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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
182/290

アスタロト

前回のあらすじ


サタンを裏切り、反逆の意思を見せたセト。


しかし、予想に反し、サタンは過去の強大な力を取り戻しつつあった。


返り討ちにあうオセを救うべく、円は意を決する。

現在、この状況において悪魔オセがサタンにより召喚された事実を知る者は円を除き、二名いる。



(オセ……だと?)



魔王ベルゼブブである。



彼はサタンとの戦いの最中に、一度だけオセと対峙した事があった。その時に感じた力は恐るべきものであった事を知っていた。



そして、ベルゼブブにとってセトの召還は全くの予想外であった。オセの存在がではない。まだ完全に力を取り戻していないとはいえ、サタンの手を煩わせる者がレナスメンバー以外にこの世界(ライフサーガ)に存在していた事は彼の予想を大きく裏切っていた。



それもその筈、円は己の存在を隠す為にライフサーガでの必要最低限のミッションだけをこなし、上位ランカーが参加している制限付きの特別ミッションには見向きもしなかったのだ。



目立つ事は(ライバル)を増やす事に他ならない。敵を作らず、ただひたすら己の道を突き進む……それが円流のゲーム攻略の礎だったのだ。おそらくそれは彼女の生き方にも共通しているのだろうが。



そんな彼女の存在をベルゼブブは見落としていたのである。



計画に歪みを生じさせたのが、ただ一人の中学生の少女である事をこの時点での彼はまだ知らない。



「はぁ、はぁ……どうしたの? まさか、闘う気力がなくなったとか言わせないでよね。もしかして、疲れたとか?」



肩を上下に揺すりながら、神楽は片膝を着き額の汗を拭いながらも強がってみせる。あれからほんの数分という時間であったが、既に彼女のチャイナドレスは所々が破れており、露になった肌に負った傷口から、血が滴り落ちている。天性の格闘センスと奇跡といえる生まれもっての勘が、彼女を致命傷から避け続けていた。



対して、つい今までベルゼブブは無傷とは言えないが、神楽の攻撃を巧みにかわしており、余裕さえ感じさせていた。



「黙っていろ。今はそれどころではない!」



「?」



ベルゼブブは焦りを感じていた。



不意に消えた魔人の存在。



原因は不明だが、それはサタンと相対した事が原因ではない事は分かっていた。



サタンの覚醒を促す為の『贄』として用意した魔人だったが、彼の想像を越えるスピードでサタンは復活を遂げようとしていたのである。



(サタンが地獄の門を開くほどの力を取り戻すとは。もし、奴がセトと共に地獄へ戻る事になれば、私が数百年と積み重ねてきた計画は全て水の泡だ。ならば……)



「真田神楽よ。今暫く休戦としようではないか? 今の貴様では私を倒す事はできん」



「(休戦だと!?)」



「………………」



もし、今あらんかぎりの魔力で神楽を屠る事は容易いが、彼自身は今サタンに警戒される事を恐れていた。



「(神楽! チャンスだ。ここは解明さんを救う事が先決だ。ベルゼブブの心境の変化に何があったのか分からないが、ここは……)」



止まった時の中で岬は唯一行動できるレナスの通信システムを利用し、神楽に休戦を勧めようとした……が。



「断るわ。言ったでしょ、30分一本勝負だって。時間が来るか、どちらかが倒れるまであたしは闘いを止めない」



「なんだと?」



「(神楽っ!?)」



頭では理解出来ていた。このまま行けば、先に倒れるのは自分であると。しかし、神楽の奥深くに潜む何者かがそれを望んではいなかった。



ただ、その何者かに突き動かされる衝動のままに拳を振るっている事は、彼女自身まだ気付かずにいた。






(オセっ!? 何故、貴方がここに……)



香川達と行動を共にしている魔王アスタロトである。



「!?」



「どうした、アリス?」



不意に立ち止まったアリスに声をかける香川。その体は……魂は、既に早苗と別れ元の姿を取り戻していた。



「会場とこの城の連絡通路で強い魔力の衝突を感じる」



「まさか、ベルゼブブ……」



「いや、違う。彼のような力ではなく、別の……そう、悪意に満ちた人の力……」



「紫苑さんだ! 早く行かなきゃ!」



たまらず駆け出した早苗。レナスメンバーにとっては敵である紫苑も、早苗にとっては孤独だった自分に初めて声をかけてくれたかけがえない恩人でもあったのである。



彼女と主従関係を結んだベルフェゴールは、香川に受けたダメージを癒す為か、早苗の中で眠りについている。



「おい待て!」



香川も後を追って走り出した。



「私達も行きましょう。……アスタロト様?」



続いてアリスも彼等を追おうとしたが、いつもと様子が違うアスタロトに疑問を感じて足を止めた。



「あぁ……すまない。先に行ってくれないか。後で私も行く」



「……分かりました」



主の言葉は絶対である。疑問を感じながらもアリスは香川の後を追った。



(まさか、オセが生きていたなんて)





