第十七話 スピカの記憶
(この機械に意思だって?)
充之は勿論、岬や神楽、生徒会の面々もスピカの発言に戸惑いを隠せなかった。
「レナスシステムについて思い当たる記憶があってな。ワシの昔話を聞いてくれないかの。ワシは幼い頃、日本に住んでおった。進博士…いや進おじちゃんと呼んでおったな。小学校で満点のテスト用紙を持って帰っては、ワシは正直、実の父より進おじちゃんに誉めて貰った時の方が嬉しかったから真っ先に見せに行ったもんじゃ。研究中だろうと何だろうとおじちゃんは笑顔でワシの頭を撫でてくれたのじゃ。温かくて大きな手じゃった…」
12年前。
時雨進は、研究の為、妻であり時雨財閥令嬢の時雨玲奈と息子の岬から離れ、同僚で同じ研究者の星野健一の元に身を寄せていた。健一は妻と別れ一人娘のスピカと共に一軒家の日本家屋を住まいとしており、今しがた研究資料の確保の為にスピカを進に任せ外出している。夏場の縁側では、涼しそうに風鈴が心地好い音色を奏でている。進は浴衣姿でスピカは冷えたスイカに夢中になっていた。不意にスピカは夜空に浮かぶ満月を見上げて進に話し掛ける。
「お月さまおっきいね。でもね、あたし知ってるんだよ。ウサギさんがお餅ついてないぐらい」
と答えるスピカに進はただでさえ細い目を細め、笑顔で頭を撫でる。
「スピカはお月さまやお星さまが好きなのかな?」
はにかむスピカは縁側から庭に飛び降り、進を見上げてその小さな両腕をおもいっきり大きく広げて言った。
「こーんぐらい好きだよ!いつか絶対、ロケット作って月とかアンドロメダ星雲とか、いっぱいいっぱい色んなとこに行くんだ!そん時はおじちゃんも一緒だかんね!」
「ははは!楽しみだな!」
端から見れば実の親子に見える事だろう。進は息子である岬には見せた事がない笑顔で屈託なく笑った。普段は研究に没頭し、家族と向き合うこともままならない進にとって、スピカと話すこの時間は彼にとってはかけがえのない時間だったのだろうか。
「スピカは宇宙人っていると思うかい?」
「いるよ!絶対いるよ!あたし、宇宙人さんともお友達になるんだ」
幼い少女の無邪気な発言に苦笑しつつも、進は真剣な眼差しで夜空を見上げる。
「おじちゃんもいると信じてるんだ。周りの大人たちはみんな信じてないんだけどね。人は遠い昔、宇宙からこの地球に降り立った宇宙人だと思うんだ」
あまりの突拍子な言葉にスピカは息を飲んだ。
「じゃあ、スピカもおじちゃんも宇宙人なんだ!」
「そうだね。ずーっと昔、神様の時代…いや、神様というのは私達の祖先かも知れないと思ってるんだ。ゼウスをはじめとしたオリンポスの神々も北欧神話のオーディンもみんな元は宇宙から来た宇宙人かも知れないね」
ふーんと言った感じで縁側に座り込みスピカは両足をぶらぶらと動かして進の話に耳を傾けていた。
「それから長い年月が経ち、多くの人達は我々の遠い先祖の事を忘れてしまった。そして、自分たちの好き勝手の為にお互いが争い合い、この星を汚してしまった。最初に来た宇宙人達は気付いていたんだ。遠い未来の子孫達はこの星を汚して壊してしまう事にね。何故なら彼らも、同じ事をして自分達が壊した星からこの地球に来たんだから。私は同じ過ちを繰り返さないように…スピカや、未来の子ども達の為に明日を作ってあげたいんだ。その為にスピカのパパと研究しているんだよ。今度、おじちゃんの作ってる物を見せてあげようね…おや」
コクリコクリと眠気がスピカを前のめりにさせ、今にも縁側から落ちそうになるのを堪えている。進は腕時計を見ると21時を回っている。進はゆっくりとスピカを抱えあげた。
「こんな時間までお話してたらおじちゃんスピカのパパに怒られちゃうな。そら、お布団に行こうな」
「うー、おじちゃん…だいしゅき…」
スピカはそのまま温かい腕に抱かれて眠りについた。




