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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
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それぞれの想い

前回のあらすじ


桜庭達チェリーガーデンの作戦とは?



そして、その頃それぞれの者達が来るべき時に向けて動き出していた。

「起きてよっ! いつもみたいに姉さんって呼んでよっ!」



「…………」



キュイジーヌ……いや、妹の夏梨からの返事はない。



彼女はベッドに横たわり、はっきりと目を見開いているのに。細く美しい睫毛の下の眼球はただじっと天井を見つめていた。



フランソワ……結実は先程から彼女の手を握りしめ、何度も何度も呼び続けていた。



部屋にいた医師……いや、NPCである祈祷師達はすぐに結実により追い出されていた。



(あんな奴等に頼っても仕方ないじゃない)



妹の命がかかっているのだ。ゲーム世界のわけが分からない連中に頼る事は出来ない。



手首に触れるとトクトクと確かに脈はある。心臓の鼓動も聞こえている。でも、全くこちらに反応しないのだ。



(ナイトハルト……許せないっ!)



たった一人の身内である妹をこんな体にした内藤が許せなかった。体の奥から得も言われぬ怒りがこみ上げてくる。



ピンポーンパンポーン!



「間もなく準決勝が始まります。選手一同、また関係者の方はお戻りください。繰り返します……」



結実は立ち上がる。先程まで泣きはらしていたその表情には一点の曇りもない。



(夏梨……仇を討ってくるわ。ちょっとだけ待っててね)






「皆、分かったわね。この準決勝次第で行動に出る。合図は私が送る」



「了解しました、シャイルさん! 皆、心してかかれ!」



「了解!」



シャイルの元に集まった武闘ギルドの面々が王国兵士の鎧をまとい、散り散りに去ってゆく。



ある者は城へ、ある者は会場へ。



(みんな、頼むわよ)







(内藤さん……いったいどうしたんだ?)



岬は先程の内藤の様子が気になって仕方がない。



「うおぉぉ! 神楽さんから離れろぉ!」



という観客席の神楽応援団の声も届かぬほどに。



(なぁ、神楽。お前はどう思う?)



岬の膝の上に頭を預けて、すやすやと眠りに落ちている神楽に問い掛ける。



あれからずっと神楽は眠っていた。解明戦での疲労であろう。



(意地張りやがって)



レナスのサポートシステムを解いた生身の体で解明と戦った代償は大きかった。



このライフサーガではレベルがあり、個人の力を制限している。そして、サポートシステムを解除した神楽のレベルは3。ステータスのパラメーターは解明の十分の一にも満たない低ステータスであった。



おそらく解明が本気で攻撃してきた場合、命すら危なかったことは言うまでもないだろう。



「神楽さん、まだ眠ってますね」



解明がひょっこり顔を出した。



「顔に青アザが出来ているが大丈夫か?」



「これね。ま、ほっとけば治りますからご心配なく」



あの後、一生に殴られたアザを指さしながら呑気に答える。



「しかし、何故貴方は神楽を倒さなかったんだ? レナスのサポートシステムを解除した神楽にならば、手を抜かず一撃で勝負を決めることが出来たはず。まぁ、そのおかげで神楽は無事だったんだが」



解明の顔が引き締まる。



「岬さん。貴方は勘違いしている。まず僕は神楽さんを倒す事が目的で戦ったわけじゃない。彼女の真田の技を盗みたかったからに過ぎない。そして、もう一つ」



「もう一つ?」



笑顔で眼鏡を外し髪をかきあげる。



「彼女が本気を出せば、あの状況でも負けてましたよ。いや、死んでいてもおかしくない。それだけ神楽さんの潜在能力はずば抜けている。手を合わせた僕だから分かる。逆にお礼を言いたいのはこちらです」



「あの時の阿修羅という技の事か」



頭を振る解明。彼は眼鏡をかけ直し、じっと眠ったままの神楽を見つめる。



「いや、なんというか……言葉で言い表すのは難しいですが、彼女の中に恐ろしく強い何かがいるんですよ。あ、いや、魔王の細胞に取りつかれたとかではなく、彼女を守っているような何かが……」



改めて岬も神楽の顔を覗きこむ。すやすやと寝息を立てるいつもの顔。



(神楽、君はいったい……私が知らない別の君がいるのか?)