それはルシファーが魔界を統一し、地獄の主であるサタンを封印する前のこと。



サタンの配下であり、参謀を務めていたアスタロトは彼のやり方に反発し苦言を呈した。サタンは怒り、10年の歳月を牢獄に閉じ込められ、毎夜のごとく責め苦の拷問を受けていた。



何度も鞭打たれ、流石に大悪魔の彼女でさえも死を意識した時、彼女を救ったのがオセである。



彼は獄卒の隙をつき、傷付いた彼女を抱え、サタンの居城を脱け出した。



「……オセ。私を逃がして良いのか? お前も私と同罪になるのだぞ」



「……今は何も考えるな」



ただ、そう答えるオセの思惑に疑問を感じる彼女だったが、今はこのチャンスを逃すわけにはいかない。アスタロトは、魔界の統一者で名君として名高いルシファーの下へ行くと決意していた。



「オセ、お前もルシファーの下へ行こう。ルシファーなら話を聞いてくれるはずだ」



「………………」



だが、アスタロトの意に反し彼は首を縦に振ることはなかった。



そして、いよいよ地獄の境までたどり着いた時、彼女達を遮るように一体の巨獣が姿を現した。



魔犬ケルベロスである。



地獄の番犬であるケルベロスは、人間界と地獄の狭間におり、地獄へやってくる力なき者達をことごとく食い殺す役目を担っていた。



三つ首の頭は彼女達を睨み、涎を垂らしながら血のように真っ赤な口腔を見せている。その目は、地獄の住人である彼等とのいつもの接し方ではなく、今にも獲物に飛び付き食い殺そうとするかのようにギラギラと輝いている。



「く! 厄介なヤツに出くわしたな」



普段のアスタロトならば、ケルベロスごときその強大な魔力によって蹴散らす事も可能であったが、体力は元より魔力が枯渇している今は恐ろしい相手である。



「何故、ケルベロスが? いつもは人間界との境にいる筈だが……」



人間を好み、度々人間界に足を運ぶセトは(いぶか)しむ。



「サタンめ。私が魔界へ行こうとしている事を知っていたな……ぐっ!」



オセは腰のレイピアを抜き放ち、アスタロトを背後から切りつけたのである。



うつ伏せに倒れ込むアスタロト。



「な、なんで……」



「すまないな。これもサタン様の指示だ。さぁ、ケルベロスよ。反逆者のアスタロトは討った。お前は下の場所へと帰るがよい」



ケルベロスはオセの強い語気に打たれ、クゥンと一声鳴くと走り去って行った。



朦朧とする意識の中、ふっと体を持ち上げられる感覚を感じる。



生死をさ迷った彼女が再び目を覚ました時、類稀な端正な顔つきの人物がいた。



「気が付いたか。わかるか? お前は地獄の側、我が所領である魔界の荒野に一人倒れていたのだ。悪魔といえど、あとわずかに見つかるのが遅ければ命を失っていただろう」



(まさか、ルシファー!? ここは……魔界!)







「さぁて、やるとしましょうか。サタンさん?」



円は手にしたマジックワンドをバトンのように回転させた。



「待て、人間! お前ごときが敵う相手ではない!」



サタンにより、傷を負ったセトが声を張り上げる。



「やってみなくちゃ分からないって。それに……」



「?」



「この世界にいる好きなひとに会う前にサタンなんかに消されちゃったら元も子もないっしょ! あたしに任せなさーい!」



「ほぉ」



サタンは顎をしゃくった。



「お、お前……何者だっ!? 何故、彼女の事を!?」



グッ!



円は親指を立てて答えた。



「あたしはただの中学生よ。ちょっとだけ他の人よりゲームが上手い……ね!」


大きく動き出す世界(ライフサーガ)


終焉(さいごのとき)が間近に迫る中、彼等は生き残り、元の世界に戻れるのか?



次回 希望? 絶望? 新たな覚醒(めざめ)



今回もご覧頂き、ありがとうございました。


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