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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
201/290

解明の秘策 後編

前回のあらすじ


解明の策により、ミカエルとの戦いの陣形をとるレナスメンバー。


いよいよ、天使VS人間の最終決戦が始まる。


「(立石くん、大丈夫ですか!)」



「(へっ! こんぐらいの傷、武井(アイツ)の傷に比べりゃどうってことはねぇよ)」



立石は額に脂汗を滲ませながらも、ガッツポーズをとる。



解明には分かっていた。彼は嘘をついている。いわゆる痩せ我慢だ。仲間に心配をかけたくないという立石の性格が手に取るように分かった。



だが、幸いな事に彼の傷は致命傷ではない。あの至近距離からのミカエルの攻撃をかわした反射神経は通常の人間には奇跡に近いほどほぼ不可能であった。



(彼のセンスは勿論だが、レナスの防護フィールドが作用しているのか。そうか、なるほど)



解明の出した結論は、岬をはじめとしたレナスメンバーのみレナスシステムの加護が今も機能しているという事であった。



(やはり、彼等にすがるしかない……ならば!)



ミカエルの脅威に抵抗できる唯一の存在が彼等なのである。



「(岬さんと響子さん……でしたね。あなた方はアスタロトさんと一定の距離を置いて防御に徹してください。アスタロトさんは極力ミカエルとの間に二人を挟む形で移動してください。神楽さんと立石さんはミカエルの攻撃を牽制しつつ、二人との間隔を保ってください)」



瓦礫の陰からミカエルにみつからないよう姿を隠し指示を送る解明。



(ふふ。的確な判断だね。このアスタロトが人間の駒になるなんて思ってもみなかったよ)



万が一、ミカエルがレナスメンバーの誰かと位置を変えた場合に即座に対応できる陣形が整っていた。



「ふぅん。これは誰の考えかな? やはり、アスタロト……いや、違うかな?」



ミカエルは彼等の中に、この陣形を指示した人物がいると考えていた。



「なら、仕方ないね」



武井に翼を引き裂かれたミカエルは飛ぶ事は叶わない。ならば、より速く動く為に誰かの位置に移動しての不意討ちを狙っていた。



「あ!」



ミカエルは響子と自身の位置を移し変えた。



そう、彼女は武器を持たぬ岬を狙ったのだ。



「くっ!」



「能力は使わせないよっ!」



岬の時を操る能力(スキル)の効果を発動させまいと、ミカエルは一瞬の隙を与えずに剣を振り下ろした。



「岬っ!」



岬は無手なのだ。時を操る能力(スキル)という圧倒的な能力を持つ彼でも、自分と違って素手で戦う力がないことに神楽は気付いていた。



キィィィンッ!



「何……だと?」



「間一髪だったか」



弾き返されたミカエルの剣。その下に岬が握り締めている一振りの大剣の刀身が日光を受けて光輝く。



「聖剣エクスカリバーだと!? それは先程、結界を破る為に……ハッ!」



エクスカリバーは解明とベルゼブブの戦いの最中、舞台に張られた結界を破壊する為に使われていた。その際、神楽の拳による一撃で結界を貫き、向かいのコロシアムの壁まで飛来し突き刺さったままになっていた。



何かに気付いたミカエルが振り向く。



答えは彼女の視線の先にあった。



腹這いのまま掲げられた武井の左腕、そして彼のしてやったりという表情。



「さ……いご、の力だ。もう、一ミリもねぇ……や」



全ての気力を使いきり、武井は顔面から地面に突っ伏した。



「くっ! 死にぞこないがっ!」



「いかん!」



血相を変えたミカエルが方向転換し、武井に向かって走り出すのと、岬の言葉はおそらく同時であったろう。



「ちくしょうっ!」



一番遠くにいる立石ではミカエルのスピードに追いつけない。



「くたばれっ!」



「くそっ!」



武井はマサカドブレードに手を伸ばそうとした。



(!?)



側にあったはずのソレはない。ミカエルに位置を変えられたのだから。



(みんな、すまねぇ……)



ミカエルは岬に攻撃を仕掛けた時よりも、更に速い最速の剣を両腕に力を込めて振り下ろした。血走った真っ赤な眼の下に失意に目を閉じた武井の姿があった……



筈だった。



気がつけば、ミカエルは剣を握った腕を離していた。更に地面から両足が離れた。体が後方へ流れてゆく。



見開いた目の前には、両手の平で剣の刃を受け止め、高く片足を振り上げた神楽の姿があった。



ザンッ!



ミカエルは着地と同時に膝をつく。左肘に若干の痺れを感じた。



空蝉転成(うつせみてんせい)からの包丁落とし……ってダサい名前でしょ? あたしのご先祖の家に押し入って返り討ちにあった馬鹿な強盗を撃退した時に生まれた技なんだけどね。実戦で使ったのは初めてだわ」



柳生の新陰流に伝わる真剣白羽取り……無刀取りと右足の蹴り上げを同時に行う技である。



「さすがだな」



「先輩、すっげぇわ」



「神楽先輩、最高ですわ!」



岬が認め、立石が脱帽し、響子が瞳を輝かせている。



「よく頑張ったわね。しばらく寝てなさい。後は私達がやるわ」



「神楽……先輩……」



安堵の表情のまま、武井は気を失って倒れた。



「(対象者ノ生命維持ヲ最優先。回復モードニ移行シマス)」



女性の声が響き、彼の体を光の膜が覆った。



「(いやはや、流石は真田流師範は伊達じゃない)」



嬉々として誉める解明。



「(あんたねぇ……ま、いいけど)」



(まさか、ミカエルの行動を読んでこの立ち位置計算してたとしたら、あんた天才だわ……ん?)



