第百話 メッセージ
前回のあらすじ
魔道ギルドのマスター、もといママである花音に情報を集めてもらうことになった神楽たち。
一方、倉前には結婚を約束している彼女がいた。響子は倉前に彼女と再会させると約束する。
「あったぞ。こいつは有力な情報だ」
皆の視線が花音の目の前のウィンドウに集まる。
「
昨晩、私は夜空に光る星を見ていました。占い師である私の日課でもあります。
ライフサーガの天体は、地球のそれとは違い、克明に未来の状況が把握出来る事はご存じでしょう。
地球で言えば月にあたる星ルナークルに陰りが見えました。隣に位置するカルチルにも似たような陰りがあります。
これが、意味するところは「破壊と創造」。
近い将来、このライフサーガにラスボスである魔王ジャガミラとは別に、新たな魔王が襲来する事を予言しています。
私は当然、コンシューマー向けにアップデートがあるんだと簡単に考えていました。
しかし、次の瞬間、私の意識は遠ざかり、目が覚めた時にはあの異変です。
私は自分の肉体と共にライフサーガ世界に転生したのだ、夢ではないんだと理解しました。
まるでファンタジー小説のような展開に心が痺れました。
退屈な日常を抜け出し、アニメや小説でよく見る異世界転生に憧れていた私は自由を手に入れたと感動しました。
今思えば、何と浅はかで愚かな考えだったのでしょう。
ふと夜空を見上げると、南の空に大きな黒雲がかかっています。
ワールドマップで確認したところ、あの雲の下は海を越えた南西の島国アトラクタです。
そう、魔王ジャガミラの城がある大陸。
私は恐ろしくなりただただ震えていました。
すると突如上空に人影が現れました。
スーツに身を包んだ彼は私にこう言いました。
この世界は新たに復活を遂げた大魔王サタンにより統治される。一週間もあれば、君達プレーヤーは彼に贄とされるであろう。これを阻止したければ、ジャガミラがいた城の王の間にいるサタンを滅するしかない。君達の努力に期待する…と。
言い終わると彼は音もなく霧のように消えていました。
私はすぐさまこの情報をギルドに持ち込みました。
プレーヤー達に伝えたのですが、異変の騒ぎに誰も私の話に耳は貸しません。
勿論、NPCに理解できる訳がありません。
否応なしに私は狂言者扱いとして認識され、捕らえられました。
後一時間もすれば処刑の時間です。
この内容は本日中に消去されるやも知れません。
消される前に、勇気のあるプレーヤーに届く事を切に願って。
占い師 ジャン・ヴァン・クロット
投稿時刻 AM7時30分。
」
神楽は、振り返り時計を見た。
短針が10時に差し掛かっている。
(彼を助けられなかった…)
悔しさで胸が締め付けられる。
「お姉様…え?」
沈痛な面持ちの響子の前に、ぬっと毛深い太い腕が突き出される。
「わかってるでしょ。情報料!」
「世界の危機なのに必要なのかしら?」
「それとこれとは別」
(ちゃっかりしてますわね)
こんな事もあろうかと、内藤に渡された赤い剣のエンブレムを縫い込んである布袋から金貨を一枚取り出した。
「これでいいでしょ?」
「足りねぇ。裏ギルドをなめてんのか? ここの相場は十倍だ。ちなみにさっきの青汁分も含めて一枚追加だ」
(これが噂のぼったくりバーってやつかしら)
初めて来たライフサーガの金額の相場を知らない響子は、言われるがまま、十一枚の金貨を渡す。
ちなみに金貨十枚あれば一ヶ月はゆうに遊んで暮らせる額である。
まぁ、日本円で請求されたとしても響子は安易に手渡していたであろう。なにせ天下の湯里開発の孫娘である響子にとって、金銭の価値は皆無なのだから。
「とりあえず、目的地は決まったわね。響子、みんなの所に戻るわよ」
「ちょっと待った。お前達、どうやってあの島に渡るつもりだ?」
花音は厳しい剣幕で、ギルドを立ち去ろうとした二人を呼び止める。
「あの島に行くにはクエストをクリアして、最後に手に入れる勇者の証がなければ渡れんぞ」
「は! そんなのなくても船で行けばいいじゃない。船はどこなのよ?」
これだから素人は、というような顔つきで肩をすくめる花音。代わりに倉前が説明する。
「勇者の証はこの大陸を出る為の船を利用する許可証と考えてもらえばいい。どの船乗りも、勇者の証がなければ船に乗せてくれないさ。ちなみに船乗りはNPCだから口車は通じないぜ。勿論、他人から借りたり、偽造も無理だ」
「なら、そのクエストをクリアすればよろしいのでしょう?」
神楽に続いて食って掛かる響子。
「あんた達でも無理だな。クエストの一つに『月下の花の雫』を必要とするモノがある。満月の夜にしか手に入らない貴重なレアアイテムだ。次の満月は一週間後。分かるだろ」
「つまり…あたし達には無理ってこと?」
「Exactly(ご名答)」
暗礁に乗り上げた気分であった。しかし、花音はにこやかに手を差し出す。
「金貨でしょ!」
「わかってるじゃないか。諦めるのはまだ早い。お前達でもあの島を渡る方法が一つだけある」
「な、何よ! あるんじゃない。勿体ぶらずに早く教えてよ」
「『気球』だ」
得意満面な花音の答えに倉前は吹き出した。
「何を言うかと思ったら。あれは希少アイテムで王族しか所持していないレアアイテムの筈だぜ。いくら金を積んでも、NPCから手に入れる事は無理だ」
「ところがどっこいなのよ、倉ちゃん。明日の格闘大会の景品が『気球』なのよ。…お前達、ツイてるな」
大会の概要は、一対一の勝ち抜きトーナメント。
武器の所持は一人につき一つまでと認められているが、魔法やその他のマジックアイテムの禁止。
試合はどちらかが降参、もしくは戦闘不能になるまで続けられる。
生死は問わず。
「了解っ! 楽しそうっ!」
「あんた死ぬぞ。この大会はゲームであったから成立していたんだ。今の体では間違いなく死ぬ」
倉前は顔を青ざめさせている。彼のいう通り、この大会では毎回のように死者が出ている。前回とは違い、生身の肉体であるプレーヤー達は大多数が棄権していた。
「来るなら来いって感じ。あぁ、楽しみ!」
恋する乙女のように瞳を輝かせる神楽。
「お姉様は一度決めたらとことんまでやり抜きます。もう手遅れですわ。ね、お姉様?」
「Exactly(ご名答)」
二人でウィンクして親指を立てる。
「こいつはヤバい事になってきたな。仕方ないが、あいつにも話は通しておく必要があるな」
倉前は苦虫を噛み潰したような表情で背を向けた。
「あいつ…とは誰ですの?」
「魔道ギルドの宿敵、武闘ギルドのことだ。向かいにもう一つ部屋があっただろ? あそこに武闘ギルドの代表である『閃光のシャイル』っていうのがいるんだが、倉ちゃんとは犬猿の仲でな。主宰はNPCである王だが、初めての大会参加者はシャイルに認められなければならないという掟があるんだ」
迫り来る激闘の予感に、神楽は胸を高鳴らせていた。
レアアイテム『気球』を手に入れる為に大会に出場する事を決めた神楽。
しかし武闘ギルドの長である『閃光のシャイル』の了解を得ねばならなかった。
無事、大会に参加し、優勝を勝ち取る事ができるのか?
次回をお楽しみに。
今回もご覧いただき、ありがとうございました。




