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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
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人の力

前回のあらすじ


悪魔に取り憑かれたジークは、武闘ギルドメンバーさえも軽くあしらう実力を持っていた。


桜庭の号令で、遂にテレサを始めとしたチェリーガーデンの精鋭が動き出す。


彼等はジークを止める事が出来るのだろうか。

「退け退けぇっっ!」



「えっ?」



ジーク相手に一人がむしゃらに剣を振り回して抵抗していた女剣士ルーは、後方からもの凄い勢いで駆けて来る小さな姿を目にした。



走りながら、纏っていたローブを脱ぎ捨てたテレサの全身は何本ものナイフで覆われており、さながら全力疾走するハリネズミのようである。



「いっけぇぇぇっ!」



テレサは反りの深いジャンビーヤ風の無数のナイフを時間差でジーク目掛けて投擲した。ちなみにジャンビーヤとはアラビアンナイトなどで見られる三日月型の特徴的なナイフである。



ナイフは弧を描き、回転に勢いをつけながらジークに向かって飛来する。



キンッ!



ルーの脇を通り過ぎたナイフのほとんどがジークを避け、あらぬ方向へと飛んで行く。かろうじて二本がジークの鎧に浮き出ている悪魔の顔にヒットするも、ナイフは突き立つこともなく簡単に弾かれた。



「そんなナイフじゃ無理よっ!」



だが、ルーの悲痛な叫びとは正反対にテレサはガッツポーズをとっている。



「よしっ! 狙いは上々だ!」



「え?」



ジークの側をすり抜けたナイフには仕掛けがあった。二本が対になっており、それぞれの柄に仕込まれた細い銀線がカーブを描いてブーメランのような軌道で戻ってくる。テレサ特注のワイヤー付きブーメランナイフがジークの体を縛り上げた。



「…………」



無言で縛られているジーク。鎧の悪魔はなおも笑い続けている。



「一斉射撃用意!」



神楽応援団もといチェリーガーデンの男達は、それぞれ片膝を突き、両手で拳銃を構えた。






(すまんなニューナンブしか揃えられなくて。サクラならまだ良かったんだが、あいつら俺には使い回しの拳銃しかよこさなかったからな。俺に銃火器の知識があれば、もっと高火力の武器を用意出来たんだが)



ニューナンブやサクラは警察にて支給されている拳銃である。警官が携帯出来るよう、小型で軽量化を目指した銃であり威力もある。だが、まだ新しいサクラならまだしも、初期に配備されたニューナンブは命中精度において不安材料が多かった。



桜庭はそんな事を考えながら、観覧席まで駆け上がる。それを後ろからシャイルが追っている。



「あのな、孃ちゃん。俺は女の(ケツ)を追うのは好きだが、追われるのは照れるんだが」



「誰があんたのお尻を追うのよ。私の行く手にあんたがいるだけよ」



「あ、そう」



少し残念そうな桜庭であった。






パンッ! パンッ!



「拳銃っ! この世界にあるの!?」



ニューナンブが火を吹く。



キンッ!



飛び交う弾丸がジークを反れてゆく。だが、数発が鎧にヒットする……が、案の定弾かれた。



「あんたら何やってんのよ! 狙いはここでしょ!」



接近したテレサのニューナンブはジークの顔面に向けて照準が合わされた。



「もらいっ!」



パンッ!



ジークの額に銃弾がヒットする。頭が傾き、体が後方に仰け反り倒れてゆく。



「やったか! ……えぇ!?」



まるで起きあがりこぼしのようにジークの体は元に戻る。額には弾痕があるが、一滴の血も流れていない。



「やっぱり人間が悪魔に勝つなんて無理だったのよ!」



ややヒステリックに叫ぶルー。テレサは諦めることなく、次の号令をかける。



「こうなれば、手榴弾しかない。みんな、投擲後離脱しろっ! あんたも早く来いっ!」



テレサはルーの腕を無理矢理に引っ張り走り出した。



男達は手にした手榴弾のピンを抜き、一斉に放り投げる。皆、チェリーガーデンの精鋭揃いである。手榴弾の着弾点と爆発時間は実に見事であった。



ゴォォォォンッ!



爆風と立ち上がる火柱。通常の手榴弾ではなく、火の魔力を込めた特注の代物である。



「今度こそやったはず……」



だが、煙幕が晴れたそこには。



「な!」



首がもげ、悪魔の鎧を着こんだ骨だけのジークが立っていた。悪魔はケタケタ笑っている。



「ば、化け物だ!」



「こんな奴がいるなんて聞いてねぇよ!」



一人、また一人と精鋭メンバーは走り出した。勿論、ジークに背を向けて。



ヒュン! ヒュン!



爆発により縛めが解けた骨のみのジークは、先程のテレサのナイフを拾い上げ、投げた。



「ぐあっ!」



「う!」



唸りを上げて飛翔する9本のナイフは極めて正確に逃亡してゆく男達の背、心臓の裏側に突き刺さる。



倒れてゆく男達。残ったのはテレサとルーと、一人だけ背を向けなかった神楽応援団団長のみであった。




(なんだ。骨のみのはずなのにバネがあるようなスピード。ただのスケルトンじゃないっ!)



「あいつ……遊んでるんだよ! 私達なんかいつでも簡単に殺せるんだよっ! あーん! 私まだ彼氏もいないのにぃ!」



ルーは泣き叫び、腰が砕けたようにそのまましゃがみこんでしまう。



「くそうっ! 俺は神楽さんを守る為に残ったんだ! こんなとこで死んでたまるかよ!」



団長はふと下に目線を移す。



舞台側の選手達、それに神楽がこちらを見上げていた。心なしか、神楽が自分を応援しているかのような錯覚に陥る。



「俺は……神楽さんを守るんだぁっ! 人の……人の力を見せてやるっ!」



「は、早まるなっ! リーダーが来るまで待てっ!」



テレサの制止を振り切り、ロングソードを抜刀した団長はジークに向かって走り出した。



恐るべきジークの力に、チェリーガーデンの精鋭達も為す術がなかった。



一人、また一人と犠牲者が増えてゆく。



その絶望と惨状に業を煮やした一人の男は立ち上がった。



頑張れ! 名もなき神楽応援団団長!



彼はジークを止める事が出来るのか!



次回 大逆転の一手



今回もご覧頂きありがとうございました。

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