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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
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円(まどか)世界を救う 後編

前回のあらすじ


円の前に現れた謎の男。


彼は何の目的で円の前に現れたのか。



(人……? でも、あんな体つきの人間なんて見たことないわ。あれはまさしく(オーガ)! そうよ、地獄の獄卒よ!)



半裸の男……村人トムは、ゆっくりと円に向かって歩いてくる。ジャガミラの返り血に濡れた体を左右に揺らしながら。



「ち、近寄らないでっ! それ以上、近付いたら極大魔法をぶっ放すわよっ!」



円は右手と左手を重ね合わせて、いつでも魔法を発動させる態勢をとる。先程の魔力サーチが行えたならば、魔法も使用できると直感したのだ。



「ま、ほう?」



ピタリと男の足が止まり、べったりと額から両目にかけて濡れそぼった前髪をかきあげた。



その体つきに似合わず、優しげなつぶらな眼が円を見つめている。



「あんた……誰だ?」



「は?」



一瞬、間の抜けた空気が流れる。



(騙されちゃダメよ、円! そうだ、ライフサーガのシステムが利用できるならあいつの弱点も分かるはず!)



「デルトジャック!」



ライフサーガ内で広く利用されている魔法。対象の名前をはじめ、各種パラメーターを感知できる魔法である。



(名前は……村人トム? 村人ですって!? こんなNPCいるわけないじゃない! しかも、パラメーターはカンスト状態! こんなのチートキャラじゃないの! まさか、運営のデバッグ用キャラなの? てか、ここゲームの世界? あの世じゃないの?)



わけが分からず、円は混乱していた。



「……お前、あの時の……姿を変えても俺には分かる」



男の筋肉が収縮する。より強く強靭な肉体に変貌しているのだ。優しげな瞳から一転し、その両の眼はギラギラと憎しみに燃え盛る炎を宿していた。



「うっ!」



そのスピードは尋常ではなかった。円が戸惑いを見せた隙をつき、即座に10メートル程の間合いを走り込み、彼女が魔法を放つ間もなく、その細い首を両腕で締め上げた。



(く、苦しい……よ……)



吊り上げられた円が地面から浮かせた足をばたつかせるも、男の腕は全く力を緩めない。



「俺の妻を……カエセ!」



(妻って……あたし、知らない!)



賢者を極めた流石の円も、気道をもの凄い力で締め付けられ呼吸困難に陥れば、魔法を発動する事も出来ない。



(このままじゃ、本当に死んじゃう)



円は最後の力を振り絞り、男の手を自分の両手で触れた。



ドクン!



(あ……)



それは意識してではなく、ただがむしゃらに苦痛から解放されたい一心での行動であったが、彼女には生まれつき持っている特殊な能力(ちから)があった。



過去を見通す力。充之の持つ未来を見る目とは逆に、彼女は触れた生き物や物質の過去を読み取る能力(ちから)である。



男の体を通して、彼の過去の映像が円の脳内に流れ込む。



魔王ジャガミラを何度も何度も殺している血生臭い光景。



勇者一行と戦う光景。



そして、勇者一行と共にした彼の自宅で、息絶えた彼の妻の衣服を脱がす自分の姿を。



(あ、あの時の……あたし……)



彼の憎しみが、悲しみが円の胸を締め付けた。



「そ、そうだ……った……んだ……」



円の瞳から涙が流れ落ちる。



「あた……し、が……」



言葉が続かない。もう、息を吸うことも吐くこともできない。



(謝りたい……のに。死ぬ前に彼に一言だけ……)



意識を失うと感じた、その時、ふと男の手が緩んだ。



ふと見ると、彼の憎しみを込めた眼はぼろぼろと涙を溢れさせていた。



(……ありがとう)



「え?」



彼の……男の声とは明らかに違う、若い……そう少年の声が脳内に響く。



(あ……あぁ!)



彼の……村人トムの記憶から新たな記憶が紡ぎ出され、円の脳内に流れ込む。



それは、一人の少年の過去と強い想いが込められたメッセージであった。



少年の名は明勇学園在校生徒、電脳部一年生の品川忠次(しながわただつぐ)である。



(…………)



「このプログラムを見てくれてありがとうございます。部長ならきっと理解してくれると思いました。僕が心を込めて創り上げた人工知能作成プログラムは、将来必ず、皆の役に立てるものだと思います。子供の頃から、僕がこの世に生を受け生まれて来たのはこの為だったと言っても過言ではありません。いや、今でも子供なんですけどね。で、この人工知能作成プログラムの活用例を上げると、例えば現在使われている医療や介護での現場などでも活用できるんですよ。優れた医師達の記憶や知識をインストールすれば、過疎化の地域での医師不足を解消すると共に人件費の削減や、二十四時間対応など様々な事態にも対応できる。素晴らしいですよね。他にも……」



彼の声は更に興奮して抑揚を増しつつ説明を続けていた。



(そっか。貴方は彼の人工知能作成プログラムから生まれて来たんだね。本当はこんな事の為に生まれてくるはずじゃなかったんだよね)



村人トムは円に品川の記憶を渡すなり、地に伏しうっすらとその姿をぼやかせてゆく。



役目を終えた彼は消え去った。彼の最後を看取った円は呟く。



「……今、やっと理解出来た。これはベルゼブブという魔王が創り出した世界……そして……」



円は顔を上げ、突如前方に空から舞い降りてきた黒い影目掛けて指差した。



「あんたが大魔王サタンよね!」



「おや? ベルゼブブの話とは違うな。男を喰らえば我の力の復活を早めると聞いたのだが。人間の小娘一人じゃ、力の回復の足しにもならんな」



「その小娘が大魔王(あんた)を倒したら?」



不敵に笑い漆黒の翼を広げるサタンを前に、円は負けじとマントを翻した。


人工知能プログラムから生れた男は、円にメッセージを残して役目を終え消え去った。


まだ幼い彼女はその意思を胸に、大魔王サタンに一人立ち向かう。




次回 サタンの力



今回もご覧頂き、ありがとうございました。

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