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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
178/290

円(まどか)世界を救う 前編

前回のあらすじ


立石達を救った倉前は、賢者坂本の知人であった。


そして、その坂本の正体は、こともあろうか彼等の学舎明勇学園中等部の生徒であった。


しかし、悪魔と化した紫苑を前に彼等は未だ解決策を見出だせずにいた。

「ふふっ! 楽しいわね。次は受け止めきれるかしら? 闇から来たりし熱き炎よ、我が前の敵を焼き尽くせ! デスフレイム!」



「なんのっ! 水符ミストウォール!」



紫苑の唱えた魔法による炎を倉前が水の魔力を封じた符術で対抗する。



倉前の足元には千切れた紙切れ数十枚が散らばっている。魔符術に使用し魔力の抜けたものである。こうなるとただの紙切れに過ぎない。



これらは全て坂本から購入したものである。倉前は坂本が符に魔力を注入した物を魔符術として利用していた。



「倉前さん! 大丈夫か!」



意識を失ったままの響子を抱え、立石が背後から声をかける。



「今のところは大丈夫だ。だが、俺の符術には限りがある。あの……沢村という君達の知り合いの魔力が尽きるのが先か、俺の符が尽きるのが先かだ」



彼等はまだ彼女が紫苑であるということを知らない。その為、倉前も防戦一方に徹していた。



「くそっ。あいつの背後に回り込みさえできれば羽交い締め出来るのに、こんな狭い回廊じゃ身動きとれねぇなんてよ」



紫苑の絶え間なく放つ魔法はか回廊の横幅いっぱいを占めている。無理に近付こうものなら、火炎や毒の霧やら、雷撃やらの魔法による集中砲火を浴びることは立石でも理解できる。



「おい、後輩っ! お前の重力操作でなんとか……」



返事はない。武井は遥か後方で鼻血による大量出血で地べたに伏していた。



「っ! まさに為す術なしかよ。俺が魔法を使えれば……というのは無理な話だが。誰か他に魔法を使える奴がいれば……くそっ!」



彼の苦々しく吐き捨てた言葉が倉前の脳裏をよぎる。



(こんな時に坂本(あいつ)がいないことが悔やまれるぜ。ったく、世界存亡の危機って時に何やってんだ!)





その頃。



全て焼き尽くされ、瓦礫の山となったアトラクタ城に小雨が降り注いでいた。



つい先日まで小国ではあるが、アトラクタ王が治めていたこの国も突如起こった爆発により、業火に包まれ落城に至った。



それは魔王の手によるものではなく、魔王ジャガミラを討伐し、感動のエンディングを迎える筈であった勇者の放った最終魔法ギガバーストが原因である。



だが、この真実を知るプレーヤーはもういない。



彼女以外には。



ガラッ!



瓦礫の隙間から細く、白い腕が雨雲の空に向かって伸びる。



「だぁっ!」



彼女の回りにあった焼けた瓦礫は、彼女を中心に起こった小規模な爆発で粉々に吹き飛んだ。



しとしとと降りしきる冷たい小雨が彼女の髪を濡らし、頬を伝う。



(まさか、エンディング直前に隠しクエストがあったなんて聞いてないわよ)



彼女の言う聞いてないとは、運営サイドの事を指していた。



(アップデート情報もなかったし……まさか、前々からあった隠しクエストなのかしら?)



彼女は周りを見渡し、声色を変えて叫んだ。なぜ、そうしたのかは彼女自身も分からない。



「おい! お前ら! どこにいるんだ? まさか、死んでないよな?」



プレーヤーであった勇者一行は勿論、NPCすら彼女に声をかけるものはいない。彼女は自身の周りの生体反応を確認するよう魔力でのサーチを試みる……が、自分を除き、モンスターや小動物さえも確認できない。



(なんなのこれ?)



ふと視線を落とした彼女が目にしたものら小さな小さな水溜まり。



「え……えぇぇぇぇぇっ!?」



そこには彼女が思い描いていた美青年賢者の素顔ではなく、賢者の姿をした自分そのものが映っていた。



そう、明勇学園中等部三年の犀川円の姿が。



(落ち着け、あたし! これは夢よ! そう、ゲームしながら寝落ちしてしまったのよ。痛みを感じたら目が覚めるに違いないわ)



と、右手の甲をつねってみる。



「うぐ」



確かな痛みを感じた。



(まさか、夢じゃないとしたら……死後の世界?)



思い出してみると、エンディング直前に背中に激しい痛みを感じた記憶がある。



(そうよ! ゲームをやってる最中に感じたあの痛み。まさか……)



人一倍妄想癖が強い彼女が辿り着いた答えは。



(押し込み強盗よ! そうに違いないわ! ゲームに夢中のあたしの背後に忍び寄り、刃物でひと突き。これが正解だわ。あぁ、その後でお母さんもお姉ちゃんもお父さん……はいいや。可哀想に朝刊やニュースに大々的に報道されてるんだわ。一家惨殺強盗事件って。でも、貧乏な家にお金になりそうなものなんかあったかしら? しいて言えばこの中古パソコンぐらい?)



そんな妄想が膨らむ中、彼女の魔力サーチの範囲内に強い生体反応を感知する。



「え!」



それはこの世のモノとは思えない生命力に満ちていた生きる意思を伝えようとする存在。



髪を振り乱し、ジャガミラを素手で撲殺した豪腕と共に、鍛え抜かれた鋼のような強靭な肉体をさらけ出した半裸の男。



村人トム、その人であった。



そして、円はまだ気付かない。



魔力サーチの範囲外から、トムを狙って飛翔してくる黒き禍々しき巨大な力を持つ影の存在を。




異変に気づかず目覚めた円。


彼女が遭遇したのは、ベルゼブブに力を与えられた村人トムであった。


人工知能を得たNPCであるトム。


彼は敵なのか、味方なのか?


そして、更に後方から迫り来る巨大な悪の存在。


果たして円の運命は?



次回 (まどか)世界を救う 後編



今回もご覧頂き、ありがとうございました。

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