第十九話 転送先には
「(二人とも大丈夫か?)」
「う、うーん…はっ!」
一足先に目覚めた清音の声に千晶は目を覚ました。見渡すと木々が生い茂り、木漏れ日から眩しい朝日が顔を照らしている。
「むにゃむにゃ…お姉ちゃん。もう朝ぁ?あたし、顔を洗ってくるー…ひっ!」
寝惚け眼を擦りながら、優音は立ち上がってふらふらと歩き出そうとするのを清音が慌てて袖を掴んでしゃがませた。驚いた優音は目覚め、人差し指を口の前に当てる姉を見て口ごもる。
「(迂闊に声を出さないように)」
口元を動かさず会話する清音に違和感を感じた。腹話術でもない。耳から入ってくる音とは別に頭の中に直接会話してくるようだった。
「(これって、テレパシー?)」
「(ま、そういうやつだ。レナスシステムの機能で転送者同士はお互い脳内で意思疎通できるんだ。千晶は順応性が高いようで安心した…)」
と、清音は妹に視線を移す。
「な、何これ?凄いよおね…むぐ」
急いで優音の口を塞ぐ。
「(出来の悪い妹ですまんな。これでもたった一人の大切な妹なんだ許してくれ)」
「(ははは…)」
取り敢えず、優音に意思疎通の仕方を教えた清音は状況把握の為にメインシステムルームに連絡をとろうと試みた。メインシステムルームに通信を行う事ができるのはリーダーのみである。しかし、何度試しても雑音の様なものしか聞こえず通信が繋がらない。
「(こんな時に故障か?しかし、立石の姿も見えないし、あいつどこに行ったのだ?)」
「(そう言えばあのボクシング部の人いませんね)」
「(わたし知ってるよ)」
優音は得意満面な表情で続けた。
「(男の人って、朝起きたら必ずお手洗いに行くんだよ。うちのお父さんもそうだったし)」
清音は顔を真っ赤にし、千晶は笑いを堪えるのに必死だった。
気を取り直して今の状況を確認する。清清しい空気に小鳥のさえずり、木々は青々としており季節は夏を感じさせる。日は登ったばかりで明け方近くであろう。場所は森または山中であろうと推測する。
「(二人とも、チュートリアルと言えども気は抜かないように。どこからモンスターが襲ってくるか分からないから)」
「(了解しました。優音ちゃんも…って!?)」
驚きの光景に千晶は我が目を疑った。優音の肩に止まる野鳥達。側には鹿の親子も連れ添っている。ことも無げにニコニコと鹿の頭を優しく撫でる優音。
「(えへへ。あたし、小さい時から動物さんに好かれちゃうんだよね)」
「(しかし、普段より多くないか?これもテイマーの能力なのか?)」
その時、敏感に何か気配を察知したのか、鹿の親子は木々の隙間に走り去るように消えて行った。
「(二人とも頭を低くしろ)」
茂みに隠れるように様子を伺う三人の先に、着流し姿で侍風の出で立ちをした人物が誰かと会話を交わしている。10メートル以上の距離をとっているが、レナスにより五感を強化されている清音達には聞き取る事ができた。向こうは清音達に気付いていないようである。何やら古ぼけた小さな堂にいるらしき人物に話しかけているようだ。木陰に隠れ、その人物の素顔は確認できない。




