第百二話 商店街の買い物客たち
前回のあらすじ
武闘ギルドの長シャイルは実は美少女であった。
ちょっとした一言で神楽の機嫌を損ねたシャイルはお説教されてしまう。
その頃、岬達は…
神楽達がシャイルと交渉に入った頃、岬達一行はカイザル一と呼ばれるシャンテマリア商店街を歩いていた。
シャンテマリア商店街。
ここはカイザルで最も活気溢れる商店街であり、朝早くから行き交う冒険者達が多く見受けられる。
シャンテマリアとは初代国王カイザルの妃であるシャンテマリアの名をとってつけられている。
大富豪商人の娘であった彼女の名前を縁起担ぎとして名付けられたと町の案内掲示板には表記されていた。
店主のほとんどはNPCであるが、中には冒険で得たアイテムを格安で販売するプレーヤーもいたりとライフサーガ内でも重要な拠点となっていた。
岬達は来るべきサタンとの再戦に必要なマジックアイテムや回復薬を手に入れるべく、内藤の案内でこのシャンテマリア商店街を散策しているところである。
「闘いもいいが、戦士には休息が必要ってなもんだ。なぁ、後輩?」
「ったく。その後輩にありったけの荷物持たせて同意しろってのがそもそも無理だと思いますけどね」
手ぶらで歩く立石の後ろには、両手いっぱいに買い物袋を抱えた武井が汗だくになりながら歩いている。
その後方には香川と沢村が歩いている。
沢村は、通行人に目を付けられる事を恐れ、目深にフードをかぶっていた。
「沢村さん、暑くないですか?」
沢村を気遣い、香川が声をかける。
「大丈夫です。いつもスタイル維持にスウェットスーツを来てランニングしてますから。意外とへっちゃらなんですよ私」
沢村は隣を歩く香川を見上げたて微笑んだ。身長差は20センチ近くあるのだ。
香川はにこやかに微笑み返す。
「アイドルって大変なんですね。自分は全く知らない世界なんで。自分に出来る事は弓とお稽古ごとぐらいでして」
「お稽古ごと?」
不思議そうに香川を見つめる。照れ隠しなのだろう。香川は視線を外し、視線を前方に向けた。
「はい。家が生け花の家元なので。姉がいるんですが、母親は私にまで生け花は勿論、茶道、料理、裁縫、着物の着付け方まで叩き込まれました。あ、最近は姉にアップルパイを伝授させられまして。まず、冷水とバター、塩と薄力粉などの小麦粉と練り合わせます。この時、練り過ぎないように注意する事がコツなんですよ。そして…」
香川のアップルパイ講座が開かれた。
「で、三十分オーブンで焼き上げたら出来上がりです。よろしければ、後日お渡ししましょうか?」
「は、はい! いただきます」
(私より全然女性らしいんだ、香川さん。あはは…)
香川、沢村よりやや遅れる形で岬と内藤が歩みを進める。
内藤は沢村の楽しそうな振る舞いを見て、岬に話しかけた。
「岬さん、うちの沢村をどう思われますか?」
「どうとは?」
内藤は目を細めて沢村を見ていた。その瞳には実の娘を見守っているかのような愛情が含まれている。
「元の世界に戻ったら、彼女を引退させようかと思っています」
「!?」
「あの子は、子役時代から日々、友達て遊ぶ時間もなく芸能活動を続けてきたんです。高校生になってからは夜間学校に通い、この三年の間ずっとアイドルを続けてきた。事務所は反対するでしょうが、ずっとマネージャーとして接してきた私は、彼女に普通の女性としての時間を返してあげたい。いけない事でしょうか?」
岬は彼の親心を感じた。
少年時代から他人より裕福な生活であったが、両親の愛とは無縁だった岬。
しかし、神楽との出会いは彼の凍った心を少しずつ溶かしていった。
進には与えられなかった不思議な気持ちに共感できるようになったのもつい最近の事である。
(次元の狭間で見た『あれ』は、私の心の奥にある願望だったのかもな)
おもわず苦笑してしまう。
「岬さん?」
「あぁ、すみません。彼女の…沢村さんの気持ち次第だと思います」
内藤はその答えに深く頷く。誰にも相談出来ず、長く悩み続けてきた答えが出たようだ。
「あ、学園長。今、アスタロト様から連絡がありました」
気配を消したように側を歩いていたアリスが口を開く。アスタロトの使い魔となったアリスは、神楽達の連絡役として岬達に同行していた。レナスによる通信機能は、ここライフサーガにおいてある程度の近距離でなければ機能しない事が、響子の転送により分かったからである。
「そうか、東雲…いや、アリスくんか」
「呼びやすい方で構いません。元々、この体と記憶は私の魂とリンクしていましたから。尤も、東雲京香の人格を作っていたリリスの魂は響子さんに燃やされて消滅しましたが……!?」
アリスの視線が遥か前方に向けられた。
「おっとっと! 危ないぜ、お嬢ちゃん!」
立石にぶつかりそうになりながら、一人の少女が駆けて行った。
歳は小学生低学年ほどであろうか。
「待て、ガキっ!」
続けて、王国兵士風の鎧をまとった数人の男達が彼女を追いかけてくる。口調から察するにあまり良い人柄とは思えない。
「よっ!」
「うおっ!」
立石は咄嗟に足を出して先頭の男をつんのめらせた。ドミノ倒しのように後から続いて走ってきた男達も巻き込まれる。まさに一網打尽である。
「すまんな。足が勝手に出ちまった」
「何しやがる。てめえ、ただじゃおかねぇぞ!」
次の瞬間アリスは駆け出していた。
走り疲れてふらふらな女の子を疾風の如く、走り寄り両手に抱き上げていた。
彼女の頭の中には、魔女狩りの頃の記憶が蘇っていた。女の子と姉のアリサが重なって見えていたのだ。
(あの娘も、私と同じく変わったのだな)
岬は微笑しつつ、内藤と共に二人の元へ駆け出した。
少女を追う王国兵士の鎧をまとった謎の集団。
果たして彼らの狙いとは?
次回、謎の剣士あらわる(仮
今回も、ご覧いただきありがとうございました。




