第8話
ちょいと短いです。
「見えたよ」
アイリスが指差す先をみる。そこには木造の家屋が一軒、ポツンと建っていた。
「へえ。なんか良いとこだな」
「そう?」
「うん、なんかこういうとこに住んでみたいなーって思ってた」
「ええーこんな自然ばっかの所なのに?」
「街に住めば良さが分かるよ」
どうやら森はこの辺りで終わっているようだ。
みると家の横には川が流れており、それに連動して取り付けられた水車が動いている。
アイリスの家は少し丘の上にあるようで、ちょうど村(シルー村だったか?)を見下ろせる位置にあった。
川は村を横切るように長く続いており、それを水路として活用しているのか畑が広がっている。
陽はもうだいぶ落ち、そろそろ村の向こうに沈んでいきそうだ。
うん、やっぱり良い所だ。
「浅葱くーん」
アイリスが呼んでいる。
家の前まで行くと、そこがかなり昔に建てられたものだということが分かる。
木造、それも丸太でできたログハウスなんて、入るのはもちろん見るのも初めてだ。
「さあ、どうぞ」
アイリスが先に入り、俺を招いてくれる。
「お邪魔します」
ついでに、女の子の家に入るのも初めてだったりする。
この世界の家は土足で大丈夫らしい。靴がないから関係ないんだが。
中に入ると、そこは少し広めの空間になっていた。
多分リビング、居間の様な場所なんだろうが、あるのは大きな机と壁際の棚くらいだ。部屋の奥側はキッチンになっているようで、その横にはさらに奥へと続く扉がある。右手側にある扉は多分、外から見えた水車を利用した作業部屋だろうか。
「すぐおじいちゃん呼んでくるから、座ってて」
「ああうん。ありがとう」
アイリスは部屋の壁に取り付けられたランタンの様なものに、明かりを灯していった。
とりあえず座ろう。他人の家はなんだか緊張してしまう。
「おじいちゃーん。ただいまー」
彼女は作業部屋と思われる部屋の扉を開け、中に入っていった。
少し経ち、再び扉が開く。
「今日は随分と遅かったの、、、」
出てきたのは、作業服のようなものを着た初老の男性だった。
「おや、君は・・・」
「彼は浅葱君、例の村で会ったの」
「なるほどあの村で・・・。浅葱君とやら、孫が世話になったようじゃ」
初対面の人に急に頭を下げられるとは。それに俺はむしろ助けてもらったほうだ。
思わず浅葱も立って頭を下げる。
「そんな!むしろ世話になったのは俺の方で。彼女、アイリスには色々と助けてもらったんです」
「おやそうじゃったか。してここへは何用で来られたのかな?」
「えっとそれはですね、おじいさんに色々と話を聞こうと思ったんです」
「ほう、それはどんな用かな」
「ええとですね。まずはその、えっと」
「おじいちゃん!少しは落ち着いて座って話したら?浅葱君も困ってるじゃない」
「いやいや、俺は質問する側だし・・・」
「ほらいいから浅葱君も座って。お茶でも淹れるわ」
「う、うん」
「すまんな浅葱君」
「いえいえ。気にしないで下さい」
「ありがとう。・・・それとな、わしの名前はバルトじゃ。遠慮なく名前で呼んでくれ」
「は、はい。バルトさん」
そう浅葱に告げるとバルトは座ってしまった。
「、、、わしをおじいちゃんと呼んで良いのはアイリスだけじゃ・・・」
何か聞こえた気がするが・・・気のせいだろう。
「はい、どうぞ」
アイリスの入れてくれたお茶は飲んだことのない不思議な味で、、、だがどこか温かく、安心できる味だった。
「じゃあ二人はゆっくり話をしてて。私は夕飯の支度をしてるから」
そう言うと彼女は長い髪を高めの位置で一つにまとめ、エプロンに腕を通した。
うん、かわいい。
「それでは、話を聞こうかのう」
俺は教会で起きたことを全て話した。それから持っていた例の杖、そしてペンダントを机の上に置く。
「なるほど女神像が・・・。少しみせてもらうよ」
バルトがまず持ったのは例の杖。
作業服のポケットから拡大鏡のようなものがついた眼鏡を取り出し、じっくりと見定め始める。
「ふむふむ・・・」
「何か分かりますか?」
「これは魔装じゃ」
「え?」
「だから魔装じゃ」
「魔装?それってアイリスが持ってた魔装銃のことですか?」
「あれは魔装ではあるがその一つというだけじゃ。魔装銃とは、魔素を装填する銃、という意味では無い。銃型の魔装という意味じゃ」
「じゃあ魔装というのは一体・・・」
「お主、この世界の歴史については何か知っておるかの?」
「・・・いえ、何も」
「では少しだけ、話すとするかのう。
