封印を解きし者
「あっれ~、生き残りがいるぞ~」
「ワレノ、シモベヲ、ホフッタノハ、ナンジラカ」
Aクラスの生徒を助け終わったと思ったら、森の中から知らない男と、1匹の魔物が現れた。
男は細身で長身の人間のように見える。魔物は頭がライオン、胴体は羊のようなもので、尻尾に毒々しい蛇がいる。おそらくキマイラと呼ばれる生物だろう。
俺は目にした瞬間に〔完全鑑定〕を発動させる。
鑑定結果
名前 ナフティカ
種族 半人間、半魔物
討伐ランク 鑑定不能
魔物の説明 元々のベースは人間である事は間違いないが、魔物になった理由は不明。ステータス未知数、能力未知数。まさに未知の相手。今のままでは、勝てる可能性はないに等しい。
その他 邪神の使い
鑑定結果
魔物名【死を呼ぶ混合種】
種族 不明
討伐ランク SSS
魔物の説明 【混合種】の異常種。普通の【混合種】はこのようには進化しない。部分ごとに違った動物が混ざっていて、頭のライオンはどんな物でも砕く強靭な顎をもち、胴体部分の羊は、その特殊な毛皮により、魔法、物理をほとんど無効にする。尻尾の毒蛇は予測不可能な動きをしてきて。嚙まれれば強力な毒が全身に回り、数分で絶命する。また、異常なまでの再生能力を有しており、一撃で屠らなければ、復活してしまう。
ナフティカによって封印から開放された。
「アレス、ノア。Aクラスの生徒を連れて逃げろ。フォルテ先生に伝えてくれ。この森から逃げるように」
「シオン、どうする気だ」
「シオン君、君が残るなら私も」
「黙って、逃げろ。お前達じゃ足手まといだ。ここに居られると全力が出せない」
俺は目の前にいる。2つの生物から目を離すことなく。アレス達に指示をする。
【死を呼ぶ混合種】この魔物が封印されてた魔物で間違えないだろう。
鑑定結果からわかる様にいかにも、ヤバイ感が伝わってくるが。問題はこっちじゃない。
ナフティカというこの男性。見るだけなら無害そうに見えるのだが。俺の細胞全てがこの場から逃げろと警告している。この男はとっくに人間なんて止めた。別の生物だ。
「逃げても無駄だよ、どうせ全員殺すし」
ニコニコと俺達の様子を見ているナフティカ。普段なら先手必勝で攻撃を仕掛けるが、今はどうやっても俺の攻撃が届く未来が見えない。
だけど、時間を稼がないといけないのは事実だった。
「将太、リティスさん。今すぐフェータに戻って、精霊達を逃がす準備をしてくれ。準備が出来たらそのまま王都に逃げてくれ。ベルとヘラはその護衛に付け」
将太達は何も言わない。その代わりに一度大きく頷いて直ぐに行動に出た。その姿を見たアレス達も、ようやく腹をくくったのか、Aクラスの生徒をこの場から離れさせた。
そしてこの場に残ったのは、俺とルリ、キャロ、シャロ、そしてナフティカと【死を呼ぶ混合種】だけになった。
「ねぇ、君」
不意にナフティカが俺を指差しながら話しかけてくる。相変わらずニコニコ笑顔で若干気味が悪い。
「多分、君はあの中で強い人間なんだろ?そして慕われてる。ぼくね、そういう人間が大っ嫌いなんだ。そういう人間は真正面から、正々堂々殺した方が気持ちいい。だからね、君とぼくで1対1をしよう。命を懸けた、ルールなんてない殺し合いさ」
最後の言葉を言い終わると同時に口角をにやりと上げ、先ほどまでとは違う。恐ろしい笑みを浮かべた。だが戦う前から俺とナフティカの差は実力はハッキリしている。でも退くに退けない。
「わかった、その殺し合い、受けよう」
「シオン!!」
「馬鹿じゃないのシオンにぃ!」
「ダメだよ、逃げようよ~」
俺の暴挙を必死に止めようとしてくれる3人。だけどこの場であの化け物と少しでも、殺し合えるのは、俺だけだ。なら俺がやるしかない。
「覚悟を決めたんだね、いいよ先手は譲ろう。どんな攻撃でも一撃は無防備で受けてあげる」
そう言いながら奴は、1本の剣を取り出し。構えもせず棒立ちで待っていた。
その間に、自分に掛けられる、支援魔法を掛けて、シャロからも掛けて貰った。
ここまでしたのは初めてで、この状態なら過去最高威力の攻撃が出来そうだ。
数ある攻撃の選択肢の中で俺が選ぶのは1つ。俺の得意魔法で最大魔法の〈光の審判〉だ。そして今回は今まで嫌ってきた詠唱を行う。
本来、詠唱はする事によって魔力精度を高められて、威力を跳ね上げる事ができるのだが、魔法が強力になるにつれて、詠唱時間も長くなる。普通であれば詠唱する時間があるなら、他の魔法を複数回に分けて使用したほうが良い。そのほうが一撃必殺みたいな賭けにならないし、外れた時のリスクも少ないから。
だが今回は別だ。時間を気にしないで詠唱が出来。ただでさえ強力な魔法〈光の審判〉の威力を倍以上には出来る。〈光の審判〉は威力を数値化できるよう魔法ではないが、その効果は倍になると言ってもいい。
「我が名はシオン、この身を持って、最高級の光を使用する。――――」
俺はたっぷり5分以上掛けて魔法の詠唱を行った。その間ナフティカは何もしてこないし、【死を呼ぶ混合種】は眠そうにしている。もうそろそろ、俺の詠唱も終わりそうだった。
「――――、闇を払い、悪を裁く。この光こそが正義なり。穿て〈光の審判〉!!」
いつにも増して、強力な光が辺りを包む。過去最大の手応えはあった。
「やったかしら!?」
「あ...」
キャロが咄嗟に言った言葉に俺は反応した。これはわかる。フラグという奴だ。
だが、今のでかなり魔力も使ってしまったし、消滅しててくれればいいのだが...
「ふぅ、ちょっと焦ったよ。でも残念だね、ここからが本番と言う事で。やろうか」
案の定ナフティカは消えておらず。キマイラも何もなかったかのような顔をしていた。
流石にやばい状況に、俺の焦燥感は積もる一方だった。
ミリア「何か嫌な予感がする」
フィン「奇遇だね、僕もだよ」




