第7話
めんどくさいのでサブタイトル全部変えます。
「おい、だからどうしたん」
「いいから。黙ってて」
「・・・」
彼女、アイリスは冷たく浅葱にそう告げると、再び周囲に意識を集中し始めた。
俺はといえば、わけもわからず木の陰に座っているだけ。
はあ、一体どうしたものか・・・。
話は少し前に戻る、、、
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「アイリスの住んでるところはここから近いのか?」
「んーもう少し歩くかな。一応シルー村ってところだよ」
こちらに来てから2時間ほど経つ。
現在俺は隣を歩く少女、アイリスとともに彼女の家に向かっている最中だ。
「一応?」
「おじいちゃんはちょっと人見知りなの。だから郊外に住んでるんだ」
郊外・・・村なんてどこも郊外のような気もするが、多分ほかの家から離れてるって意味なんだろう。
「そういやあの村に向かってる時、煙みたいなのを見かけたんだが・・・」
「ああそれ私だよ。お昼休憩してたんだ」
「やっぱりそうだったのか。・・・それにしても一人で火が起こせるなんて凄いな。なんかたくましい」
「別に普通じゃないかな。あと、たくましいって微妙に褒め言葉になってないよ」
「そうか?一応褒めたつもりだったんだが」
「浅葱君ってそういうのは分かんない人なんだね・・・」
「むむ、じゃあ・・・根性ある!」
「もっと直接的になっちゃってるよ!」
「なんでだよ、ストレートで良いじゃないか」
「だからそういうことじゃ・・・まあ悪気は無いんだよね」
「?当たり前だろ」
ふむ、さっぱり分からん。やっぱり異世界人は独特な感性を持ってるんだな。
そんな適当な会話をしながら浅葱たちは歩いていく。
彼女は意外と話しやすく、何にでも答えてくれた。
異世界間では文化の違いもあるんだろうが、こういう部分では苦労をしなくてすみそうだ。
ちなみに彼女は17歳らしい。
今の時間帯は午後。太陽は沈み始めているように見える。
彼女の様子からして暗くなる前には着くんだろうが、やっぱり初めての土地というのは少し不安になってしまう。
ここは森であって山ではないが、それでも正式な道があるわけではない。もちろん足場が悪いところもあるので、例の杖もいよいよ杖らしくなってきたところだ。
獣なんかが出てきたらひとたまりもなさそ、、、
ウオオオオオオオオオオオン!!
・・・まじか。
まあ、思わず足は止まるな、怖いし。
アイリスを見ると彼女も足を止めている。この世界の住人とはいえ、やはり正体不明の生き物のは怖いんだな。
「なあアイリス。ちょっと急いだ方がいいんじ」
「浅葱君、こっち!」
突然手を引かれる。
ああー彼女って意外と手の力強いんだなー。
っなんて考えてる場合じゃない。
彼女は近くの木の陰に俺を座らせると、自分も隣に座って周囲を見回し始めた。
「ちょっ、いきなりどうしたんだ!」
「ごめんちょっとでいいからここに座ってて。理由はあとで説明するから」
そう言われてしまうと、こちらからはなにも言えなくなってしまう。
明らかに彼女がなにかを心配しているのはわかるので、とりあえずは黙っておこう。
体感で30分ほど経った時だった。
一つの変化に気付いた。何かの臭いがする。
先ほどまでは涼しげな風とともに香っていた森独特の匂い。
だが今はその中に、別な何かの臭いが混じっている。
これは・・・獣の臭いだ。
アイリスを見ると、彼女もそれを感じ取ったのか少し不安げな表情を見せる。
やがて手を伸ばしたのは、例の銃のようなものが収められたホルスター。
額に少しの汗を滲ませながら、それをゆっくりと引き抜いた。
前に言ったおもちゃのようという感想、あれを取り消したいと思う。
彼女の手に握られた銃はとても美しかった。
銃身は浅葱が持つ杖と同じ銀色、グリップ部分は木で作られているようだ。
緩やかな曲線を描く、海賊なんかが使っていそうなそのフォルムは、彼女の細い手によく馴染んでいるようだった。
アイリスは手慣れた様子でトリガーに指をかけると、ゆっくりとそれを構えた。
浅葱も少し木から顔を出し、彼女が意識を向ける方向を確認する。
「来る・・・」
『一体何が?』と聞こうと思ったその時、近くの茂みがかすかに揺れる。
飛び込んできたのは三つの影、だが次の瞬間それは二つになっていた。
多分アイリスが銃で撃ったのだろう。
だろうというのは、俺はその時そんなことを確認している暇は無かったからだ。
影の正体は二匹の獣。
狼のような姿だが明らかに別物だ。何故なら角がある、それも二本。
ともかく俺はかなり驚いた。
「うわあああああああああああああああああああああ!!!!」
情けなく悲鳴をあげた。
「ちょっ、浅葱君!」
一瞬で獲物の位置を把握した二匹は、ご丁寧にも二手に分かれて俺たちに襲いかかってくる。
「がっはっ!」
あっという間に距離は詰められ、浅葱は地面に倒される。
闇雲に例の杖を振り回すが、獣は杖に噛みつきそのまま俺の体にのしかかってきた。
ぐっうう!痛い、、、ヤバイ・・・死ぬ!!
