隠し事
この話し、本当は1話に纏める予定だったのですが、長くなるので分けました。
「アレス様、ノア様、そのご学友のお二人さん、ようこそお越しくださいました」
奴隷館の中に入ると、白髪の渋いおじさんが俺達を出迎えてくれた。そして、中には黒いスーツを身にまといサングラスをしている人達、用心棒っぽい人が何人かいる。
外見から分っていた事だが、中はかなり広く、お屋敷と言っても疑問はもたないだろう。
どうやらここは、かなり人気の奴隷館で。一般人から貴族まで様々な人が利用するらしい。
大広間を抜け、こじんまりとはしているが、かなり美しい部屋に通された。
おそらくこの部屋が、お客を対応する場所なのだろう。
「改めまして、ようこそお越しくださいました、オーナーのシュミル・カータと申します。本日は、視察と聞いておりますので。必要な書類は全て纏めてあります。こちらです。どうぞアレス様」
「うん、ありがとう」
シュミルさんから、かなりの数の書類を手渡されるアレス。今日9件回ったが、これほどの数の書類は、ここが初めてだ。
「あのシュミルさん、質問にいっすか?」
「えぇ、どうぞ答えられる事でしたら、お教えします」
アレスが書類を見てる時間は、俺達が暇なので、聞きたい事を聞いていく。
それにしても、この人子供に対してもかなり丁寧な言葉遣いで、何か隠してるのではと思ってしまう。
「たくさんの、奴隷を扱っているこのお店の、大本の契約主は全てシュミルさんなんっすか?」
「ええ、そうですよ。私はかなり魔力がありまして、それなりの人数でも、契約が出来るんです」
確かに、この人の魔力は、かなり多く見える。ステータスで言うなら、魔力-A。位はあるだろう。
奴隷と契約すると、その人数に応じて、少しではあるが魔力を消費しつづけてしまう。普通の人が契約しようとすると、1人でもきついらしい。
「俺からも質問ですけど。ノアとアレスが見ていない別の紙、この料金表についてなんですが。1週間の料金の下に書いている。この料金はなんですか?」
そう言って、ひとつの例を指差す。その奴隷は戦闘奴隷で、1週間契約で、金貨1枚と記入してある。その下には金貨70枚と別で書いてあった。
「そちらはですね、契約ではなく購入金額と言って。その奴隷の大本の契約主を私から、購入者の方に譲る場合の料金です。ちなみに、余計なお世話かもしれませんが。料金は戦闘奴隷、奉仕奴隷、最低奴隷の順で下がっていきます。やはり戦闘奴隷は重宝されるものです」
「では、非合法奴隷は?」
俺が非合法奴隷について聞くと、困ったような顔をする、シュミルさん。アレスとノアも書類から目を放し、シュミルさんの方を見る。
だが別に、非合法奴隷は全てが悪い者ではない事を知っている。国が把握していないだけであって、知ったからと言って、余程のことがない限り口は出さない。まぁこれが国の黒い部分なんだろう。
全てが綺麗事だけでは済まされない。
「お厳しいですね、まぁうちも非合法奴隷は扱ってますが、値段はそうやすやすと決められるものでは、ありません。愛玩用であるならば、我々、商売者側が値を付けるのではなく、購入者側が値を張ることのほうが多かったりします。また、両親がいなくなり、路頭に迷う子などを奴隷として、生活させたりもしますが、その子達には、よっぽどの事がなければ、値はつけませんし、契約させる事もありません。奴隷にでもしないと、生きていけない子供もいるのです」
最後に若干皮肉を混じらせたように言葉を吐くシュミルさん、アレスの方はしてやられた。見たいな顔をしている。
確かに現状。孤児院が足りないと言う話を、母さんから聞かされた事がある。親に捨てられた子もいれば、冒険者だった両親が死んでしまう事もある。その場合孤児院に行くよりも、奴隷になった方がいい事も、あるとか、ないとか。
