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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
215/290

さらば、ライフサーガ 早苗と紫苑編 前編

前回のあらすじ


霧雨と共に姿を消した円。


彼女は姉の不幸を知らない。


霧雨の言う『あらゆる悲しみから世界からを救う方法』とは?


そして、ライフサーガから最後の二人が現世へ戻ろうとしていた。



タラッタタター!



「ハードボイルドドラマ、『金獅子は眠らない』第二話! 浦島の逆襲」



プツン!



リモコンの電源ボタンを押す。



「あはは……つまらないですよね」



宿の二階の一室。ベッドの上で上体を起こしたまま、紫苑は早苗の顔を見つめている。ミカエルに切り落とされた左腕には包帯が巻かれている。



「あなた変わったわね」



「そうですか? 私は分かりませんけど」



「……よく笑うようになったわ。私と会った時とはまるで別人みたい」



「あ……」



(やっぱり私変わったのかも)



あの凄惨な協会での出来事の後、彼女は笑った記憶がない。ここ、ライフサーガに来た時から彼女はシスター小百合を探し出す事のみを考えていた。



紫苑の元でライフサーガの生き方を学んだ彼女だが、小百合の

情報を集める事だけは続けていた。暗殺者ギルドの情報や金で雇った諜報員を各地に送ったりしたが、全くと言っていいほで小百合についての情報は皆無であった。



うつむいた彼女を見透かしたように紫苑は声をかける。



「小百合……さん、だったかしら。何か情報は掴めたの?」



「いえ、何も……」



紫苑は顎に右手を当てて考える。



「そう……ベルゼブブ、彼なら何か知っていたのかもしれないわね」



「でも、彼は既に……だから、もう何も情報は……小百合さんごめんなさい……」



早苗は記憶の中でいつも笑顔で優しい小百合の顔を思い出して涙した。



小百合の足取りを追うものは何もなくなった。早苗はそう思っていた。



ガチャ!



「それは違うね」



扉を開けて入って来た少女……の姿をした悪魔、アスタロトである。



「アスタロトさん! それはどういう事ですか?」



アスタロトは早苗の胸に人差し指を当てる。彼女の胸が揺れた。



「やっ!」



「あ! 勘違いするな! お前の中に答えはあるという意味だからな!」



コホン! と咳払いをし、アスタロトは話始めた。



「アリスはお前にも、そして私達にも有用な情報を残してくれた」



「アリスさんが……あ!」



早苗は思い出した。彼女の魂と同化し過去の自分の記憶を辿った際に知った情報。



「時雨……博士?」



「そう。時雨とは岬の姓。おそらく父の進博士の名を騙った霧雨という人物。こやつが鍵を握っている。そして、小百合を連れ去った武装集団が霧雨と話していた『アムリタの壺』。『アムリタ』とはインド神話に出てくる不老不死を得る事が出来るという酒だ。おそらく、小百合はその『アムリタ』を得る為に必要なのだろう」



(霧雨……この人が小百合さんを……)



彼女の頭の中に霧雨という名前が強く刻みつけられる。



「良かったわね早苗。小百合さんの手掛かりが掴めたじゃない」



紫苑が微笑む。久し振りに見た彼女の笑みに早苗も嬉しさが込み上げてきた。



「ありがとうございます、紫苑さん。私、必ず小百合さんを連れ戻します。だから、紫苑さんも……」



早苗は言いかけて口ごもった。未菜ちゃんと幸せに……その言葉が出せない。彼女の姿は栞であり、彼女が娘にした事は親として取り返しのつかない事として受け止められても間違いではないのである。



「……私は母親として失格ね。夫を殺し、そして未菜にまで手をかけようとした……ううっ」



右手で顔を覆う。頬を一筋の涙が伝う。



ギィッ……ドタッ!



早苗が驚いて扉の方に視線を移すと、そこには部屋の中に倒れ込んだ立石の姿があった。



「後輩、押すなよ!」



「先輩が今部屋に入りずらいとか言って聞き耳立ててるのが悪いんすよ」



立石は頭をかきながら照れくさそうに笑った。



「なんか、取り込み中みたいだったからなかなか入りづらくってよ。ほら、香川!」



立石と武井の間をすり抜け、険しい顔つきの香川が部屋に入ってくる。彼は未菜の手を引いていた。



「あ! 栞お姉ちゃんだ! 無事だったんだね」



「っ!」



紫苑は顔を背けた。



「しっかり未菜ちゃんの顔を見ろ!」



香川が怒鳴る。一同はあ然とした。普段から静かな香川が声を荒げる事に驚いたのである。



「お兄ちゃん! 栞お姉ちゃんを怒らないで!」



紫苑の側に寄り、彼女を庇うように両手を広げる小さな体。



「大丈夫! あたしがお姉ちゃんを守ってあげるから」



笑顔で振り向いた未菜の視線を真っ正面から受け止める。紫苑の両目から涙がとめどなく溢れてきた。唇を噛み締め、右手で口を押さえる。こうでもしなければ声を上げて泣き出してしまいそうだった。



「お姉ちゃん、泣いてるの? 大丈夫?」



未菜はポケットからハンカチを出して彼女の涙を拭おうとベッドに上がる。



「え? お姉ちゃんじゃない……この匂い……」



そう、幼い彼女には分かったのだ。赤ん坊の時から抱かれて育ったのだから。



「……お母さん」



「ううっ! 未菜っ! ごめんなさいっ! ごめんなさいっ!」



彼女は娘を抱き締めた。強く強く。



「お母さん! お母さん! う、うわぁぁぁん!」



今の今まで堪えていた少女の悲しみの感情が噴き出した。



抱き合う母と娘。



彼等は何も言わず二人の姿をただじっと見守っていた。






母と娘の再会。


そして、アリスが残した早苗の新たな道標(みちしるべ)


彼女達は神をも越えた力を持つ恐るべき敵を前にどう立ち向かうのだろうか。




次回 さらば、ライフサーガ 早苗と紫苑 後編



今回もご覧頂き、ありがとうございました。

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