表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
184/290

出会い、そして別れ 前編

前回のあらすじ


神楽の中に眠っていた何者かが覚醒(めざめ)る。


魔王ベルゼブブに対し横柄な口をきく彼女? は、挑発的な態度をとり、遂に彼に魔王たる力を引き出させてしまう。


魔剣ソウルイーターの最終形態による、秘技Daybyebrake(デイバイブレイク)が発動する。


そして、舞台は現世へと移る。

明勇学園の地下にあるレナスシステムルーム。



「全く、無茶しおってからに」



ガラスの破片が散乱した中、スピカは計器類のチェックを終えて黄色のゴーグルを首元へ落とし汗を拭った。



「行けそうなのか?」



「ん。おいおい、天才のわしに何を言っておる? このくらい朝飯前じゃ……というか、朝飯食っておらんでの。腹が減ってしょうがないの」



充之の不安を他所に笑顔を返しながらお腹をさするスピカ。



「そうだ! 先程、千晶さん達から連絡があって、おにぎりとサンドイッチ作って持ってくるから遅れるらしいとのことです」



スピカの補助を行っていた黒川が思い出したように声を掛けた。



「やったー! 僕、お腹ぺっこぺこだったんだよ! 氷目もそうだよね? ……え、何食べてんの?」



静音の横で、いつの間にかモグモグと口を動かしている忍者。



「……非常食。翁が渡してくれた。食べる?」



「わぁい! ありが……え?」



差し出された氷目の白い手の平の上に、何やら小さな幼虫がカラリと揚がった姿を見せる。それは蜂の子の素揚げであった。



「高蛋白で体に……」



「ごめん。遠慮しとく」



静音のテンションが一気にダウンしたようである。



現在、このシステムルーム内には先に足を運んだ充之、静音、氷目のライフサーガ第二陣メンバーとスピカ、それに生徒会の黒川と福井が待機していた。



「ったく、あいつら遅れて来るってそういう事だったのかよ。飯なんて俺は食わなくてもいいんだけどな」



「まぁまぁ、そう言うな。今のあの娘らに出来る精一杯の応援じゃよ」



姉である神楽の事もあり、憤る充之をなだめるスピカ。実は彼女達に食事を頼んでいたのはスピカ本人であった。




一時間ほど前。



明勇学園に出発する前の須藤家にて。



「お主ら、少し遅れて来てくれぬか?」



「え? どういう事ですか?」



スピカの言葉に千晶は小首を傾げる。ツインテールの髪がぴょんっと揺れた。



「万が一の事もある。向こうの世界は何が起こるかわからん。岬からの連絡がない状況を考えれば恐らく……」



「……………」



ただ無言でうつむく柚子。彼女の心を見透かすかのようにスピカは慌てて言葉を続けた。



「あ、すまぬな。いや、これが最後の別れとは言わん。だが、お主達に出来る精一杯を充之達に届けて欲しいんじゃ」



「そんな事ならお安い御用よ。そだ、朝御飯まだだったし、サンドイッチとか作っていこうよ! ね、柚子ちゃん?」



「うん。そうだね。今の私達に出来る事なら」



そんな二人を見てスピカ優しく微笑んだ。





「柚子ちゃん、急いで! 予定の時間から遅れちゃってる! もう出発してるかもよ」



「千晶ちゃん、速いよ。そんなに走らないで。私、息が続かないよ」



手作りのおにぎりとサンドイッチが入った紙袋を持ち、ぴょんぴょんと跳び跳ねるように走る千晶を、へとへとになりながら追いかける柚子。



彼女の手には小さな人形が握りしめられていた。それは学生服を着た男子の人形。背中には頑張って! という刺繍が入っている。



(充之君に渡さなきゃ……)



ドンッ!



「あ、ごめんなさい!」



曲がり角で柚子は何者かにぶつかってよろけそうになる。が、その人物は彼女を両手でしっかりと支えた。



「大丈夫かい?」



「あ、はい。すみません。急いでいたもので。失礼します」



ぺこりとお辞儀を返し、彼女は目の前に明勇学園の校門に向かって駆け出して行った。



「ふむ。可愛らしいお嬢さんだ。充之には勿体ない」



男の風貌はあの頃のままである。不精ひげを伸ばし、使い古しのワイシャツに綿パン。頭にはバンダナを巻いている。薄汚い格好は一見して浮浪者にも見える。



「ん?」



柚子を追っていた彼の視線の先にワンボックスカーが止まった。





「キャッ!」



「柚子ちゃん、大丈夫!?」



ワンボックスは校門前で急停車し、彼女達の足を止めた。



「よっと!」



助手席から若い男が降りてくる。腕をぐるんと回し、首をコキコキと鳴らした。



「やっと着いたか。だから、長時間ドライブは好きじゃないんだよ」



「ったく最近の男はだらしない。あたしなんかシベリアで丸一日軍用車の中にいても平気だっつうのに」



続けて、後部座席からミリタリー姿の女性が現れた。



(コスプレ……かな?)



いつもの温和なスタイルを崩さない柚子に変わって、千晶はぷんすかご立腹である。



「ちょっとちょっと! あなた方がどなたか知りませんがね! 女子高生を危険にさらしてお詫びの言葉もないんですかね?」



千晶の口撃に、若い男は彼女を見下ろす。背格好は岬よりやや高いぐらい。黒のレザージャケットの下にある引き締まった体つきは何かしらの格闘技をやっているようにも見える。



「あぁ、すまなかったな。ところで君達はここの生徒かい? 見た所、校内は静かなんだが……」



「今日は創立記念日なんですよ! ったく、早く行こう。柚子ちゃん」



「あ、うん。あの……失礼します」



千晶に腕を引っ張られ、しぶしぶと申し訳なさそうに校内に入ってゆく柚子。



「……匂うな」



急に男の目つきが変わる。



「あんたも分かるかい? 創立記念日に何で学園に用事があるのか……って!」



ムシャムシャ……



「鮭おにぎりだ。塩加減が実にいい。ちなみにサンドイッチはハズレだ」



いつの間にか男……竜馬の手には柚子の愛情こもった手作りおにぎりが半分になった状態で握られていた。



(あいつら……厄介な事になりそうだ)



ライフサーガで最終局面を迎えようとする一方、事態を知らぬスピカ達は、今まさに第二陣出発を控えていた。


千晶と柚子が出会った謎の浮浪者の目的とは?


そして、学園の秘密を探るべく、竜馬達特殊部隊ヘイムダルが動き始める。



次回 出会い、そして別れ 後編



今回もご覧頂き、ありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