どうしようもない状況
いよいよ、本当に夏長期休みの合宿編、は終わりになります。
あと5話ぐらい。
「アッハハハ、ほらほらもっと早く動かないと本当に死ぬぞ」
「ッ!」
俺が〈光の審判〉を使ってからどれ位経っただろうか。長い時間経ったような気もするし、まだ数分しか経っていないような気もする。
その間、俺とナフティカの間で激しい攻防が繰り広げられていた。いや攻防ではない、俺の防戦一方だった。
全てにおいて、俺の上を行っているナフティカ。剣を交えた数戟は速さ、力で互角だと思っていたが。直ぐに圧倒されてしまった。
ナフティカの斬撃を
受けて、受け流して、避けて、斬られて
受けて、受け流して、避けて、斬られて
受けて、受け流して、避けて、斬られて
それを繰り返す間に俺はほとんどの感覚を失っていった。
剣を持ってる感覚はなく、斬られても血を流す感覚すらない。
始めの内は斬られた所も、回復魔法で治してはいたが、〈光の審判〉を使った事もあり、ほぼ無限に等しい俺の魔力も、ごっそり減っているいる。しかも常時、〈身体強化〉、〈魔法障壁〉、〈物理障壁〉、〈未来予知〉、その他にも複数の強化魔法を使っているから、魔力は常に消費される。
だから、回復魔法に使う魔力が勿体無くなり、使うのを止めた。
仮に1つでも強化魔法を解けば、確かに別のことに魔力は使えるが、その瞬間俺は死ぬだろう。
「君、なかなか耐えるね~。この力を実戦で使うのは初めてだったけど、ここまで凌がれるとは思ってもなかったよ」
常に余裕そうにニコニコしてるから、ナフティカの言葉が賞賛なのか嫌味なのかもわからない。
だがそんな事を言いながらも、ナフティカは攻撃の手を休める事はなかった。
その剣技は、およそ技と言えるような綺麗なものでなく、荒々しく型などもない。ただ純粋に力と速さで剣を振るっている。
それなのにどこか様になっていて、確実に殺すための剣技に見えてくる。
スパッ
「へぇ~、今のを避けるんだ。確実に首を捉えたと思った思ったんだけど」
〈未来予知〉で首を狙われるのが分かっていて、確かに避けたが...
「シオン!?」
「シオンにぃ!」
「兄さん!」
後ろで見てる3人の悲痛な声が聞こえる。首を狙った攻撃は確かに避けた。でもその速さに追いつけず左腕を持ってかれた。
左腕を落とされ、右手で剣を構え直す。だがその剣先は定まっていない。もう右腕の力も残ってはいないだろう。
だけど、俺は構えを止める訳には、いかない。俺の後ろには守るべき3人がいるから。
そこで、ある魔力に気がつく。
だが俺の一瞬の隙をナフティカが見逃すはずもなく。〔縮地〕で間を詰められて、力任せに剣を振るう。
避けられない事を察して、何とか受け流そうとするが、そんな力、残ってない俺は、受け流しきれず、また体で剣を受ける。
斬りつけられると同時にそのまま吹き飛ばされ、木に打ち付けられる。
(ルリ、キャロ、シャロ。俺に決定打が入った瞬間。この場から逃げろ)
ナフティカと距離が開いた事を利用し、残り少ない魔力で〈テレパシー〉を送った。
(嫌だ、シオンと一緒にここに残る!)
(私はここにいるわ!)
(兄さんと一緒にここに残る、何があっても)
3人共、俺の意見など無視して、ここに残ると言う。こうなるのは分かっていたが、説得なんてしてる時間もない。
フラフラになりながら、剣を地面につき、ようやく立ち上がる。足に力は入らないし、立ってるのもやっとの状況だった。
「なかなか、楽しめたよ。でも、もう飽きたから君を殺して、そこの3人と遊ぶよ」
相変わらず、ニコニコと不気味に笑ってるナフティカ。俺は一矢報いるべく最後の攻撃に転じた。
「ウオォォォォ」
自分を奮い立たせるように声を張り上げ、〔縮地〕で距離を詰める。流石に驚いたのかナフティカも一瞬だけ、その不気味な笑顔を崩した。
首を狙った一点攻撃、そもそもこの化け物が、頭と胴体が別れただけで、死ぬかも分からなかったが、俺にそんな事を考える余裕はなかった。
不意を付いた、攻撃だった。普通なら反応する事はできないだろう。だけど、目の前の化け物は普通じゃない。
俺の剣を、ナフティカは自分の剣で弾き、俺は体制が崩れる。そして
ザシュ
「ゴフゥ」
俺の左胸を、ナフティカの剣が貫いた。何秒か経った後にナフティカは剣を抜くと同時に俺をルリたちがいる方向に蹴り飛ばした。
「君はそのうち死ぬだろう、だけど確実に殺すために、その首は落としていく、だから邪魔をしないでくれるかな」
俺は、もはや動ける状態ではなかった。体の力は入らず、立ち上がることは出来ない。せいぜい首を動かして周りを見る事しか出来ない。そんな俺を庇うようにして、ナフティカの前にルリ達は、立ちはだかった。
「ハァ~、まあいいや。どうせその子は動けないし、先に君達を殺すよ」
「にげ、ろ。さん、にんとも」
俺は声を振り絞り、3人に逃げるように言う。3人は震えている。なのに、一向にそこから動こうとはしなかった。
やれやれ、といった感じでナフティカはゆっくりと近づいてきた。だが、
「〈炎の弓〉」
森の奥から、魔法が放たれる。いきなりの事にナフティカは俺達から距離を取り、魔法が放たれてる場所を見ている。
どうやら間に合ったようだ。
「シオンその傷...」
森の奥から来たのは、俺達の父さんフィンと母さんのミリアだった。
俺の状態を見た母さんは、俺に一言告げた。
「シオン、遅くなったわ、ご苦労様」
母さんは、俺に対して労いの言葉をかけてくれる。謝罪ではなく労いの言葉だ。元から俺は謝罪の言葉なんか、いらないと思っていた。俺がこうなってしまったのは、俺の実力不足だから。だからこそ、母さんはキャロたちを守った事に対する「ご苦労様」なのだと思う。
「お前が何者かは、分からないけど、僕達の大事な息子をこんな風にしてくれたんだ、ただでは、おかない」
「そうね、貴方には勝てないかもしれないけど、恐怖ってものを教えてあげるわ」
そして、父さんと母さんは、ナフティカの前に立ち武器を構える。いつでも仕掛けられるようにと。
「ふーん、その子の親か。いいね親子愛。反吐が出そうだよ」
父さん達とナフティカは互いに見つめ合っている。
そんな中、ルリが俺に駆け寄って来る。
「ごめん な。ルリ もっと きみといっ しょに いた かった」
「ねぇ、嘘でしょ。何を言ってるのシオン。ダメだよ眠っちゃ、起きてよ。起きてよ!」
せっかくの可愛い顔なのに、涙で台無しだ。その涙を拭ってあげたいけど、もう腕は動かない。
ルリの涙が、俺の顔にあたり。感覚はなくなってるはずなのに、妙に暖かいと感じた。
そして俺はそのまま瞼を閉じた。
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魔法解説
〈炎の弓〉炎属性の中級魔法。矢の形をした、炎が相手に向かって跳んでいく。他の魔法と組み合わせる事によって、追尾性などを付与する事も可能。
キャロ「そんな、シオンにぃが...」
シャロ「兄さん、どうして」




