第百五十三話 魔女王(デビルズクイーン)
カイザル城の女王の間。
そこには一つの惨劇が起きていた。
ポタリポタリ…
部屋中に張り巡らされた糸を伝う赤い血が床に一滴、また一滴と滴り落ちる。
ここは女王紫苑の部屋。
部屋の中心にあった大きな繭は口を開き、新たなる生命の誕生を意味していた。
「はぁっ、はぁっ」
兵士は全身血みどろになりながらも剣の柄を握り締め、相対するソレを凝視していた。
ソレは美しい美貌とは裏腹に、先程己の手で肉塊とした男の血をすすっていた。
「なんで、沢村栞が…」
彼女は一糸纏わぬ姿で頬や唇を返り血で赤く染めながら、若き兵士の驚愕の表情を眺めつつ、彼の上司である隊長ジークの首を胸に抱き抱えて微笑んでいた。
「この姿になってから、人の血が恋しくて恋しくて…ふふっ」
「くそッ! 隊長の仇はとらせてもらう。くらえ、迅速の一撃!」
兵士は両手に握り締めた剣を突きだしながら、彼女目掛けて一心不乱に駆け出した。突進突きである。
それは彼が最も得意としており、今は亡きジークにも舌を巻かせたほどの最高の技であった。
剣はまごうことなく沢村の腹部を貫いた。ジークの首が落ち、横たわっている胴体に当たり壁際へと転がってゆく。
「な!」
突き刺さったままの剣は彼が押しても引いてもびくともしない。
沢村は自分の胸に刺さった剣を見つめながら手を伸ばした。
「うぐっ!」
それは兵士の顔面を掴んだまま空中に吊り上げた。じたばたと空中で苦しそうにもがく兵士。彼女はしばらくそれを見ていたが、やがて胸元の剣を引き抜き一言呟く。
「飽きた」
ズンッ!
兵士は心臓をひと突きされて声を上げれずに絶命した。
彼女は面倒くさそうに兵士の亡骸を床に放り投げると繭から一歩踏み出す。
スラリと伸びた艶かしい白い脚。引き締まったウエスト。細く長い指先。まさしくそれは沢村栞の姿である。が、一点だけ違うところがある。
ファサッ!
彼女の背には真っ黒な翼が生えていた。
「違う…この骨は沢村さんじゃない…」
アリスが横たわっている白骨を調べながら呟いた。
「私の…体じゃない?」
「何だって!? ならばそれは一体?」
香川の問いに振り向き、アリスは答えた。
「女王…紫苑の遺体だ」
沢村の体と女王紫苑の遺体。
そして、アリス達に迫る悪魔の気配。
次回 狂った愛情
今回もご覧頂き、ありがとうございました。




