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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
200/290

解明の秘策 前編

前回のあらすじ


己の身を挺して放った武井の執念の一撃が、天使長ミカエルの翼を断った。


しかし、翼を失ってもなおミカエルは戦いを止めない。むしろ、自身に抗う人間達との戦いを喜ぶかのように彼女は剣を構えた。

平賀解明は、じっとレナスメンバーとミカエルの戦いを見ていた。



第三者の視点で見るそれは今、彼等の危うさやミカエルの圧倒的な力量を全く違う角度で見る事が出来る立場にある。



たとえライフサーガにおいての身体的能力が失われていても、彼の『目』は生きていたのである。



彼の隣では、一生と愛弓が激しく言い争っていた。



「離してよ! 私も神楽さん達と戦う!」



「いい加減にしてください、お嬢様。 絶対に離しませんよ。今のあなたは超人でも何でもないのです。普段の女子となんら変わりはないのですから」



一生に羽交い締めされたまま、じたばたともがく愛弓。一生の言う通り、今の彼女には武闘大会においての力は消え失せていた。



彼等の側では男が気を失ったまま横たわっている。倉前である。彼は紫苑との戦闘において気力を使い果たしたのか、先程から目を覚ます気配がない。



更に向こうには桜庭と霞の姿があった。



ガラッ!



「つっ!」



不意に崩れてきた拳大ほどの小さな瓦礫が解明の肩を打った。



(岬さんに付与されたレナスの能力には限界があるらしいな)



ライフサーガでの身体能力の向上と共に、解明に付与されていたレナスの防護フィールドまでも無効化されていた。



(だが、彼等の声が聞こえるということは、レナスの通信回線自体は生きているといったところか)



彼等のやりとりを見聞きしていた彼は事の顛末を理解している。



(僕は君達の戦いに参加しても足手まといになる事は分かっている。だから、この『目』でサポートさせてもらう)



命の恩人である岬や神楽、アスタロトを見て見ぬふりは彼のプライドに反していた。



だが、天使という未知の敵を前に迂闊には手が出せない歯痒さが彼の胸を締めつけていた。



今の自分に出来る事……いや、今の自分にしか出来ない事。



それは幼い頃から友人を作らずアウトローを貫き、源内を除けばほぼ一人で生きてきた彼が、自分以外の人間を救うという初めての行為であった。



彼もまた、この世界(ライフサーガ)で変わろうとしていたのだ。



(……よし、やるか)



彼は行動に移すべく、砕けた岩場の陰に身を潜めた。



「(皆さん、ミカエルから注意を反らさず、僕の話に耳を傾けてください)」



「(解明さんか!)」



岬がミカエルから視線を外さず返答する。



神楽やアスタロト、響子も気付いていたが、あえて表情を変える事はしない。ミカエルに解明の存在を気付かせてはならない事ぐらいは理解できた。



ただ、立石だけは辺りを見回していた。響子の手が震えている。



「(いいですか? 今から皆さんは弓形の陣形をとってください。つがえる手の方にミカエル、弓の矢先の位置にアスタロトさん)」



(弓形……)



突然の解明の指示に戸惑う彼等。しかし、岬は彼の思惑を理解できていた。



「(皆、解明さんの指示に従い、お互いに付かず離れずの距離を置いてくれ。アスタロトはミカエルとの距離をおいて後方で待機して欲しい)」



「(なるほど……ね)」



神楽は岬と距離をおく。更に響子も。



(アリス……)



アスタロトも名残惜しそうにアリスの元を離れた。



「(おいおい! どういうことだよ? 説明なしに動けるかよ!)」



立石は状況が理解出来ないまま、武井を担ぎ上げる。



「(立石さん……でしたね。貴方は観客席で敗者復活戦をご覧になってましたね?)」



「(あぁ! 勿論だ。神楽さんが魔王なんたらをぶっ飛ばしたやつな)」



「(そうです。その時にタケルが使用したテレポートのような能力を見ましたよね?)」



「(あ、あぁ……)」


立石の脳裏にアンドウと瞬時に入れ変わったタケルのが思い出される。抜群の動体視力を持つ立石の目にも止まらない、まるで超スピードとは違う不思議なものを目にした感覚があった。



「(僕も利用させてもらいましたが、種明かしをすれば、あの能力(スキル)はこの世界ならではの座標の書き換えによる瞬間移動なんです)」



「(座標……?)」



「(この世界において、僕らの立ち位置は全てゲーム内における座標軸上にあるのです。この技は自身と相手の座標を書き換える事により……)」



解明は実に分かり安く説明したつもりであったが、脳筋であり立石が理解できるわけもなかった。



「(はぁ……よく聞いてくださいまし! あのミカエルは、そのテレポート能力を利用出来るのですわ!)」



呆れて話を端折る響子。だが、その方が彼にとって分かりやすかったらしい。



「(となると、俺達の誰かといきなり入れ変わって不意討ちが出来る……ということか!)」



「(その通りです)」



ようやく理解出来た立石だったが、彼の中に疑問が残る。



「(ならよ……武井はどうすんだよ?)」



彼の背中には、今にも止まってしまうかのような弱々しい命の鼓動が響いていた。



「(その場に置いて離れてください。彼を背負ったままだというのはあまりにも危険過ぎる)」



解明の言葉に立石は激昂した。



「馬鹿言ってんじゃねぇよ! 傷付いた後輩を捨てて行けだと!?」



その時、彼の目の前に倒れた武井の姿が映る。つい今しがた、背負っていた武井の姿が。



立石の額に汗が吹き出す。恐る恐る首を回す。



そう、既に武井は彼の背にいない。代わりに背負っているのは……ミカエルであった。



「ふふっ! 残念でした」



「ぐあっ!」



彼の背に剣を突き刺すミカエル。咄嗟にミカエルから離れるように体を捻り、地面を転がる立石。彼の背中には浅いとはいえ刺し傷が残る。一歩間違えば死に直結する致命傷を負ってもおかしくはなかった。レナスにて肌身で感じた幾多の危険を掻い潜ってきた立石であるからこそ回避出来たのである。



「ち、ちくしょうっ!」



「人間にしては猿のようにすばしっこい。君はもしかして、猿の子かな?」



まるで悪魔のように狂喜に満ちた満面の笑みでミカエルは再び剣を構え直す。



「……おや? どうやら、賢い者がいるようだね。アスタロトかな?」



「…………」



無言を貫くアスタロト。



(しめた。まだあの天使には僕の存在が気付かれていない!)



解明の手のひらに汗が滲む。呼吸が荒くなり、眼鏡が曇る。



今、彼の放つ一言が彼等の命運を握っていた。


解明の機転も束の間、案の定手傷を負った立石。


一瞬のミスも許されない戦いに、レナスメンバーはどう立ち向かうのか?



次回 解明の秘策 後編



今回もご覧頂きありがとうございました。

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