じた。
「何か思いだしたのかい?」
「少しだけ……幼い時の記憶を思いだした」
「そうか。プライベートな事だろうが、もし、よければ私にも教えてくれないかな」
若干、躊躇う。だが、進のおかげでかけがえない大切な記憶を取り戻せた事も事実だった。
「約束したんだよ」
「約束?」
真一は懐から学生服姿の人形を取り出して見せ、記憶の内容について語った。
記憶の中の青年や対峙した男……そして、セーラー服の少女の名は思い出せなかったが、何故か彼等は自分の恩人……いや、とても大切な人だという気持ちが沸き起こっていた。
聞き終わると、進は車を止め、小さな人形をまじまじと見つめた。
「ふむ。百年前に作られた物……じゃないな。となると、結論はひとつしかない」
「………………」
「君や彼等は『時』を越えたんだ」
先程までの真一なら一笑に付していただろう。だが、自分の記憶にある映像は進の発想を明らかに肯定していた。
冴えない中年の眼鏡の奥瞳に光が宿る。
(やはり、私の考えは間違いではなかった。『彼』には感謝しなければならないな)
沈黙の中、ポツポツと車の窓に水滴が付き始めていた。
「これは本降りになりそうだな。とりあえず、私の実家に行くか。まぁ、今では誰も住んでない古びた山小屋だけどね」
車はエンジンを震わせ、再び山道を走り出した。
その様子を高い木々の間から見透かす二つの目。クルクルと回るまん丸な目玉の男は六十歳前後のしわがれた白髪の老人である。だが、その目には武術を嗜んでいる者には一目でわかる殺気が宿っていた。
「いいのかね? 裏切り者のNo.32(ナンバー32)はNo.31(ナンバー31)の弟じゃなかったのかい?」
彼の後ろの枝に立つ少女は答えた。
「あたしをナンバーで呼ぶなって何度も言ってるでしょ、No.44(ナンバー44)。私にはお母さんからもらったリウっていう大切な『今』の名前があるんだから。っとに、あたしより後に産まれたのに図々しいったらないわね」
「それはすまんかったが、質問の答えにはなっておらんぞい?」
ナンバー44と呼ばれた老人は、手にした長い鉄の爪をカチカチと鳴らしている。
「殺りたきゃ、殺ればいいわ」
少女は可愛らしい見た目と似合わず、吐き捨てるように言い放つ。
「ほっほっほ。後悔しても知らんぞ。ワシらGuardiansは、一度狙った獲物は必ず始末するからの」
言うなり、老人は背を曲げ体を縮め、次の瞬間、バネのような反動で飛んだ。それは、驚くべきスピードで木々の間を駆け抜けて、真一達の車を追って行った。
(あたしを置いて行っちゃったのが悪いんだから……)
巻き髪の少女は心の中でそう呟いた。
真一と進を追うGuardiansのNo.44(ナンバー44)。
そして、謎の巻き髪の少女。
彼女達が呼ぶ裏切り者のNo.32とは?
次回 強敵者
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