余裕をかましてた奴をぶっ飛ばす
前回に続いて、アギラードさんとの決闘途中です。
「すごいです!」
「これは...」
それはベルとヘラからすれば、ありえない光景だった。
自分達からすれば、上司で、絶対的強者に、学園のクラスメイトで、同じ年齢の子が優勢を取ってる事実は2人にとって衝撃的なのだ。
「2人共、見えてるの?」
「全然見えないです!」
「むしろルリ様は見えてるのですか?」
「まぁ、私はね」
あまりの早すぎる攻防にベルとヘラは付いていけてはいない。だけどその衝撃とかすかに見えるものだけで、その戦いが凄い事は2人にも分かるのだ。
それに対してルリは完全に見えいる。シオンの動きもアギラードの動きも。伊達に日ごろからシオンと模擬戦をやってる訳ではない。
「これは勝負あったわね」
ルリは、ぼそりとシオンの勝利をつぶやくのだった。
「くそ!さっきまで手を抜いていたのか?!」
俺が〈身体強化〉を使用してから5分、アギラードさんはどんどん俺の動きに呑まれて行った。
流石の俺も、分身の数が10を越えると思ってはいなかったが、それでも明らかに俺の速度の方が速い。
厄介な事に、この分身はステータスが元より低くなることがないのだ。つまり全部の分身がアギラードさん本体と同じ力を持っている。
分身はただの分身ではない、分身に痛覚はなく、分身を攻撃したところで、アギラードさん自身には何も影響がないのだ。
一番厄介なのが、仮に本体に攻撃できたとしても、アギラードさんは分身に魂を移すことができて、その分身を本体にすることができるのだ。
「はぁ、キリがないな」
「ハァハァ、化け物が」
形勢が逆転して余裕な俺に対し、魂を移しすぎた事によって疲れているアギラードさん。魂の移動もデメリットがないわけではない、魔力は消費するし、精神的にも疲れが来るのだろう。
そもそも、魂の移動なんて事ができる人は、滅多にいない。それだけアギラードさんが凄い人だってことがわかる。
だけど...
「もう終わりにしましょう、流石に面倒くさくなりました」
「いいや、まだだ。確かに君は化け物じみた力を持ってはいるが、私を倒す決定打はない。私の負けは見えているが、もう少し付き合ってもらぞ!」
そういって複数の分身と本体の、計10人が攻撃を仕掛けてくる。
一見すれば、本体がどれなのか分からないが、この攻防を繰り返して1つ分かったことがある。
それは複数攻撃をする時に必ず本体は死角から仕掛てくる事。
アギラードさんは気づかれてないと思ってるようだが、俺はそれに気が付いている。だが問題は仮に本体が分かったとしても、俺が攻撃しようとする瞬間に魂が移動してしまう事。だがそれもある魔法で解決できかもと思った。
それは...
「〈魂の固定〉」
「!?!?」
案の定本体は死角にいて、俺の魔法に驚き硬直した。
俺は、その一瞬を見逃さず、〔縮地〕で本体に近づき、剣を左手に持ち替え、顎めがけて右フックを打ち込んだ。
アギラードさんは左手に持たれた剣の方に意識が集中しすぎて、俺の右フックに気が付くのが遅れ反応できなかった。
俺の右フックは綺麗に入り、アギラードさんは倒れる。
倒しただけで、意識はあり、立ち上がろうとするがうまく立ち上がれなかった。
「何故だ、何故立ち上がれない」
必死に立ち上がろうとするアギラードさん、だがその行動も意味はなく、俺は剣をアギラードさんの首筋に沿わせるようにして置いた。
「これで僕の勝ちです、どうですか認めてくれますか」
圧倒的状況に立ち上がることも止めたアギラードさんは、両手を上に上げて、降参宣言をした。
「わかった、シオン君、君の勝ちだ。君の事を認めよう」
その宣言を聞いて、俺は直ぐに回復魔法をかけてあげる。そして何事もなかったかのように、アギラードさんはすんなり立ち上がった。
「1ついいかな、確かに綺麗に右フックをもらってしまったが。その後どうして私は立ち上がれなかったんだ?」
「それはですね、脳震盪ってやつですよ。俺も詳しくは分かりませんが、脳に強い衝撃が伝わる事によって、力が入らなくなる事だったと思います。だから意識はあるのに立ち上がれなかったんですよ、たぶん」
正直、脳震盪なんてどんな物なのかは、詳しく知らなかった。そもそも人間以外に効くかも怪しかったが、魔族には効く事がこれでわかった。
「改めて言おう、君は私の予想以上の子だ。正直私が君に負けるとは思ってもいなかった。10分を過ぎた時に私が止めようとしたのに、止めなくてその時は、君の正気を疑ったが、ここまでの実力差を見せ付けられたら、私に何かを言う権利はないな」
アギラードさんは、どこか清清しい様な表情で俺に告げた。
実力差と言っていたが、アギラードさんもだいぶやばい部類には、入っていると思う。
「シオン君、ルリ様の事よろしく頼む。それと、ベル、ヘラ、お前達は今日を持ってルリ様の護衛任務を終了とする。だがこれからもルリ様のお傍にはいろ。そして何かあれば、シオン君とルリ様の力になれ、以上だ。帰るぞ2人とも」
「はいです!」
「わかりました」
こうして俺は正式にアギラードさんに認められた。
そして、訓練場には俺とルリの2人が残ってしまった。
「なぁ、ルリ。今後も、もしかしたら俺は、魔族に認められないかもしれない。けど必ず、俺の力で他の奴にも認めさせるから。これからも付き合ってくれるか?」
「うん、私はシオンにずっと付いていく。これからもよろしくね」
最高の笑顔で俺に答えてくれえるルリ。この笑顔の為なら俺はどんな事でもできる気がした。
そして俺達は手を繋ぎながら、2人仲良く家まで帰宅して行った。
シオン「ルリ、愛してる」
ルリ「うん、私も」




