第十三話 先発メンバー
ここ転送ルームはメインシステムルームの真下にある。床はガラス張りで淡いブルーのライトがユラユラと揺れ動いている様に見える。側にはシステムルーム直通の昇降エレベーターが設置されていた。
「帰って来て早々に転送とは学園長も人使い荒いぜ。ま、オレがいればどんなミッションでも朝飯前だけどな!クレタ迷宮のミノタウロスをボコ殴りした勇姿を二人にも見せたかったぜ」
トレーナーにパーカー、短パン姿のボクシング部主将三年生の立石丈は、軽くウィンクしながらガッツポーズを決めた。頬にある絆創膏がわんぱく小僧をそのまま青年にした感じである。
「方向音痴なリーダーのおかげで散々迷宮を徘徊させられたのをお忘れですか。ですから、今回は私がリーダーを務めさせていただきます。だから、ユウは安心して」
皮肉を言いつつ自身で打ち込んだ刀の手入れを行っているのは、居合部部長三年生の山県清音だ。長い黒髪を後ろで束ね、白の和装にたすき掛け鉢巻き姿、紺の袴にすらりとしたその出で立ちは美しさと気品を兼ね備えている。実家は数少ない刀鍛冶で、将来は父の後継者として有望視されている。
「ありがと、お姉ちゃん。でも、無理はしないでね」
姉とは似つかず幼さの残る優しそうな少女は、山県優音飼育部1年である。学園の制服姿の彼女は、短く切り揃えられたボブカットの似合うおっとり系少女だ。
「優音ちゃんも一年生なんだよね。わたしも今回が初めてだけど一緒に頑張ろうね」
「うん。頑張ろうね千晶ちゃん」
人懐っこさが取り柄の千晶は早くも三人と打ち解けているようだった。
「さて、転送までの合図があるまで二人には予めシステムのおさらいをしておくわ。まずは、皆のレベル、ランクを確認するわね」
『立石丈(ボクシング部主将)
ランク(ファイター)
レベル25
HTP3500』
『山県清音(居合道部部長)
ランク(サムライ)
レベル20
HTP3000』
『山県優音(飼育部)
ランク(テイマー)
レベル1
HTP500』
『神納千晶(古流武術同好会)
ランク(クリエイター)
レベル1
HTP5000』
レナスシステムに慣れているであろう立石と清音は顔を見合わせた。優音は不思議そうな表情でそんな二人を見ている。
「千晶ちゃん、あなたのHTP5000もあるわ。もしかして、立石より才能あるのかも。期待してるわね」
「あははー、まーかせちゃってください! 運動神経だけは自信ありますから」
小さな頃から充之を追いかけ回していたことで、足の早さなら誰にも負けない自信があった。実際、陸上部をはじめ、数々の運動部からの誘いがあったが断ってきた。今は中学の頃からの世話になった影辰のたっての願いで古流武術同好会に幽霊部員として籍だけ置いているが。
「ちなみに赤で表示されているレアクラスと来たもんだ。この『クリエイター』ってクラスは初めて見たが、どんなクラスなんだよ。キヨ知ってるか?」
馴れ馴れしい口調で話を振る立石。
「だから、キヨって言うなと何度言ったら分かるんだ貴様は!」
「ま、まぁ落ち着けって! 妹がいるんだから苗字で呼ぶと分かりにくいだろ、ははは…」
「ま、まぁ分からんでもないが…」
立石の鼻先に突き付けた愛刀風刃一刀を下ろす清音。凄みを帯びているが、漫才を思わせる独特な雰囲気に僅かだが場が和んだ。
「…ったく。ちなみに私も初めてみるクラスだ。神納、自分のクラス分かるか?」
「んー、ここに来る前にスピカさんと少しだけお話したんだけど、説明が難しくって。簡単に言うと想像力が力に関係する特殊技能らしいです。上手く説明できなくってゴメンナサイっ!」
ペコリと頭を下げる。と、思い出したように頭を上げ優音に視線を合わせた。
「そう言えば、優音ちゃんの『テイマー』ってのも分かんないよね?」
「わたしのは動物さんと会話できる能力なんだって。小さい頃からウサギさんとか小鳥さんとかとお話してたから」
その返答に千晶はハテナマークを頭の上に浮かべて困った顔をする。優音は相変わらずポヤンとした雰囲気で笑みを浮かべていた。
「まぁ、とりあえずは私達に任せていればいい。あくまでも、今回はチュートリアル的なミッションらしいからね」
「二人の出番はないかもな。経験値はボス討伐ボーナス以外はメンバー全員に均等に配付されるらしいから、今回は二人とも立ち見でいいさ。早いとこさっさとボス倒しちまって帰ってこようぜ」
突然、フッと天井のライトが消え、足元からほのかに淡いブルーの明かりが渦巻き始め、ゆっくりと四人を包みこみ始めた。千晶は幻想的な光景に見とれ、優音はふるふると子ウサギのように身震いし姉の手を握る。清音は優しく強く彼女の手を握り返した。
「へへ。いよいよ始まりやがるな」
立石はその場で軽くフットワークを刻んだ。