「そういえば、ここには人間以外の種族の奴隷って居るんすか?」
「いえ。当館には、人間以外の奴隷はございません。つい先日まで、戦闘奴隷で人気だった。龍人の娘が居ましたが、ある方に付いて行ってしまいまして」
「付いていったんすか?買われたんじゃなくて?」
「いえ、その娘は「戦闘奴隷として働くからここに居させてほしい、私より強い人が来たらその人に付いて行く」と言って、当館に自分を売り込んだんですよ。かなりの美形で、凛としている姿から人気があったのですが、「使えるに相応しい人を見つけた」と言って出てって行ってしまいました」
その話を聞いて、珍しい人もいるんだと、素直に驚く。珍しいと言うか、変わった人だ。龍人は見てみたかったけど。居ないのなら残念。
突然、アレスが書類から目を放し、俺と将太を指差す。
「そうだ、シュミルさん、僕とノアはまだしばらく掛かるので、その2人に奴隷館の案内してあげて欲しい」
「畏まりました、ではお2人さん。こちらにどうぞ」
そう言って、俺達は席から立ち上がる。その時アレスから耳打ちで「問題はないと思うが、中の様子を探ってほしい」と頼まれ、頭の隅においておく事にした。
そして、俺と将太、シュミルさんと黒服2名が部屋を出た。
案内と言っても、館の中を1周するだけの事、だが俺達が出てきた1階から、この館は3階まであって、さらに広い。1周するだけでも数十分は掛かる。
ここに居る奴隷は、基本的に部屋を1部屋貸し与えられていて。その部屋と、この屋敷の中で自由に生活している。
だから当然、廊下を歩いていると、いろんな奴隷の人に会って、物珍しそうにこちらを見てくる人や、興味心で気さくに話しかけて来る人もいた。
基本的には、女性率が高く。またオーナーであるシュミルさんが、どれだけ慕われてるのかが、よくわかる。その証拠にして、どんな奴隷でもシュミルさんを見たら、必ず一礼していた。
いよいよ、案内も終わりに近づく。折り返し過ぎて来た2階。一番奥のにたどり着いた時に、俺はその場に立ち止まる。
「おや?どうしました?こちらにはもう何もありませんよ?」
「なぁシュミルさん、貴方さっきこの館には、人間しか居ないって言ってましたよね?」
「えぇ、そうですね」
その瞬間、この場の空気が一気に重くなる。それはまるで、俺にこれ以上の事を言うなと口止めするよな空気。将太は思わずたじろいでいる。
だが俺にその手の威圧は、通用しない。
「ここに入った時から不思議だったんですよ、どうして獣人の気配がするのか、この壁の奥で」
「...」
沈黙は肯定とは、よく言ったものだ。シュミルさんの部下の黒服は、俺達の帰る道を塞ぐ様に立ちはだかり、戦いの構えを取った。
将太もそれに反応して、直ぐに構えを取る。
だが俺とシュミルさんは、同時に構えを止める様に指示する。
「何故気が付いたか、尋ねても?」
「俺の使い魔に獣人が居るんですよ、その気配に凄く似ている。そして、ここはかなり巧妙魔法を施されてますが、魔法で何かを隠した跡があります。なら話は簡単です〈魔法解除〉」
〈魔法解除〉それは、特定の場所に掛けられた魔法を全てなかった事にする魔法。
俺がその魔法を使うと、壁だと思ってた場所には扉が付いていた。
「さぁ中に入りましょうか」
「...分りました」
俺が先導し今までなかった、部屋に入る。隠蔽までしてシュミルさんが隠したかったものとは...
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魔法解説
〈魔法解除〉無属性の初級魔法。基本的には魔法が使える者は全て使える魔法。だがその精度、解除できる魔法は、使用者の魔力量と魔法の錬度によって異なる。
将太「よく気がついたっすね」
シオン「これぐらいの隠蔽なら、余裕で分る」
シュミル「はぁ、これでもかなり念入りにやったのですがね、何者ですか?」




