第百四十四話 愛ゆえに…だから、貴女を倒します
前回のあらすじ
第二試合が終わり、第三試合が始まった。
なんとムラサキの正体は内閣総理大臣村崎巧の愛娘である村崎愛弓であった。
そして、対する黒は補佐官安藤の下で動く国家特務機関ヘイムダルのメンバーの一人黒鉄一生。
ありえない展開に戸惑いを隠せないムラサキ。
果たして試合はどうなるのか?
「特務機関? ねぇ、岬。特務機関ってなぁに?」
「特別な任務を請け負う機関だな。例えば、国のお庭番みたいな物だ」
「って、そんぐらいあたしにも分かるっての。だから、あの黒鉄って何者なの?」
岬はしかめっ面で黙りこくっている。
「あ、怒った? ごめん、ごめん」
怒っているわけではない。彼は自分の発言に妙な引っ掛かりを感じていたのだ。
(今、私は『国』…と言ったな。この世界の『国』を指して言ったのだが、もし現実世界の『国』なら…国家の…日本…そして、ムラサキ…村崎!?)
「まさかムラサキとは総理大臣の村崎の事か!?」
「おや、どうやら気付かれましたよ愛弓様。まったく、ムラサキなんて分かりやすいハンネにするから」
「お前に関係ないだろ! それに一生、なんでお前がここにいるんだ!?」
ムラサキは眉を吊り上げ、激しい剣幕で怒鳴りつける。
「ははは、そんなに大きな声で言わなくっても聞こえてますよ。何故、ここにいるか? ですか。それは、月のかぐや姫さえ見劣りするほどの美しさを備えた愛弓様を、この世界に跋扈するゲームおたくで現実世界の女子には縁遠い餓えた野犬のごとき輩からお守りするのが私の仕事ですから。特にそこっ!」
躊躇なく突き付けた指先には、俺ですか? と目をぱちくりさせる眼鏡がいた。
ムラサキと話す時の穏やかな態度から豹変し、目を血走らせ猛虎のごとく吠える口調で圧をかける。
「お前だ、眼鏡野郎。愛弓様に怪我を負わせた罪、万死に値する。試合が終わったら亡きものにするゆえ、おとなしくしてるんだな」
「うわわっ!あれは仕方なかったんですよ。神楽さん、あなたからも何か言ってくださいよ」
「あたし、しーらない?」
どうやら、解明に救いの手を差し伸べる事よりも、ややこしいことに巻き込まれたくない事の方が神楽の中の天秤が傾いたようである。
「話をはぐらかすな! 何故、ここにいるって聞いてるんだ。冗談じゃないぞ! 安藤に言って私の警護外してもらうからな!」
村崎巧の若い頃を知っている者なら、彼女が彼の血を継いでいる事に納得するだろう。ムラサキ…愛弓は父の頑固さや熱血漢を女性ながらに受け継いでいた。
「それは困ります。私の生き甲斐ですから。最近、愛弓様がお部屋に閉じ籠る時間が長くなりましたので僭越ながらお部屋にあるパソコンを通し、愛弓様が初めてこのゲーム世界にログインした時からのデータを調べさせて頂きました。その後、私もすぐにゲームを入手してログインした次第です。このような事態になるとは私も想定外でしたが。しかし、なかなか出回らない貴重なゲームでしたので入手するのに骨が折れましたよ。ま、特務機関ヘイムダルに不可能はありませんが…ね!」
と、ウィンクで返す。きちんと切り揃えた黒髪のぱっつん前髪の下に光る瞳。
「ス…ストーカー…だ」
「何で僕を見てるんですか、神楽さん?」
「なんか、あんたの同類の匂いがしたから」
ムラサキは刀を構え直した。
「事情は分かった。だが、ここはライフサーガの大会の舞台。例え知り合いでも私の道を阻む者は退いてもらう」
その眼差しには、一片の揺らぎもない。
「愛弓様、貴女の道は時代錯誤な剣の道ではありません。将来立派なレディとして私の…コホンッ! いや、お父上を支えてはいかなければならない立場。それにしても、貴女のお祖母様も余計な事をお教えなされたものだ」
「お祖母様の悪口を言うな!」
「仕方ありません。愛弓様の為に、私も心を鬼にしましょう。だから、貴女を倒します」
祖母に伝えられた剣の道を貫く精神、そして神楽との闘いを求める愛弓。
一方、愛弓を止める為に立ち塞がる一生。
勝負の行方は?
次回 剣と拳
今回もご覧頂き、ありがとうございました。