いきなり地面に倒された上に、大型では無いものの一匹の獣にのしかかられた。
あまりの衝撃に意識が飛んでいきそうだ。
「グウウウウ!ガウ!ガガガウ!!」
獣はそんな浅葱の必死な様子をあざ笑うかのように噛み付いてくる。
鳴き声は頭の中全体に響き渡り、体の力が段々と抜けてきた。
ほんとに・・・死ぬ!マズイ、誰か・・・たすけ、、、
急に体全体に掛かっていた力が消えた。
どれくらい経ったか分からない。10秒だったか、100秒だったか。
とにかく俺は解放された。
「浅葱君!!」
アイリスが駆け寄ってくる。
彼女が助けてくれたようだ。手を取って上半身を起こしてくれる。
「大丈夫?」
「うん、大丈夫」
水筒のようなものを渡してくれる。
「ありがとう」
中身は水のようだ。軽く口に含む。
なんだかヒリヒリする。口の中を切ったのかもしれない。
「ごめん、俺のせいで危なかったな・・・」
「気にしないで良いよ、私も奇襲がうまく行くかでいっぱいいっぱいになちゃってたから。もう少しちゃんと伝えておけばよかったね」
「奇襲?」
「私のこれ、銃って言うんだけど遠くから攻撃できる武器なんだ」
そう言って取り出したのは先ほど使っていた銀色の銃。
ん?この言い方だと銃はこの世界では一般的には知られていないのか。てっきり父さんの手紙からそれぐらいの技術力はあると思っていたのだが。
「だから元々奇襲には有利なんだけど、その中でもこれは魔装銃って言うの」
「魔装銃?」
「本当の銃は鉄の塊を撃ち出すらしいんだけど、これは体内の魔素を弾にする銃なのよ」
っ!ついに出てきたか、魔素。どんなものなのか・・・。
「だからこれはとても貴重なもので、本当の銃はもう存在してないらしいわ」
「なるほど・・・。君は物知りなんだな」
「そんな、これ全部おじいちゃんから教えてもらったことなの。魔装銃をくれたのもおじいちゃんだしね。それに、それを言うなら浅葱君の方だよ。こんな話を聞いても少しも驚いてないなんて、やっぱり変な人だね」
アイリスの祖父・・・どうやらかなり物を知っている人らしいな。
「生まれつきそうなんだよ、ほっとけ。というかあんな化け物みたいなやつに奇襲かける奴の方がよっぽど根性あって変だろ」
「だからそれ褒め言葉じゃないって・・・。もう、そんなに元気があるならもう大丈夫そうね、早く行きましょ。日が暮れちゃうわ」
アイリスは再び歩き出す。
あの獣、明らかに普通じゃない。
あんなのがうじゃうじゃいる世界なんだとしたら、かなり俺の予想と違ったものになる。父さんの手紙にもこんなこと書いてなかった。
早めに対抗手段を手に入れないといけない。
まずはアイリスの祖父に会って話を聞こう。そうすれば帝国への行き方なんかも分かるだろうし、そこからこれからのことを考えればいい。
ふと例の杖を見る。
不思議なことに傷ひとつない。噛まれどころが良かったんだろうか。
まあ初めて杖以外の役割を果たせてこいつも喜んでいるだろう。
まだ少し力の抜けた体にムチを打ち、俺は立ち上がった。
もうちょいテンポ良くして会話を増やしたい。