第二十三話 伝説の鬼
モニターに表示された柚子のデータが切り替わる。
『転送先西暦1469年、日本。
ミッション対象酒呑童子討伐
難易度☆8
討伐推奨レベル30』
「ちょ、ちょっと待ってくださいませ!推奨レベル40なんてあのコ達だけでは無茶にもほどがありますわ!」
「しかも、酒呑童子とは。伝説の鬼まで引き合いに出すのか…」
酒呑童子。
昔、大江山を棲みかとした伝説の鬼の頭領。たびたび、京の都へ降り、人をさらったり悪逆非道を尽くした。帝の命により、山伏の格好をした源頼光みなもとのらいこうや金太郎としても馴染み深い坂田金時により酒好きということもあり、毒の酒を盛られ討ち取られた。だが、首を落とされても源頼光の兜にかじりついたまま長く離れなかったという。
「私が行こう。スピカ、追加転送の準備を頼む」
「岬、お主は先日のスフィンクス戦で装備が破壊されたのはワシを理解しとるじゃろ。あれは修復中じゃ。追加転送が可能になる30分までではとても修復まで間に合わん。例えお主でも装備なしでは死にに行くようなもんじゃ。」
(追加転送?行けるのか?)
「では、わたくしが参りますわ!聖騎士クラスの力を見せつけてあげますわ!」
響子が得意満面にずいっとスピカの前に立つ。
「生徒会長は駄目じゃ。ワシの補佐をしてもらうからの…というわけで、残るは二人じゃが」
スピカの視線が充之と神楽に向けられる。神楽は然程驚いた様子も見せず、充之の出方を伺っている。
(いい面構えじゃの)
開口一番、充之はスピカに詰め寄った。
「オレに行かせ…」
そのタイミングでシステムルームの扉が開き、立石が戻ってきた。続いて立石のペースに合わせて引きずられて行った黒川がゼーゼーと息を切らせながら入ってくる。
「わかったぜ。手芸部一年の御堂ってのが…」
「もう分かってますの。二人ともご苦労様でしたわ」
「ちっ、オレ達が散々学園内を駆け巡って調べて来たのによ。な、黒川!」
「あ、あんたとはもう行かないから…」
黒川に睨み付けられているものの、当の本人は一向に気にしていない様子である。
「データ来ました!今、転送先をモニターに表示します!」
四分割モニターそれぞれに転送先の風景が映し出されている。
「な、なんだよ!こいつは!」
物語などで語られる鬼そっくりなモノが一人の侍と交戦していた。侍は着物の所々に傷を受けて、血で赤く染まっている。爪や牙の攻撃から致命傷を寸でのところで避けているようだが、体力的にも時間の問題かと見受けられた。
「回線繋げられるかの?」
「やってみます。…山県さんっ!山県清音さん!応答願います!」
やや時間差でモニターの清音が反応する。
「通信が…回復した?こちら、リーダー山県です。これはどうなってるいるんだ?転送先が話しと違うし、立石もはぐれるし…」
岬が自身の小型マイクを使って応答する。
「時雨だ。転送と同時にこちらで地震があってな。システムに不具合があった。今から…」
立石が岬の襟元にあるマイクに顔を寄せた。端から見れば頬擦りしているかの距離感である。
「おい!キヨ、大丈夫なのか!オレはここにいるから安心してくれ…って、おい!まだ話しが…」
「はいはい、また後で」
立石は神楽に襟首を引っ張られ強制退場。
「取り敢えず、通信はリーダーのみ回線が回復しているみたいだな。今後はこちらで可能な限りバックアップを行う。ミッション確認後、こちらからの指示に従って欲しい。それまでは絶対に動かないでくれ」
「了解」
清音の澄んだ声に落着きがあることを確認したスピカは両手を旋回させ声高に叫ぶ。
「全方位モニター作動!リーダーの清音に合わせて展開させるのじゃ!」
「了解しました。全方位モニターリンクシステム作動!」
福井がタッチパネルを操作すると、瞬間ルーム内の壁から天井、地面までが前方から円を描き囲むようにモニターへと変わり、360度転送先とまったく同じ風景が表れた。
「これは?」
「レナスシステムのバトルフィールドを転送先のリーダーである清音の視界を中心にモニター化したものじゃ。もちろん、わしらは清音本人は見えずとも上下左右、後方まで全ての視界が我々のモノとなる。ふふん、どうじゃ?少しはワシを見直したかの?」
得意気なスピカを余所に充之は岬のマイクに向かって大声で叫ぶ。
「千晶に伝えてくれ。必ずオレが連れ戻してやるから待ってろってな!」