この世界には昔、魔法というものがあった。魔法とは、魔素を利用することで起こせる奇跡のこと。少しの火を起こすだけのものから、天変地異を引き起こすものまで多くの魔法があったらしいのう。
子供から老人まで、多くが魔法を使う世界だったのじゃよ。人々は魔法の力を崇め、魔法とともにあったのじゃ。
ある時、とある国が機械の研究を始めた。魔法の力をより身近なものにするためじゃった。実際多くの人々の暮らしはより豊かになったと聞くからのう。最初はその価値が認められていなかった機械の研究じゃったが、優秀な研究者達により次第に発展し、さまざまな恩恵をもたらしたのじゃ。
もともと強大だったその国は、魔法の力に加えて機械の力を手に入れた。そしてその力は多くの兵器に利用されたのじゃ。それが今、魔装と呼ばれるものじゃよ」
「これが、兵器?」
今は机の上に静かに横たわる一本の杖。
傷つく要素なんて一つも無い。どう頑張っても叩いて少し痛がらせることしか出来なさそうである。攻撃力は多分1。
「見た目では分からん。何しろ魔装じゃからな、まずは起動してみることじゃ」
「・・・起動?」
「魔素を流し込むのじゃよ」
「魔素を?」
「そうじゃ。魔装とは魔素を流すことで始めて使えるようになるものじゃからな」
「でも俺、魔素の使い方なんて分かんないです」
「安心せい。これを使えば一発じゃ」
バルトが取り出したのは透明な球体だった。占い師なんかが持っていそうな、あの球体である。
「これは?」
「持ってみれば分かる」
バルトが渡してきたそれを、両手で手に取ってみる。
変化はすぐに起こった。球体の中で光が渦巻き、それと共に感じたのは少しの脱力感。なんだか力が抜ける。
「っ!」
「感じたかの?」
「これは・・・」
「それが魔素じゃ。その球には触れた者の魔素を吸う力がある。これで少しは魔素の扱い方が分かったかの?」
魔素を吸われるって大丈夫なんだろうか・・・。
だが確かに感覚は分かった。この身体から抜けていくものが、魔素なのだと思う。
体内にある、血液の流れと似たような魔素の流れ、その流れの中にこの球を組み込むようなイメージだ。電気の回路なんかに近い。
「さあ、やってみるがよい」
机に置かれた杖に手を添える。
イメージ、イメージを大切にして・・・。
一瞬、刻まれた金の文字が光る。
ガシャン!
最初に、柄が伸びた。
カン!
次に先から矛先が飛び出し、
ジャキン!
最後に刃が開く。
そこにあったのは、一つの槍だった。
槍という表現が正しいのか分からない。先から伸びた刃は剣のようで、刀身は60センチほど。全体の3割ほどの長さを占めているのだ。
恐る恐る手を触れてみる。
質感は杖の時と変わらず、特に違和感は無い。だが・・・
「・・・重い」
重い、杖の時に比べて圧倒的に。
持てないというほどでは無いが、ただ振り回すのにも苦労しそうだ。
「なんとも奇妙じゃのう、その魔装は。いくつか見たことはあるが、形状が変わるものは初めてじゃ。それに重量も変化するとは・・・」
そろそろ俺の前腕筋が悲鳴を上げてきたので、ゆっくりと机に置く。
「ふう。これ、どうやったら戻せるんですか?」
「ふむ、もう一度魔素を流せば元に戻るじゃろう」
再び手を触れ、魔素を流す。
魔装はあっという間に元の姿に、杖に戻った。
「こんなものどうすれば・・・」
「君が持っておれ、護身用にはなるじゃろ」
「護身用?でもこんな物扱えません。それに、俺には必要じゃ無い」
この世界にいるにしろ元の世界に戻るにしろ、俺は安全な街で暮らすつもりだ。これは売って路銀にでもした方がいいだろう。
話を聞いていると、恐らく魔装を開発したのはアルノール帝国だと思う。これだけの物を作れる国だ。恐らく魔物の脅威もほとんど無いだろう。自分から危ない環境に身を置くつもりは無い。
「かといって手放すこともできんぞ、そいつは」
「どうしてですか?」
「魔装は持っているだけで脅威ともなる代物じゃ。悪用するものが現れるかもしれん」
「でも魔装は兵器として生産されてるんですよね?それなら流通することなら普通にあるんじゃ・・・。ん?でもそれならなんであんな廃村にあったんだ?」
おかしい。帝国が堂々と生産しているならば、少しくらい他国に出回っていてもいいはずだ。機械技術は貴重なはずだから、高値で取引されるだろう。
しかしだとすると納得できないことがある。あの廃村に魔装があるのは不自然だ。それも石像の一部として。
「・・・先ほどの話の続きをしようかのう」
この話の投稿前に7話までの表現方法を少し変えてあります。なのでここから書き方が少し変わるかもしれません。