「……だ。この……」



ミカエルはうずくまったまま、何かぶつぶつと呟いていた。



「この体は実に脆弱(ぜいじゃく)だ。人間とは何故にこのような体で神に立ち向かうのか? 絶望しかない未来が待っているだけだというのに」



「そう思ってるならちょっと違うわね」



顔を上げたミカエルの目は不思議なモノを見るように神楽を見つめた。



「確かに神から見れば一人の人間は弱い存在かも知れない。でも、信じる心、守るべきものがあれば、人間はもっと強くなれるの。あんたは何を信じて戦ってるの? あんたには守るべきものがあるの?」



「信じる? 守るべきモノ……?」



彼女の視線が宙をさ迷う。



(私は……何を信じている?)



彼女の脳裏に、三人の姉妹の顔が浮かぶ。生れた頃からずっと一緒で、生死を共に出来る間柄である天使たち。



いつもお転婆で姉泣かせのガブリエル。



冷静沈着で生真面目なウリエル。



普段は優しくおっとりしているが、芯の強い心を持つラファエル。



(私は何を守って戦ってるの? 彼女達の為? いや、違う……私が守るべき者は……創造主?)



頭の中に(もや)がかかったように、創造主である彼の顔が浮かばない。



彼女の心に違和感が残った。



(え、創造主? 誰……誰なの!?)



「う……わぁぁぁっ!!」



「!?」



ミカエルが頭を抱えて叫び声を上げた。彼女……シャイルの姿に重なって、天使ミカエルの体がまるで幽体のように歪んで見える。彼女の額に十字の紋様が現れては消えている。



(む? あれは……もしや!?)



アスタロトは見逃さなかった。あの光を放つ紋様が彼女を束縛していることを。それだけ、紋様に強い魔力による封印が施されていた。



「(分かったぞ! ミカエルの精神は何者かに乗っ取られておる! 道理で神の代行者である天使長あるまじき行動をとっていたはずだ)」



「という事は、あれが弱点……ってことね」



「(待て! 早まるな! あれは……)」



アスタロトの言葉より先に神楽はミカエルの目の前で拳を振りかざしていた。



(やるしかない!)



拳にありったけの気を乗せる。



「撃ち抜くっ!」



額の紋様目掛け拳を振り下ろした。



「……え?」



激しい閃光と共に全身に強い痛みを感じた。神楽の体が吹き飛ばされた。



「(神楽っ! アスタロト、あれは弱点ではないのか!)」



「(あれはミカエルを縛る封印だ。シャイルという娘とミカエルを結ぶ弱点は別な場所にある。しかも、彼女が受けた光は神気(しんき)だ。まともにくらえば、人間の体にはひとたまりもない。神の力がここに来て……)」



ミカエルは剣を手に立ち上がる。彼女の目は虚ろで、確かに何かに取り憑かれているようでもあった。



「……私は……創造主……の為に……この身を……捧げた」



岬達を見回し、剣の切っ先を彼等に向けた。



「来るぞ! 皆、警戒を怠るな!」



先程とはうって代わり、低く重厚な声が響きわたる。



「貴様等は……命を捧げよ」






コロシアムの観覧席から少女は見下ろしていた。



最初は武闘ギルドの長であるシャイルを複数のプレイヤーが寄ってたかって追い詰めているように見えた。



が、事態はそんな簡単なものではないらしい。



「あれはアスタロト!? 今、行くぞ」



オセがたまらずグラウンドに降りようとするのを両手で制した。



「ちょっと待って! まだ、動かないで!」



「円? 何故、止める!」



「……この陣形、見たことがあるの」



彼女はシャイルに立ち向かう人間たち、そして後方に位置する大悪魔アスタロトを上から見る事により、彼等の立ち位置がある過去に見た記憶を呼び覚ましていた。



(これは弓形の……まさか、kuu(くー)ちゃんがいる!?)



彼女はゲーマーである。ゲームに関しては自分の右に出る者はいないと自負していた。そんな彼女が初めてネットでの対戦型SLG(シミュレーションゲーム)で敗北を喫したのが、この陣形であり、プレイヤーkuuちゃんという人物であった。



(そして、この陣形には最後の一手がある……のよね)





解明の指示で戦う岬達。しかし、彼等は防戦に回るしかなかった。しかも、神楽不在の今、少しずつ圧されている。



クンクン……



その時、アスタロトの鼻が懐かしい匂いを捉えた。



「(オセ! オセが近くにいる! どこだ!)」



(そうか、ついに来たか! 南方より来たりし新しき風が!)



解明はその『目』で周りを見回した。それはすぐに見つかった。



豹の姿をした悪魔と小さな少女の姿を。彼の目に映った少女にはライフサーガにおけるハンドルネーム坂本と共に職業(クラス)『賢者』が明滅している。



(我が策、成った!)



解明は汗ばむ両手の拳を握り締めた。









解明の秘策。


ミカエルの神気の前に倒れた神楽。


しかし、それは反撃の烽火であった。



解明の待ち望んでいた南方からの新しき風が来たのである。


逆転の秘策は『賢者』である彼女なくしてはならないものであった。



次回 娘々超戦略 (にゃんにゃんスーパータクティクス)


今回もご覧頂き、ありがとうございました。


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