第百二十話 第二陣出発
前回のあらすじ
女王紫苑は魔王ジャガミラの細胞をキマイラに与えていた。
麻痺毒を持つ尻尾の蛇をタケルは斬り捨てていたが、知らずの内に再生していた麻痺毒を受け、キマイラの餌食となる。
キマイラの背中にタケルそっくりな人形が現れ、引き寄せられた美羽も殺られてしまう。
残った神楽やカスタム、ムラサキ、ハンマードック、ダンガムはこの怪物を前に生き残れるのか?
その頃、現世では…
午前8時。
神楽が時空石により春川の霊と共に飛び立った翌日。
ここ須藤家の居間のテレビには、現在日本中の国民を注目させるニュースが流れていた。
ライフサーガ事件である。
「一昨日のライフサーガ事件の続報です。行方不明者は更に増え続け、現在犠牲者は百人となっております。まだ、依然として犯人からの要求はないわけですね?」
女性キャスターは、紺のスーツを着た厳めしい評論家に話を振った。
「はい。これだけの規模での誘拐事件ともなれば政府への要求があって然るべきなのでしょうが。警察は当初、テロ組織の犯行と見て捜索を続けておりましたが、やはり国内ではなく海外の組織…いや、外国による威圧かも知れないという見解も出てきました」
評論家は分厚いメガネのレンズに指を添えながら答えた。
「というと、最近話題になっているB国の…」
「いや、そうとは言い切れませんが、一晩で百人単位での誘拐事件など過去を遡っても例はありません。一組織の犯行というより軍事的に考えてゆく必要もあるかもしれないという事です」
評論家の意見に頷く女性キャスターの手元にスタッフからメモが渡される。
「あ、只今入りました情報によりますと、101人と102人目の失踪者が確認できました。C県D市に住む中学一年生の大和武くん、そしておそらく一緒にいたであろう隣家の風見美羽ちゃん中学一年生の二人が失踪したとの情報です。今、現地にリポーターの山口がいます。聞こえますか、山口さん?」
画面が切り替わり、山口と呼ばれた若い男性リポーターがアップで映りこむ。周囲には多くの報道陣が既に集まり、各社の激しい中継争いが繰り広げられていた。
「こちら、失踪した大和武くんの自宅に来ています。見えますでしょうか? 多くの報道陣、カメラが武くんの家の家政婦さんを捉えています。当日は武くんの二階の自室には、彼と美羽ちゃんしかいなかったと家政婦さんは話しています」
家政婦はかなりの歳を召した老女であった。七十歳前後であろうか。彼女は涙ながらにカメラに訴えかけるように話していた。
「私は武坊っちゃんと隣の家の美羽ちゃんしか見ていないのです。私が最後に二人を見たのは夜十一時半頃でした。その日は旦那様も奥様もお仕事で帰れないと連絡があり、それをお伝えにお部屋に行きました。坊っちゃんは美羽ちゃんが泊まっていくからとだけおっしゃり中から鍵をかけられたのです。お二人ともテレビゲームに夢中のようでしたから、私はそのまま就寝したのです。翌朝、朝食のご用意ができましたのでお二人を呼びに参りましたが返事はなく、まさかと思い合鍵を使って入ってみると、お二人の姿はなかったのです。窓も内側から鍵がかかっておりましたし、部屋を出る際にはベルがなるようになっていましたので、その音も聞こえず。えぇ、その日はどなたの訪問もありませんでした。今でも、お二人が無事でいるか心配で…」
テレビ画面がブラックアウトする。スピカが電源をオフにしたのだ。
「まるで神隠しだな」
「まさか、本当に柚子ちゃんが言ってた宇宙人…じゃない、『悪魔』の仕業なの?」
充之達にはスピカと柚子がコピーとの遭遇から話をしていた。通常ならば到底信じられない話だが、昨夜の時空石の事もあり、彼等は信じるしかないとさえ思えていた。
「それで、ライフサーガ事件を引き起こした『悪魔』の仕業で春川が犠牲になり、時雨学園長達選抜メンバーが危険な立場でいると…」
影辰はいつもに増して真剣な表情でスピカに尋ねた。
(はぁ、影辰様も普段からずっとこのようなお姿でいられたら、この翁も早く天寿を全うできようものなのに)
翁…平賀源内はため息をついた。そんな源内を静音は優しく背をさする。
「ポチ、どしたの? どっか具合悪いの?」
「あ、静音様っ! ワシは大丈夫ですじゃ! 元気満々で在りますゆえ」
(ワシとした事が静音様に気をつかわせてしまった。なんたる不覚!)
静音の前世は平賀源内の師であった。回りから見れば孫とお爺さんであるが。
スピカは小さな背を大きく見せるように皆を座らせ、自身は椅子の上に立ち上がる。
「さて、話を本題に移すぞ。現在、岬達選抜メンバーは進教授の情報を得るためにライフサーガに参加した。ワシの裏コードでじゃが。しかし、知ってか知らずか、その『悪魔』とやらがゲーム世界と、この現実世界に異常な影響を及ぼしている。我々が為すべき事は二つ。一つは岬達選抜メンバーや昨日飛び立った神楽の救出。無論、行方不明になっておる失踪者達も救出出来れば幸いじゃ。二つ目は、原因の究明及び、悪魔の討伐。これにはかなりの危険が生じる恐れがある。最悪、究明のみでよい。皆には自分の命を最優先してもらいたいからの」
(あぁ、優音の件が根強く残っているのか)
充之はスピカの気持ちを察した。千里眼を使うまでもなく、スピカの性格や、先日の酒呑童子戦で自身を犠牲にした優音の事件を激しく後悔している事が理解できる。その為に、レナスシステムに自害等の自傷行為に制限をかけたという話も聞いていた。
「問題はここからじゃ。出来れば全員でライフサーガ世界に向かって欲しかった所じゃが、追加転送には五名までという人数制限があることは話したな。その為に、源内殿の手を貸して頂き、お主らを試しておったのじゃが、少し面倒な事が起きたのじゃ」
「面倒な事?」
充之達には初耳である。
「実はコピーの事に気をとられて、すっかり忘れておったのじゃが…既に二名がライフサーガに入って行きおった。生徒会長と執行部の東雲じゃ」
「東雲…京香か」
「ん? 誰、それ?」
執行部部長である影辰は彼女の人となりを端的に述べた。性格的には難があるが、合気道の達人で実力はかなりの者だと。
「響子は無理矢理レナスを起動した東雲を追って行ったと、レナスを管理しておる生徒会の二人は言っておった。もし、何らかの形で東雲が『悪魔』と通じておるならば非常に厄介だ。くれぐれも気をつけて欲しい」
「んで、当初の五人が二人利用したから残りの席は…三つか」
皆、お互いの顔を見回した。
カイザルでの武闘大会中、現世ではライフサーガ追加メンバーを決めていた。
果たして選ばれたメンバーは誰になるのか?
今回もご覧頂き、ありがとうございました。




