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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
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奥の手

前回のあらすじ



解明の超スピードによる攻撃に防戦一方のベルゼブブ。



だが、解明の体はそのスピードによる負担に耐えられる状態ではなかった。



呼吸を抑えて無理に隠し通そうする解明だが、神楽や桜庭はそれを見抜く。



無論、ベルゼブブも理解していた。



解明の攻撃を防ぎ切ったベルゼブブは、一太刀で人間の魂を奪う魔剣ソウルイーターを手に解明を追い詰める。



万事休すのその時、解明は逆転の一手を見出だした。


(来た? む! あれは)



振り向いた岬の視線の先に桜庭とシャイル、それに先程戦いに参戦していた小さな女の子がこちらに向かって走って来ていた。



(彼等の能力に、この結界を破る……もしくはベルゼブブに対抗出来る力があるのか?)



そんな疑問とは裏腹に、突如過去の記憶が蘇ってくる。それはレナスシステムを初めて使用した岬達に教師の加藤が語った一言だった。



『奥の手は最後まで見せてはならない』






「遅くなってすまねぇな」



「遅刻厳禁だと言っただろ!」



ミーティングルームとして利用している視聴覚室に駆け込んで来た立石を清音が叱咤する。



教卓の側に教師の加藤が立っている。彼の前にはレナスメンバー数人が集まっていた。レナス起動時、初めての転送前のミーティングである。



加藤は手元から一組のトランプを取り出した。



「今から君達にアドバイスをあげようと思う」



岬には彼の意図が見えない。自分達はこれから生死をかけた戦いに赴くというのに、マジックでも見せて緊張を(ほぐ)そうとしているのだろうかと思っていた。



案の定、立石が立ちあがり加藤に突っ掛かる。



「あのなぁ、先生よぉ。俺達は今から戦いに行くんだぜ。あんたの手品に付き合っているほどの余裕はないんだよ」



「立石! 先生に対してその言い方はないだろ!」



「まぁまぁ、二人とも。とりあえず見てくれないか?」



加藤はパラパラと両手でトランプを手繰り、一枚のカードを取り出した。ハートのA(エース)である。



「見ての通り、普通のトランプだ。さて、トランプ一組は全部で何枚あるかな?」



「スペード、ダイヤ、クラブ、ハートの四種類のAからキングまでだから52枚。それとジョーカーを加えた53枚だ」



岬は端的に答える。彼も立石と同じく加藤の行動に懸念を感じていた。リーダーである自分が生死をかけて付き合ってくれる生徒達に不安を与えたくない。そんな気持ちから、加藤の意味不明な行動を早く終わらせたいと考えていた。



「立石、香川こっちに来て手伝ってくれないか」



香川は一瞬怪訝そうな顔をしたが、岬の視線に促され渋々と席を立った。



「さて、このトランプからハートとスペード、それにジョーカーのみを使ってババ抜きをしよう。ババ抜きならルールはみんな分かるだろう?」



「は?」



当然の事ながら、二人は顔を見合せ意気消沈する。



「あのなぁ、遊んでる場合じゃ……」



「ほらほら、受け取ってくれたまえ。香川くん、シャッフルしてくれないか」



笑顔の加藤に無理矢理押し付けられたカードは合計27枚。香川は観念し、シャッフルを終えると9枚づつ配り終える。



「それでは、同じ数字を合わせて場に捨ててからゲームスタートだ」



結果、立石の手元に五枚、香川が三枚、加藤に一枚が残る。



「では、立石から香川のカードを引いてくれ」



香川の差し出したカードを睨み付け、立石は無造作に一枚を引く。眉が歪み無念そうな表情である。



「賢い君達なら、この状況どう考える? ……そうだな、学園長。君の答えを聞こう」



立石が唸る中、岬はさも当然の如く答える。



「今、立石が香川から引いたカードが加藤先生の手持ちのカードもしくはジョーカーだろう?」



「そうだな、普通に考えればそうなる。立石、君が引いたカードは?」



「ちっ! ババだよ」



加藤は頷き、自分のカードを開いた。そこには小憎らしく笑みを浮かべるピエロがいた。



「ジョーカー……だと!?」



「そうだ。ジョーカーは二枚あった。ちなみにハートのAは立石君の首の裏の襟にある」



立石が首の後ろを探ると一枚のカード。ハートのAである。



「あ。本当だ。いつの間にっ! てめぇ、インチキしやがって! これのどこが俺達の役に立つって言うんだよっ!」



口から唾を飛ばしながら、加藤に食ってかかる。



「単純に言えば手品。だが、もしこれがトランプでなく、鋭いナイフだったならどうかな?」



「!?」



腑に落ちない立石一人を余所に皆の表情が氷つく。この場にいる誰もがババ抜きというゲームに気をとられ、加藤の動きに気付いていなかった。



「立石君。今、君はただのトランプ遊びに過ぎないと考えていただろうが、もし私が敵ならば、そのトランプ遊び一点に集中していた君はこの世からいなくなってしまっていたかも知れないね」



「そ、そうなのか?」



加藤は声を大にして皆を見回す。彼の細い糸目が見開かれて強い口調で話し出す。



「これはほんの一例だ。今から君達が行く先は死と隣り合わせの世界。ほんの些細な事に命を奪われかねないという事だ。だが逆に利用すれば……」



加藤は一呼吸置いて、再び糸目に戻り、言葉をつなぐ。



「強力な武器にもなる。そうだな……たとえ仲間であっても自分の『奥の手は見せてはならない』という事を肝に銘じておきたまえ」





『奥の手は見せてはならない』



(まさか、彼は……)



「では、そろそろやってみましょうか」



解明は唇の端を上げて不敵に笑ったが、眼鏡の奥にある瞳には強い意思を込めた光が宿っていた。



岬の脳裏に浮かんだ加藤の言葉。


魔王ベルゼブブを前に不敵に笑う彼の逆転の奥の手とは?



次回 父との誓い



今回もご覧頂き、ありがとうございました。

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