第百一話 閃光のシャイル
前回のあらすじ
占い師ジャンの残したメッセージを頼りに、ひとまず南西の孤島を目指す手段として、王の所有する『気球』が必要になる神楽達。
格闘大会の優勝商品である『気球』を手に入れる為、閃光のシャイルに大会参加を認めてもらう必要があるのだが…
「たのもー!」
ドン! ドン!
武闘ギルドの扉を激しく殴打する神楽。慌てて響子は止めに入った。
「お、お姉様っ! それではまるで道場破りですわ! ここは私にお任せください」
響子は一歩前へ進み出ると、声を大にして叫んだ。
「早く開けてくださらないかしら? ここにおわすお方を誰と心得る。最強にして麗しき乙女、真田神楽お姉様ですわ。早く開けた方があなた方の身の為ですわよ!」
何かしらで聞いたことあるような口振りに、倉前は頭をかいて答えた。
「君達、武闘ギルドも合言葉がいるんだ。ドアのノックの仕方からもね。それじゃ、明らかに警戒されるぞ」
二人は頬を膨らませて苛立ちを露にする。
「いいか。よく見てろ」
コンコン!
倉前はやや遠慮がちに、小さく二回ノックする。すると中から男の声が聞こえた。
「誰だ。合言葉を言え!」
大きく息を吸う。
「乙女は今日もセンチメンタルっ!」
「ふむ。正解だ。しかし、お前倉前だろ。シャイル様にお前は通すなと固く言われている。だからダメだ」
うがぁぁ!
倉前は扉を蹴りまくっている。
「あたし達よりよっぽど酷いわ」
「同感ですわ」
ひとしきり扉を蹴って気が済んだのか、倉前は愚痴を漏らしてUターンする。
「こっちもあいつと顔を合わせるのはお断りだ。くそっ、恥ずかしい台詞大声で言わせやがって…ん?」
「ジャンケンポン! あっち向いてホイ! よっしゃ!」
神楽は勝利をおさめてガッツポーズをとっていた。住み慣れた
「流石お姉様、ジャンケンまでお強すぎですわ。仕方ありません。私にお任せあれ」
再度、響子のチャレンジ。
コンコン!
「ったく。合言葉」
相変わらず、無愛想な男の声。
「乙女はぁ、今日もセンチメンタルですの!」
おもいっきりアニメ声に似せた響子。
響子は知っていた。これは、魔法少女ミキミキが魔法バトルで敵の妖魔を退治した後の決めゼリフである事を。
「お! ミキミキそっくりじゃねぇか! よし、開けてやる」
重い扉が開かれる。
「やりましたわ。何度も練習していた甲斐がありましたわ…は! 違いますの! これは、その…文化祭の演し物で…」
神楽と倉前の冷めた視線に気付いて慌ててフォローを入れた。無論、自宅で毎週アニメを見ながらやっているとは口が裂けても言えない響子だった。
ずんぐりむっくりとした体型の戦士風の男は、神楽と響子を下から上までなめ回すように見ている。
「(気持ち悪いわね)」
「(お姉様のご命令一つで、私が剣の錆びにしてくれますのに)」
物騒な事を考えているとは露知らず、男は二人を顎で指し示す。
入れという事のようだ。
「おっと、倉前はそこで待っていろ」
「ちっ。分かったよ。あんたら、シャイルに上手く伝えてくれよ」
二人は頷き、扉の先へ向かって歩き出した。
部屋の中は魔道ギルドとは違い、広く豪勢な造りである。
壁や天井、床までもが綺羅びやかな金銀の装飾で彩られており、まるで映画のクレオパトラが住む宮殿のワンシーンである。
武闘ギルドに入る前は、武装したむさ苦しい男ばかりと思っていたが、戦士から武道家まで、様々なコスチュームに身を包んだ女子も多数いるようだ。彼らは訝しむように神楽達を見ている。
更に奥にはまたもや扉がある。ずんぐりむっくりが脇にいる戦士に話しを通すと、しばらく待てと戦士は扉の奥に消えた。
ややあって、再び中から現れた戦士は三人を扉の先に通す。
「シャイル様、この二人が大事な話があると申しております」
黄金の鎧に身を包み、兜で面を隠した人物が部屋の中央壁際に位置した玉座に腰かけている。左右には大きな蓮の葉っぱのような物を団扇がわりにして扇ぐ女中がいた。
「あなたが閃光のシャイルね。あたしは真田神楽」
「私は湯里響子と申しますわ。あなたにお願いがあって来ましたの」
椅子の肘かけに頬杖を突いていたシャイルは何か女中に耳打ちする。
女中とずんぐりは軽く会釈し部屋を出て行った。
沈黙が続く。
「分かってるわよ、金貨よね」
響子はシャイルの前まで足を運ぶと一枚の金貨を差し出した。
「響子っ!」
神楽の声と同時に響子が手にしていた金貨は上半分がなくなっていた。
いつの間にか立ち上がったシャイルの剣が一閃していたのである。
響子はバックステップで間合いをとり、腰のサンブレードに手をかけた。
「あら、私達とやり合いますの? 上等ですわ…あら?」
パチン!
シャイルは剣を鞘に戻すと、ゆっくりと椅子に腰かけ、先程と同じ姿勢になった。
「あんたら、人に物を尋ねる常識がなっちゃいないね。私は魔道ギルドの花音とは違う。全ての人間が金で動くと思ったら大間違いだ」
(女の声?)
見た目に反し、シャイルは若い女性の声であった。
「お姉様、私、久し振りにお腹が立ちましてよ。こうなれば、力づくで…」
今にも剣を抜き、飛びかかりそうな響子。対して神楽はシャイルに歩み寄る。
「お、お姉様?」
「シャイルさんだっけ? あんたの言うこともよく分かる。けどね、響子はあたしの大切な仲間なの」
(あたしの大切な…初めてお姉様の口から。響子はこの日をわすれませんわ)
響子は感動で涙が溢れんばかりである。
「ふっ。あなた、変な格好してるけど腕は立つみたいね。私はあなたみたいな常識を知らない女は大嫌いなの。言って分からなければ体に教えてあげるわ」
「変な格好…あたしが?」
(お姉様、突っ込み所そこじゃありませんわ! いえ、私も体で…うらやましいですわ)
響子は混乱しているようだ。
「これ、普段着なんだけど。もう一度言うわね。あたしの格好って変?」
「何度でも言ってやる。変…」
ズバッ!!
シャイルの兜が宙を舞う。
兜の下から現れた美少女の驚きの表情。美人ではあるが、まだ幼い顔立ちは中学生であろうか。長い髪がフワリと跳ね上がる。
(な!? 全く見えなかった。この閃光のシャイルが…)
神楽は跳ねあげた右足を下げ、直立する。そして、前屈みになり、少女の顔に自分の顔を近づけた。人差し指を彼女の鼻の頭に軽く突き付ける。
「いい? これは『個性』っていうの。あなた、まだ若いから今のうちに覚えておきなさい」
「は、はい…」
響子は先程まで腹を立てていた事も忘れ、お腹を抱えて笑った。
閃光のシャイルさえも捉えきれないスピードで彼女の兜を蹴り上げた神楽。
その素顔は、まだ幼い少女であった。
次回予告
シャイルを説き伏せ、ひとまず参加権利を得る神楽。
しかし、時を同じくして岬達にも魔の手が迫っていた。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。