「しかし、女王はあれから姿を見せないし、どうしたんですかねぇ?」



はっと顔を上げ、女王席を見上げる。あれから空席のままの女王席。側にいた騎士もいない。解説者のシャイルや実況者の男もいない。



そして、気付けば観客席にいたレナスメンバーの姿もなかった。



(皆、どこに行ったんだ?)



「心配しなくても大丈夫ですよ。優勝すれば気球は自動的にアイテムボックスに入ってきますから。カイザルの大会はゲーム進行におけるイベントですから、たとえ女王が退席しても進行されます。それよりも……」



「何を……ん?」



二人の視線の先には一生の膝枕に頭を乗せた愛弓がいる。彼女もまた眠っているようであった。



「愛弓様をお守りするのが私の務め。先程は無礼を承知で申し訳ありませんでした」



「…………」



「愛弓様専属の執事として仕えてはや十年。幼少時の愛弓様はそれはそれは可愛らしく。そして、今は見目麗しい女性へと成長なさいました」



「…………」



「あの頃から私の気持ちに嘘偽りはございません。お目覚めでしたら私の気持ちをお伝えしとうございます」



ほんの僅かに愛弓の眉がぴくりと動いた。



「まだ、お目覚めではありませんか。ならば、毒リンゴを口にした白雪姫を目覚めさせたように私の熱いベーゼをば……」



バッチーンッ!



一生の唇が愛弓の唇に触れるや否や、強烈なビンタが彼の頬にヒットする。



「起きてるっつうの!! ったく、お前はいつまでも変態だな」



「あぁ、お嬢様ご無事で何より。この痛み夢ではありませんな」



「こっちは悪夢見てる感じだけどね。ん? 神楽さん!?」



急ぎ跳ね起きた愛弓は神楽の元に駆け寄る。



「神楽さんは大丈夫なのか!?」



自分の命の恩人が倒れていることに顔面蒼白になりながらも岬に問い掛ける。



「あぁ、心配ない。疲れて眠っているだけだ」



「いったいどこの誰が……」



愛弓は回りを見渡す。岬、一生……そして、一人ぎこちない笑顔を取り繕う眼鏡(かいめい)



「お嬢様、そこの眼鏡野郎が犯人です」



「あ、確か神楽さんの対戦相手は貴方だ! 神楽さんに何をした!?」



「あ、いや、なんというか、稽古を……ね」



しどろもどろで言い訳をしてみるが、愛弓の不信感は募るばかりだ。



「稽古? 大会中に?」



「はい、そうです」



ちなみに彼は嘘は言ってない。



「お嬢様、騙されてはいけません! か弱い女性に暴力を行使した眼鏡野郎ですよ。口八丁手八丁でお嬢様を騙そうとしているのです」



「そ、そんなぁ!」



その時、岬の怒声が飛んだ。



「いい加減にしないか! いまは今はお互い争う場合ではない。それに、彼女を少しでも休ませてやりたいんだ」



辺りが静まり返る。



「彼の言う通りだ。一生、あんたも彼のようになりなさい。それが出来れば……デートぐらいは付き合って……あげなくもない」



弱々しい語尾に恥じらう乙女を窺わせる。凛々しい彼女のまた違った一面に一同は呆気にとられた。



「は、はいっ! この黒鉄一生。お嬢様に誓って無駄な行動は慎み、彼を見習います」



「よろしい。解明さんも疑って失礼しました」



「あ、いやぁ。お気になさらないでください」



ピンポーンパンポーン!



会場のスピーカーから女性の声が聞こえてくる。



「間もなく準決勝が始まります。選手一同、また関係者の方はお戻りください。繰り返します……」



それと同時に、内藤が舞台へ足を運ぶべく会場内へと入って来る。



ここにいる岬をはじめとした皆は、まだ誰も彼の正体を知らない。



運命の準決勝が始まろうとしていた。

内藤の正体を知らない者達。そして、まだ目覚めぬ神楽。また、内藤の正体を知るレナスメンバーはどこに消えたのか?


準決勝。


ナイトハルトVSフランソワの闘いが幕を開ける。



次回 魔王VS能力者




今回もご覧頂き、ありがとうございました。

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