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学園英雄記譚 - Lenas (レナス)-  作者: 亜未来 菱人
ライフサーガ編
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第百三十四話 英雄の帰還

前回のあらすじ



多くの犠牲はあったが、真田流秘奥義阿修羅にてジャガミラを倒した神楽達を待っていたものは?

紫苑配下の兵士が一本のロープを舞台に放り投げて戻ってゆく。



「あのロープを使って登って来いって事ですか。エレベーターとかヘリコプターとかないんですかね。はぁ、面倒だ」



ため息混じりで肩をすくめる眼鏡かいめい。彼の側にはまだ眠ったままのムラサキを背負っている神楽が立っている。



「先にムラサキを上げるわよ。文句ないわね」



「一人で強化版ジャガミラを倒した英雄さんに文句があるわけないでしょ。文句を言おうものなら」



そう言って上空を見上げる。プレーヤー達の大歓声。そして、彼女の無事に安堵している岬と内藤の姿がレンズを通して映る。



「彼氏さんにどやされそうだ」



「うっさい!」



気恥ずかしさを堪えながら神楽は、ムラサキの体をロープに巻き付けた。



「岬ぃ! このから上げてくんない?」



岬は一瞬躊躇した。ムラサキは眠っているだけである。それよりも神楽だ。彼女は死闘の中、一方的な攻撃ではあったが体力の限界を超えて立っているのが不思議なくらい疲労困憊ひろうこんぱいのはずである。しかも、爆発からムラサキを庇った火傷やジャガミラの体内に取り込まれそうになった際に受けた消化液による傷などダメージ量的には一番早く手当てが必要な事は確かである。



(相変わらず無茶するやつだ。学生時代から変わってないな)



「岬さん、今は神楽さんの手当ての方が…」



「分かった。引っ張りあげるぞ。すまないな内藤さん。あいつは昔からあんなヤツなんです。融通が効かない頑固もんで…」



ギシッ!



岬は両手でロープを掴みムラサキを手繰り寄せる。



「手伝いますよ」



ギシギシッ!



「我が儘で…」



「よし、俺達も手伝うぞ」



参加者達の何人かも岬と内藤の後ろにつき、綱引きの要領でロープを引っ張る。



ギシギシッ!



「それでいて誰よりも優しい、どうしようもないヤツなんですやよ」



「………」



ムラサキの体がゆっくりと舞台上に上げられた。眠ったままのムラサキの体には背中の刺し傷以外に異常はない。



「ようし! 次は英雄さんを引き上げるぞ!」



「おおっ!」



参加者達はロープに手をかけた神楽を引っ張り上げる。



「あ、あたしは自分で登れるって!」



下から見上げる眼鏡かいめいはにこやかに声を掛けた。



「いいから、いいから。英雄さんの凱旋ですよ。神楽さんはしっかり胸張ってロープ握って。後は彼らに任せて引っ張って貰えばいいんです」



「むぅ」



強がりは言ってみたものの今の神楽はロープを掴み、体を支えるので精一杯だったのである。



「せいや。せいやっ!」



参加者達は掛け声に乗せてロープを引っ張り上げる。





舞台の端には不満気な表情の少女の姿があった。



「英雄…ねぇ。何もナイトハルト様まで手伝わなくてもよろしいのに」



カッカッ…



フランソワは嫌味っぽく地面を踵で蹴り続けている。



「ねぇ、キュイ? もしかして、あたしが不正解で落ちてたら良かったと思う? あの神楽って女より目立ってた?」



キュイジーヌは姉の発言に、またいつもの癖が始まったと呆れ顔を見せたものの、彼女の機嫌を損ねないように返答する。



「確かにお姉様なら、もう少し早く方がついたでしょうね」



フランソワの眉がつり上がる。



「もう少し? いえ、あたしなら瞬殺してるわ。あんな木偶の坊」



参加者の誰かが聞いていたなら単なる強がり、もしくは法螺吹きだろうと思うだろう。あいにく、この姉妹の会話より神楽に皆の視線は集中していた。



「お姉様が遊ばなければ…ですね」



「ま、いいわ。そういう事にしておきましょ」




ようやく神楽が舞台に戻って来た。



「神楽っ!」



「あ、岬…ただいま…」



ガッ!



岬は周囲の目を気にする事なく神楽を抱き締めた。



「ちょ…止めてよ。こんなとこで。それにあたし汚れちゃってるし…」



神楽の体はジャガミラの粘着力のある消化液まみれである。ジャージは溶けてボロボロで、美しかった長いロングヘアは爆風により所々チリチリになっている。しかし、岬は全く動じない。



「バカ野郎! いつも心配かけさせやがって!」



いつもクールな岬が感情的になっている事に神楽自身も驚いた。



「お前は自分の体に負担をかけすぎるんだよ。お前の命は、お前だけの物じゃない」



「?」



少しの間を起き、岬は自分が発言した事に気付いた。



(あ…しまった)



岬の脳裏には、時空の狭間で見た光景が焼き付いていたのである。



素早く手を放して離れる。顔は真っ赤だ。



「ん? 岬くん? どーしたのかなぁ?」



「な、何でもない! お前がいなくなれば充之や叔母さんが悲しむだろ!」



「本当にそれだけ?」



「だ!」



学生時代からいつも側にいた神楽だから分かる。嘘をついていると。



「ま、いいわ。それより…」



気が付けば神楽と岬のやり取りを参加者達が取り囲み、ニタニタと笑っている。更にそれよりも大きな輪。会場中のプレーヤー達の視線が集中していた。



「ちょっと注目され過ぎ…よね」



流石の神楽も恥ずかしさで顔を赤らめ、うつむいた。



そのタイミングで一斉に会場全体から祝福の声が上がる。



「英雄ばんざーいっ!」



「真田流世界一っ!」



という声に混じり、



「痴話喧嘩してる場合じゃないぞー」



との声が聞こえて来た。



立石だ。



「あのボクシング馬鹿っ! 後でお仕置きが必要ね」



「ふっ、そうだな。今年は部費を削減するか」



二人を中心に雰囲気に飲まれた参加者達の笑い声が、先程まで死闘を繰り広げていた場を和ませていた。








「あのー、僕はいつ上がれるんですかねぇ?」



眼鏡かいめいは一人ぽつんと立ち尽くしていた。


英雄として迎えられた神楽。



そして、岬の記憶の勘違い


第94話 神々の遺産『時空石』参照


もあり、場の雰囲気は和やかな空気に包まれていた。



が、フランソワとキュイジーヌの不穏な会話に参加者達は誰一人気付く事はなかった。


ちなみに、眼鏡かいめいが置き去りにされている事も。



今回もご覧頂き、ありがとうございました。




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